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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年9月14日 (火)

消えた種牡馬ボアドグラース

1955年に吉田善哉は社台牧場から独立し、社台ファームを設立しました。場所は千葉県、繁殖牝馬はわずか8頭でした。ここから日本一の大牧場に育て上げていくサクセスストーリーは『血と知と地』(吉川良著・ミデアム出版社)に詳しく描かれています。社台グループについて興味のある方には一読をお勧めしたい傑作評伝です。

草創期の社台ファームを支えた種牡馬は61年にアイルランドから輸入したガーサントでした。現役時代に仏2000ギニー、ガネー賞、コロネーションSなどを勝った一流馬です。60~70年代にかけて、ニットエイト(菊花賞、天皇賞)、ヒロヨシ(オークス)、コウユウ(桜花賞)、シャダイターキン(オークス)といった名馬を送り出し、69年にはリーディングサイアーに輝いています。
http://www.pedigreequery.com/guersant

父系はヨドヒーロー(シャダイターキンの4分の3同血)によって受け継がれましたが、90年代に絶滅しました。しかし、ガーサントを含む繁殖牝馬は膨大な数にのぼります。その代表格はエアグルーヴ。現役時代に年度代表馬となり、母としてアドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル、ルーラーシップなどを送り出しています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1993109154/

吉田善哉は血統のエキスパートでした。成人してから仕入れた付け焼き刃のものではなく、子供のころから大人を驚かすぐらいの知識があったといいます。シンボリ牧場などに比べると、アメリカ型のコマーシャルブリーダーとしての側面が強かったせいか、血統家としての吉田善哉の姿は見えづらいところがありますが、ごく稀に“こだわりが見える血統”を発見することができます。

その代表例がボアドグラースです。82年のグレフュール賞(仏G2・芝2100m)を勝ち、仏ダービー(G1・芝2400m)は3着。ちなみに、このときの2着馬リアルシャダイも社台によって購買されています。父 Luthier と2代母の父 Ocarina は同牝系。したがって Montagnana 3×4という牝馬クロスを持っています。この Ocarina という種牡馬はガーサントの全兄にあたります。
http://www.pedigreequery.com/bois+de+grace

ボアドグラースを種牡馬として導入したのは、ガーサントと Ocarina の全きょうだいクロスを作るためでしょう。

私はふとした瞬間、ボアドグラースがそれなりの成績を挙げていたらどうなっていただろうか、と考えることがあります。ガーサント=Ocarina という全きょうだいクロスが優れた効果を挙げ、社台血統に新風を吹き込んだかもしれません。

ボアドグラースは子を残せませんでした。84年から150万円の種付料で供用されたものの、ほどなく受精能力がゼロであることが判明。その後、去勢されて乗馬となりました。

社台グループはこれまで数多くの種牡馬を導入しましたが、初期に成功したのはガーサントのみ。この馬がいなければ現在の社台グループはなかったでしょう。ひょっとしたら倒産していたかもしれません。ガーサントが礎を築き、ノーザンテーストが飛躍させ、サンデーサイレンスが天下統一を果たしました。

ガーサントの血に対する吉田善哉のこだわり――。これがボアドグラース購買の動機だったと思います。産駒がいないため日本血統への痕跡は一切なく、もはや人々の記憶にも残っていません。

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コメント

でもシャダイフェザーやシャダイターキンやベルースポートやシャダイクリアーなどなど、ガーサント牝馬から枝葉が伸び続けた社台牝系は多いですよね~

おお、MJさんおはよう!(知らない方のために補足しますが望田潤さんです)

種牡馬で当たってからの社台は、世界レベルの良血牝馬をどんどん買っていて、それらに伍して生き残ってるわけですから凄いなぁと。「ノーザンテースト×ガーサント」はご承知のように Molly Desmond のトリプルクロスが生じます。吉田善哉は種牡馬の牝系というものにこだわったらしいのでもちろん偶然ではないでしょう。失敗しましたがハンターコムなどもこの牝系(Molly Desmond の母 Pretty Polly にさかのぼる)で、3代母にはそれを強調する牝馬クロス(Pretty Polly 4×5)までありますね。「ノーザンテースト×ガーサント」を起点として伸び続ける牝系は、言ってみれば“血統家・吉田善哉”の遺産ではないかと……。

いつも読みやすくそして読みこだたえのある文章拝見してます。競馬は10数年してますが血統という切り口で見ると一生つきあえそうに思います。社台の歴史ガーサントで礎を築きノーザンテーストで発展しサンデーサイレンスで天下統一ってかっこいいですな。いい勉強さしてもらいました。

いつもお読みいただきありがとうございます。血統は何年やっても飽きませんし楽しいですね。血統は長し、人生は短し、です。

70年代は日高の黄金時代で、社台は八大競走をひとつも勝てませんでした。10年間で1頭も……。80年代から社台が巻き返してくるわけですが、この盛衰の背景にあったのは種牡馬です。生産界の覇権は種牡馬次第です。ガーサント→ノーザンテースト→サンデーサイレンスときて次がどうなるか注目したいですね。

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