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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年9月

2010年9月21日 (火)

ハーツクライ固め打ち

種牡馬に関する先週の話題といえばハーツクライの固め打ちでしょう。野路菊S(OP)のワン・ツー・フィニッシュを含めて〔3・3・0・3〕という成績でした。全盛期のイチローを思わせる猛打ぶりです。

サンデー系種牡馬が初年度にどのような成績を残したか、秋の中央開催2週目終了時点で比べてみます。サンプルが4頭だけなのは、これらがほかのサンデー系種牡馬と比べて別格といえる成績だからです。

                   勝率 連対率 複勝率(%)
サンデーサイレンス〔13・6・6・6〕 41.9  61.3  80.6
アグネスタキオン 〔13・8・6・24〕 25.5  41.2  52.9
ディープインパクト〔10・5・7・16〕 26.3  39.5  57.9
ハーツクライ   〔9・7・3・11〕 30.0  53.3  63.3

勝率、連対率、複勝率、いずれにおいてもサンデーサイレンスが圧勝しています。これは当然でしょう。サンデーサイレンスがデビューした当時、ライバルとなるサンデー系種牡馬はいなかったのですから。

ハーツクライは各部門でサンデーサイレンスに次ぐ第2位。サンデーを父に持つ種牡馬ではナンバーワン、ということになります。ただ、2歳のこの時期は週によって成績に波があるので、調子のいい週もあれば悪い週もあります。ハーツクライとディープインパクトについては、これから毎週上がったり下がったりするでしょう。この2頭はいずれリーディングサイアーを争う種牡馬になると思います。

ハーツクライはどう考えても早熟タイプではないので、この成績が一過性のものであるとは考えづらいところです。クラシック向きのスタミナ、底力も持ち合わせているでしょう。

どの距離でもまんべんなく走るところがセールスポイントなのですが、とくに芝1800mでは〔5・2・1・4〕で連対率58.3%。この距離では逆らえません。ウインバリアシオンが楽勝した野路菊S(芝1800m)を見ると、2400mではさらに強いのではないかというイメージが湧いてきます。

いまのところ“母に Northern Dancer の強いクロスを持つ馬”が目立ちます。ウインバリアシオンは2×4。マリアビスティーは2×4。メイショウナルトは3×4。そして、全体的にちょっと硬いかなと思うような血統のほうがいいですね。こうした特長はマンハッタンカフェとよく似ています。ウインバリアシオンの母は「Storm Bird×Time for a Change」ですから、ちょっと日本向きとはいえないような血統です。それをジャパナイズして走らせてしまう力業は非凡ですね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103206/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103221/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008101384/

2010年9月20日 (月)

Spectacular Bid のウォークオーヴァーからちょうど30年

アメリカ競馬史における名勝負は数多いのですが、なかには“勝負”にならなかったレースもあります。

1980年9月20日、米ニューヨーク州ベルモントパーク。メインレースとして組まれたウッドワードS(G1・ダ9f)の出走馬はたった1頭、Spectacular Bid のみでした。強すぎるチャンピオンに恐れをなして他馬が出走してこなかったのです。
http://www.youtube.com/watch?v=NcbHpy61bTk

ウォークオーヴァーとは単走競馬のこと。これ以降、G1レースの単走はなく、おそらく今後もないでしょう。Spectacular Bid の通算成績は30戦26勝、G1を14勝しています。明らかに普通の馬ではありません。
http://ahonoora.web.fc2.com/spectacular_bid.html

ダート10ハロンのチャールズHストラブS(G1)では、1分57秒8という世界レコードを樹立しました。このタイムはいまだに更新されることなく残っています。
http://www.youtube.com/watch?v=wDbOyu5tTF4

70年代のアメリカ競馬は名馬の宝庫です。後半は2年連続で三冠馬が誕生し、その翌年に Spectacular Bid が二冠を達成しました。

77年 Seattle Slew(三冠)
78年 Affirmed(三冠)
79年 Spectacular Bid(二冠)

Spectacular Bid は79年のベルモントS(G1)で3着に敗れ、三冠を逸しました。しかし、だからといって Seattle Slew や Affirmed よりも評価が劣っているわけではありません。ブラッドホースパブリケーションズ社が刊行した『Thoroughbred Champions:Top 100 U.S. Racehorses of the 20th Century』という本では、20世紀のアメリカ馬のなかで10位にランクされ、9位の Seattle Slew、12位の Affirmed とほぼ同格という扱いです。

Spectacular Bid は Bold Ruler 系に属し、To Market 3×3という強いクロスを持ちます。
http://www.pedigreequery.com/spectacular+bid

父 Bold Bidder はすでに Cannonade というケンタッキーダービー馬を出していました。Bold Bidder の子で日本に入ったワイルドウインター、オランテ、レックスレンジャーといった種牡馬はすべて失敗。むしろ Bold Bidder の全妹ディープディーンの牝系からギャロップダイナ(天皇賞・秋、安田記念)が出たことのほうが重要です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1980101941/

伝説のウォークオーヴァーを最後に現役を退いた Spectacular Bid は、巨額のシンジケートが組まれて種牡馬入りしました。しかし、残念ながら大失敗に終わります。

サンデーサイレンスの種牡馬シンジケートを当初アメリカで組もうとしたとき、生産者のあいだでまったく不人気だったのは、先に種牡馬入りしていた Sunny's Halo と Devil's Bag(いずれも Halo 産駒)が不振だったから、という話があります。私はもうひとつ、Spectacular Bid の母の父 Promised Land がサンデーサイレンスの母の父の父であることも理由だったのではないかと睨んでいます。サンデーサイレンスの血統表のなかにある Promised Land を見て、Spectacular Bid の大失敗を連想した生産者も少なくなかったのではないか――と。

もし仮に Spectacular Bid が成功していたら、サンデーサイレンスは日本に入っていなかったかもしれません。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a00033a/

2010年9月19日 (日)

日曜日の東西重賞

■セントライト記念(G2・芝2200m)は後方追走の△クォークスター(4番人気)が差し切り勝ち。△ヤマニンエルブ(3番人気)の大逃げでレースが前後ふたつに分かれてしまい、ヤマニンは粘り勝負、後続馬群は切れ味勝負でした。

中山芝2200mのコース適性について、昨日のエントリーで「アグネスタキオンはイマイチ」と書いたのですが、クォークスターはそのアグネスタキオン産駒。見事にやられました。

大逃げを打ったヤマニンエルブはハイペースでしたが、2番手以下はスロー。クォークスターの上がり3ハロンは34秒0でした。このコースでこの上がりはちょっと記憶にないので、「TARGET frontier JV」で調べてみたところ歴代1位タイの数字でした。切れ味の有無が勝敗を分ける流れだったので、アグネスタキオン産駒が台頭したのだと思います。

2着に粘ったヤマニンエルブは、母方に Sadler's Wells が入るサッカーボーイ産駒ですから、逆に切れ味勝負になると苦しくなります。持ち前のスタミナを活かし、速めのペースで行って後続になし崩しに脚を使わせることでしか活路は開けません。満点の騎乗だったと思います。こういう馬がいると長距離戦が楽しくなりますね。菊花賞では勝っても負けても速いペースで引っ張ってくれそうなので、今年は本格的なスタミナが問われる中身の濃いレースになりそうです。

◎ゲシュタルト(1番人気)は4コーナーで早くも一杯。「休み明けで、馬もまだ本調子にはなっていなかった」 (ラジオNIKKEI競馬実況web)と池添騎手がコメントしました。

■ローズS(G2・芝1800m)はアニメイトバイオ(4番人気)が馬群を割って抜け出しました。「母の父フレンチデピュティ」は優秀で、とくにサンデー系とは合うような気がします。

◎エーシンリターンズ(5番人気)が3着に粘り、3連単を軸1頭流しのマルチでいろいろ勝っていたので、19万馬券が当たったものと思ってニコニコしていたのですが、よく調べてみたらアニメイトバイオが抜けていました(笑)。

○アパパネ(1番人気)の24キロ増はさすがに太かったですね。前半気負って走っていました。典型的なトライアルの走りといっていいでしょう。ただ、早熟馬ソルティビッドの子ですから、体は増えていても能力的な上積みはそれほどないのでは……という可能性も多少は考えておいたほうがいいかもしれません。

2010年9月18日 (土)

中山芝2200mで買える血、買えない血

長年馬券を買っている方ならお分かりだと思いますが、中山芝2200mはスタミナが必要です。中山コースではマイラーが芝2000mをカバーできても、芝2200mとなると苦しいですね。ちょうど東京芝2400mと芝2500mのようなもので、距離はたいして違わないけれど必要とされるスタミナには明確な違いがあります。

私が最初に中山芝2200m向きの血統として意識したのは Herbager でした。これはフランスのステイヤー血統で、かの地でリーディングサイアーとなり、のちにアメリカへ渡ってからも成功しました。

日本には70年代にシーホーク、コインドシルバーといった種牡馬が輸入されました。とくにシーホークは優秀で、日本ダービーを勝ったウイナーズサークルとアイネスフウジンのほか、天皇賞・春を勝ったモンテプリンスとモンテファストの兄弟など、多くの活躍馬を送り出しました。

これらの子は中山芝2200mの重賞でよく活躍しました。

80年 セントライト記念① モンテプリンス(父シーホーク)
83年 オールカマー②   ビンゴカンタ(父コインドシルバー)
86年 アメリカJCC①  スダホーク(父シーホーク)
    オールカマー①   ジュサブロー(父シーホーク)
       〃   ③   テツノカチドキ(父コインドシルバー)
    セントライト記念② アサヒエンペラー(父コインドシルバー)
88年 アメリカJCC②  キタノイチジョー(父シーホーク)

Herbager 系はスタミナ抜群です。その一方で瞬発力はイマイチ。もしモンテプリンスに切れ味があればダービーをはじめいくつもの大レースをモノにしていたでしょう。アサヒエンペラーなどもジリ脚でしたね。

中山芝2200mを得意とするのはこういう血です。切れ味よりも粘り合いのタフなレースに強いタイプです。

今年のセントライト記念に出走馬を送り込んだ父馬の、中山芝2200mの連対率を並べてみます。

Galileo       66.7%
キングカメハメハ  26.3%
マンハッタンカフェ 24.2%
シンボリクリスエス 25.0%
グラスワンダー   19.2%
サッカーボーイ   17.6%
ダンスインザダーク 14.6%
フレンチデピュティ 14.3%
アグネスタキオン  14.0%
ゼンノロブロイ   出走歴なし

トップの Galileo は出走歴が3回(2連対)しかないのでサンプル不足。ただ、得意としていることは確かでしょう。その下のキングカメハメハ、マンハッタンカフェ、シンボリクリスエスは胸を張れる成績です。グラスワンダーとサッカーボーイはまずまず。ダンスインザダーク、フレンチデピュティ、アグネスタキオンはイマイチです。とくにアグネスタキオンは全体の連対率が高い種牡馬なので落ち込みが目立ちます。

中山のスタミナ戦では、Sadler's Wells、Roberto、Ribot 系といった血が頼りになるので、それらを持った馬を重く見たいところです。前述の Galileo も Sadler's Wells 系です。

2010年9月17日 (金)

ディープインパクトとハーツクライの中間決算(後)

ディープインパクトもハーツクライも、夏のローカル向きとは思えないので、秋シーズンが深まるにつれてますます味が出てくるでしょう。昨年のゼンノロブロイ、一昨年のネオユニヴァースもそうでした。

『競馬王』9月号の「POG羅針盤」にディープインパクトについて次のように記しました。

「ディープインパクト産駒は総じてスタートダッシュがイマイチで、終いの脚で勝負するものが目に付く。気性的にカリカリするところもない。したがって、ローカルの短距離戦に向いたタイプではないのは明らかだ。マイル以上のゆったりした距離が合うだろうし、末脚の威力を活かすには直線の長いコースのほうがいい。舞台が中央場所に移ってから本領を発揮するタイプだろう。秋が来れば新馬戦や未勝利戦はもちろん、特別戦や重賞でもディープインパクト旋風が吹き荒れるものと思われる。」

ファーストクロップの2歳戦勝利数記録は、94年にサンデーサイレンスが樹立した30勝。あと4ヵ月の頑張りでこの記録にどこまで迫れるか注目です。

ディープインパクト産駒の配合で意外だったのは、Lyphard クロスを持つ馬が頑張っていること。事前の見立てではネガティヴに考えていたのですが、現時点で勝ち上がった9頭中3頭がこのクロスを持っています。先週土曜日の中山新馬戦(芝1600m)を勝ち上がったディープサウンドはモノが違うというレースぶりでした。
http://www.youtube.com/watch?v=DV_Oj2ueZxM

また、来週日曜日に阪神でデビュー予定のスマートロビンも Lyphard クロス馬。稽古で素晴らしい動きを見せています。このクロスを持つ馬がトップクラスで通用するかどうかの判断は現時点では保留するとして、少なくとも新馬・未勝利戦レベルでは問題なく走りますね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008100685/

今週日曜日の阪神5R新馬戦(芝1800m)はハイレベルなメンバーが揃いました。主な出走馬は以下のとおり。

ヴァレノーヴァ(父アグネスタキオン)
ヴィジャイ(父ディープインパクト)
サトノパンサー(父キングカメハメハ)
ビップセレブアイ(父ゼンノロブロイ)
リフトザウイングス(父ハーツクライ)
レッドデイヴィス(父アグネスタキオン)

間違いなく4回阪神開催の目玉といえる新馬戦です。ディープ産駒のヴィジャイとハーツ産駒のリフトザウイングスは人気を背負うでしょう。しかし、他の馬のレベルも高いので、どれが勝っても不思議はありません。おもしろいレースになりそうです。

2010年9月16日 (木)

ディープインパクトとハーツクライの中間決算(前)

ディープインパクトは期待が大きすぎるので、並の成功では許してもらえそうにありません。ただ、いまのところ産駒の走りは上出来でしょう。JRA2歳種牡馬ランキングではフジキセキに次ぐ第2位。勝利数でも第2位です。新種牡馬ランキングではいずれもトップ。

総じてサンデー系の種牡馬は、初年度産駒がデビューしたその年に、夏のローカルからガンガン走るということはありません。例外はアグネスタキオンぐらいです。

主なサンデー系種牡馬の初年度産駒が、秋の中央開催の第1週終了時点でどれだけ勝ち星を挙げていたか、その数を書き出してみます。

11勝 アグネスタキオン(05年)
 9勝 ディープインパクト(10年)
 6勝 アドマイヤベガ(04年)
  〃  ハーツクライ(10年)
 4勝 フジキセキ(98年)
  〃  ネオユニヴァース(08年)
 3勝 スペシャルウィーク(03年)
  〃  マンハッタンカフェ(06年)
  〃  ゼンノロブロイ(09年)
 2勝 ダンスインザダーク(00年)
 1勝 ステイゴールド(05年)

ちなみに、サンデーサイレンス自身は12勝(94年)です。ディープインパクトはアグネスタキオンに次ぐ9勝ですから優れた成績といえるでしょう。ハーツクライの6勝もいいですね。この2頭はやがてリーディングサイアー争いに加わってくるはずです。

ハーツクライは現在、〔6.4.3.8〕という成績で、連対率47.6%、複勝率61.9%。これはディープインパクトの数字(連対率40.0%、複勝率57.1%)を上回っています。内容が濃いですね。産駒の粒も揃っているように思います。

今週土曜日に阪神競馬場で行われる野路菊S(OP・芝1800m)には、メイショウナルト、ウインバリアシオンという2頭のハーツクライ産駒が出走します。おそらく1、2番人気でしょう。3番人気と思われるのがディープインパクト産駒のモスカートローザ。熱い戦いとなりそうです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008101384/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103206/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103387/

2010年9月15日 (水)

『吉田善哉 倖せなる巨人』

昨日のエントリーで吉田善哉について記しました。『血と知と地』を取り上げたのですが、もう一冊、忘れてならないのが『吉田善哉 倖せなる巨人』(木村幸治著・徳間書店)です。善哉だけでなく3人の息子たち(照哉、勝己、晴哉)の姿も丹念に描かれており、また血統に関する話題も豊富です。いいお仕事をされているなぁと感心させられる傑作です。

病魔に冒され、自らの死期を悟った吉田善哉は、部下に命令を出します。その部分を引用します。

~~~~~~~~~~~

少しずつ善哉はロッジでの生活に慣れていき、七月も終わりが近づいた。
「おばさん、獣医の角田に来いと伝えろや」
角田が来た。
「おい、シンボリの和田(共弘)と連絡を取れ」
「で、どうするんですか?」
「おまえ、ぼんくらか?」
「はい?」
「シンボリの和田と、この俺が一緒だとほかにすることがあるのか?」
「すると?」
「一緒に、和田と馬が見てえんだよ、和田さんとじっくり馬が見たいんだ。来いと、お前から伝えろ」
角田は心の震えを覚えた。
吉田善哉が、長い馬産家人生のなかで、同じ世界で馬づくりをし、いちばん何かを感じてきた日本人が、和田共弘であったということを、いま知らされた気がしたからだ。(304頁)

~~~~~~~~~~~

和田共弘は吉田善哉の1歳年下で、スピードシンボリ、メジロアサマ、サクラショウリ、シンボリルドルフ、シリウスシンボリの生産者です。

両者とも妥協知らずの強烈な個性の持ち主ですから、その関係は必ずしも良好とはいえなかったと聞きます。対抗心もあったでしょう。しかしながら、死期が迫ったとき、吉田善哉が一番会いたいと願った人物は、ほかならぬ和田共弘だったのです。このエピソードは心を打ちますね。

残念ながら吉田善哉の希望は叶いませんでした。和田と会うことなく半月後の93年8月13日に死去。72年の生涯でした。

Amazon で検索してクリックすれば、こんな良書が安価で手に入るのですからいい時代になったものです。中古品が193円より出品されています。

2010年9月14日 (火)

消えた種牡馬ボアドグラース

1955年に吉田善哉は社台牧場から独立し、社台ファームを設立しました。場所は千葉県、繁殖牝馬はわずか8頭でした。ここから日本一の大牧場に育て上げていくサクセスストーリーは『血と知と地』(吉川良著・ミデアム出版社)に詳しく描かれています。社台グループについて興味のある方には一読をお勧めしたい傑作評伝です。

草創期の社台ファームを支えた種牡馬は61年にアイルランドから輸入したガーサントでした。現役時代に仏2000ギニー、ガネー賞、コロネーションSなどを勝った一流馬です。60~70年代にかけて、ニットエイト(菊花賞、天皇賞)、ヒロヨシ(オークス)、コウユウ(桜花賞)、シャダイターキン(オークス)といった名馬を送り出し、69年にはリーディングサイアーに輝いています。
http://www.pedigreequery.com/guersant

父系はヨドヒーロー(シャダイターキンの4分の3同血)によって受け継がれましたが、90年代に絶滅しました。しかし、ガーサントを含む繁殖牝馬は膨大な数にのぼります。その代表格はエアグルーヴ。現役時代に年度代表馬となり、母としてアドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル、ルーラーシップなどを送り出しています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1993109154/

吉田善哉は血統のエキスパートでした。成人してから仕入れた付け焼き刃のものではなく、子供のころから大人を驚かすぐらいの知識があったといいます。シンボリ牧場などに比べると、アメリカ型のコマーシャルブリーダーとしての側面が強かったせいか、血統家としての吉田善哉の姿は見えづらいところがありますが、ごく稀に“こだわりが見える血統”を発見することができます。

その代表例がボアドグラースです。82年のグレフュール賞(仏G2・芝2100m)を勝ち、仏ダービー(G1・芝2400m)は3着。ちなみに、このときの2着馬リアルシャダイも社台によって購買されています。父 Luthier と2代母の父 Ocarina は同牝系。したがって Montagnana 3×4という牝馬クロスを持っています。この Ocarina という種牡馬はガーサントの全兄にあたります。
http://www.pedigreequery.com/bois+de+grace

ボアドグラースを種牡馬として導入したのは、ガーサントと Ocarina の全きょうだいクロスを作るためでしょう。

私はふとした瞬間、ボアドグラースがそれなりの成績を挙げていたらどうなっていただろうか、と考えることがあります。ガーサント=Ocarina という全きょうだいクロスが優れた効果を挙げ、社台血統に新風を吹き込んだかもしれません。

ボアドグラースは子を残せませんでした。84年から150万円の種付料で供用されたものの、ほどなく受精能力がゼロであることが判明。その後、去勢されて乗馬となりました。

社台グループはこれまで数多くの種牡馬を導入しましたが、初期に成功したのはガーサントのみ。この馬がいなければ現在の社台グループはなかったでしょう。ひょっとしたら倒産していたかもしれません。ガーサントが礎を築き、ノーザンテーストが飛躍させ、サンデーサイレンスが天下統一を果たしました。

ガーサントの血に対する吉田善哉のこだわり――。これがボアドグラース購買の動機だったと思います。産駒がいないため日本血統への痕跡は一切なく、もはや人々の記憶にも残っていません。

2010年9月13日 (月)

ニエル賞、フォワ賞

ヴィクトワールピサ4着、ナカヤマフェスタ2着は、前哨戦としてはまずまずだったと思います。

まず3歳馬のニエル賞。勝った Behkabad、2着 Planteur は、本番の凱旋門賞でも勝ち負けになるであろう強豪です。下馬評どおりワンツーフィニッシュを決めたわけですが、ヴィクトワールピサも残り300mぐらいで外から並びかけるシーンがありました。能力的にお話にならない馬であれば、ああいった見せ場を作ることはできません。それ以前のフォルスストレートあたりから手が動いて追走に手一杯になるはずです。

Behkabad と Planteur は、少なくともロンシャンの芝2400mではかなり強い馬です。私は同じ舞台設定でこの2頭を負かせる馬はほとんどいないと思います。ひょっとしたら他にいないかもしれません。レースが終わり、現在の凱旋門賞のアンティポストを見ると、イギリスの主要ブックメーカー14社中、Behkabad を1番人気に推す社は8つ、Behkabad と Fame and Glory を同オッズとする社は4つ、Fame and Glory を1番人気に推す社は2つです。Behkabad が1番人気に躍り出たわけです。その強豪を相手に直線半ばまで見せ場を作ったわけですから、悲観するような内容ではなかったと思います。

最後に失速した理由として、武豊騎手は「レース間隔が開いた」ことを挙げています。それならば本番へ向けて期待が持てると思います。遠い日本から遠征して初物尽くしだったわけですから、今回の敗戦を糧として前進できるはずです。

ただ、絶好の手応えできて失速するというのは、距離に問題があるケースも多いので、仮にそうした点が絡んでいるのだとすれば厄介です。日本で走る分には2400mに問題はないと思います。しかし、ヨーロッパの重い馬場ではどうなのか……ということですね。このあたりは杞憂であってほしいものです。

次は古馬によるフォワ賞。戦前から書いているように出走メンバーの質はニエル賞には及びません。今回勝った Duncan はうまく乗ったという感じで、凱旋門賞で人気になることはないでしょう。事実、レースを終えた後のアンティポストでも21~26倍と伏兵の1頭に過ぎません。

ナカヤマフェスタの2着は本番前の試走としては十分な内容だったと思います。しかし、レースレベルに疑問符がつくことも確かなので、これで凱旋門賞の有力候補になったということはありません。Duncan と同じくあくまでもアップセット狙いの伏兵陣、という位置づけでしょう。

「かなり太い」という二ノ宮調教師のコメントからすると大きな上積みがありそうですね。11年前のエルコンドルパサー(二ノ宮厩舎所属)は、遠征初戦のイスパーン賞(G1)で2着と敗れたあと、2戦目のサンクルー大賞典(G1)で見違えるような強さを発揮し、2馬身半差で完勝しました。陣営は、今回のレースはまったくの試走と割り切っていたでしょうから、レースレベルとは関係なしに、本番は期待できると思います。幸いなことに勝ち時計が遅かったので消耗も少ないはずです。母ディアウィンクは Ribot 系の His Majesty 2×4というクロスを持ち、ヨーロッパで大成功しているデインヒルの血が入ります。パワーを必要とするヨーロッパの馬場によくフィットしていますね。

凱旋門賞のアンティポストは、ヴィクトワールピサが26倍、ナカヤマフェスタが26~34倍です。イギリスのブックメーカーは両馬をほぼ同格と扱っています。もちろん、2頭とも伏兵評価なので、厳密に力量比較しているわけではなく、だいたいこのぐらい、というおおざっぱなものでしょう。競馬新聞の印で表現するとしたら、2頭とも△が1~2個つくぐらいといった感じですね。

今回の衛星生中継に関して、レース以外で良かったなと思う点は、アガ・カーン四世殿下(Behkabad のオーナーブリーダー)のお姿をたっぷり拝見できたことと、イギリス競馬界の名物男ジョン・マクリリック氏がほんの数秒間画面に映ったことです。マクリリック氏はジョン・レノンと同い年で今年70歳を迎えましたが、相変わらずド派手ないでたちでしたね~。10年ぐらい前まではジャパンCの取材に毎年いらっしゃっていたはずです。最近はお姿をお見かけしません。

この動画はけっこう笑えます。
http://www.youtube.com/watch?v=UXAK-2TQ_bA

2010年9月12日 (日)

京成杯オータムH、セントウルS

■京成杯オータムH(G3・芝1600m)は◎ファイアーフロート(4番人気)が競り勝ちました。4ハロン通過「47秒1」はスローペース。開幕週でこの流れでは前が止まりません。予想は◎△で馬単7430円、◎△△で3連単66000円的中。『ブラッドバイアス・血統馬券プロジェクト』に提供した予想を転載します。

「◎ファイアーフロートは『スペシャルウィーク×タバスコキャット』という組み合わせ。スペシャルウィークとストームキャットはニックスの関係にあり、この組み合わせからオースミダイドウ、タガノエリザベート、ダイレクトキャッチ、ダンツクインビー、モズ、ラナンキュラスなどの活躍馬が出ている。いかにも小回りコースに強い配合で、逃げ先行タイプなので開幕週の馬場は合うだろう。輸送でイレ込まなければ勝ち負けに持ち込める。」

懸念されたイレ込みは大丈夫でした。日曜日の栗東坂路の2歳一番時計を出したピユカンタービレは「スペシャルウィーク×Storm Cat」ですから、ファイアーフロートと同じニックスを持っています。この配合はやはり走ります。
http://premium.netkeiba.com/db/horse/ped/2008102793/

ピユカンタービレの母はBCクラシックを勝った Cat Thief と同じ組み合わせ(Storm Cat×Alydar)なのでパワーが前面に出ています。どちらかといえばダートのほうが……という気はしますね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102793/

「スペシャルウィーク×Storm Cat」の好相性は、つまるところ「マルゼンスキーと Storm Cat」の関係に起因すると考えています。4月14日のエントリー(「マルゼンスキーと Storm Cat」)をご参照ください。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/04/storm-cat-897-1.html

■セントウルS(G2・芝1200m)は○ダッシャーゴーゴー(4番人気)と▲グリーンバーディー(2番人気)で決着。

グリーンバーディーが能力的に抜けているのは明らかでしたが、どう見ても七分のデキで、しかも59キロ。4年前に同斤で2着となったテイクオーバーターゲット(豪)は59キロを背負い慣れていたのですが、グリーンバーディーは近走57キロまでしか背負っていませんでした。結局、強い馬は強いということですね。Rocket Man と雌雄を決する10月3日のスプリンターズS(G1)は“アジア最強スプリンター決定戦”といった様相です。

◎ショウナンカザン(9番人気)は10着。直線は前が詰まってまったく追えなかったのですが、不利がなかったとしても勝ち負けには持ち込めなかったでしょう。

競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!