「“ドナー150”を探して ~精子提供者と子どもたち~」
10月25日深夜にNHK・BS1で放送された『BS世界のドキュメンタリー』は、そのスリリングな内容に思わず惹き込まれました。タイトルは「“ドナー150”を探して ~精子提供者と子どもたち~」。アメリカを舞台に制作されたイギリスの作品です。
“ドナー150”とは精子提供者を示す番号のこと。アメリカには精子バンクという商売があり、主に伴侶のいない女性の希望によって、知能、外見、人種など、さまざまな条件に合致した精子が販売されています。アメリカではこれまで100万人以上が人工授精により生を享けたと言われています。
主人公の女子大生ジョーエレンもそのひとりで、自らのルーツを探るために、同じ精子提供者の子を探すことができるサイトに登録します。すると、異母姉ダニエルからメールが届き、やがて対面を果たします。そのストーリーが新聞に紹介されると、“ドナー150”の子供たちが次々と名乗りをあげ、全米中に異母きょうだいが少なくとも14人いることが判明しました。
それまで自らのルーツに不安を抱きながら生きてきたところに、いきなりビッグダディ家のような大家族が目の前に立ち現われ、自分がその一員であると知らされるのですから、アイデンティティの混乱はかなりのものであると想像します。しかし、アメリカ人の気質なのか、みな屈託なく明るいですね。
映像に登場する何人かは顔の造作が似ています。父親が同じなので当然といえば当然です。そして、14人のきょうだいたちが一堂に会したとき、バラバラに育ったはずの彼らが持つそれ以外の共通点に驚きの声が挙がりました。
・フォークの持ち方
・髪をかきあげる仕草
・笑いのツボ
・ストレートな物言い
・動物好き
・成績優秀
・ピアノが弾ける
・論理的
・リーダーシップ
・哲学好き
・自立心旺盛
・社交的
・飽きっぽい
・すぐ道に迷う
フォークの持ち方の遺伝子や、髪をかきあげる仕草の遺伝子は、もちろん存在しません。しかしながら、何らかの遺伝的な影響によって、別々に育ったきょうだいたちに同じ特徴が表れているのです。このあたりは神秘的としか言いようがありません。
サラブレッドの遺伝はまさにこれと同じですね。同じ種牡馬の子は程度の差こそあれ似たような特徴を持っています。育成の方のお話をうかがうと「○○の子はみんなうるさくてね」「××の子はまじめですよ」という話が出てきます。複雑な精神領域を伴った人間という生き物でさえ、父が同じというだけでさまざまな共通点があるのですから、走ることに特化したサラブレッドはもっとダイレクトに共通点が表れてくるように思います。
ある日、ジョーエレンのもとに“ドナー150”からメールが届きます。彼女は、それを頼りに彼の住むカリフォルニアへ向かいます。長年探し求めていた“ドナー150”、すなわち実の父は、海岸沿いのキャンピングカーをねぐらとし、たったひとりで犬や鳩と気ままなヒッピー風の生活を営んでいました。初めて対面した父と娘は喜びを分かち合います。やはりジョーエレンの顔は父の特徴を受け継いでいました。
その後、ほかのきょうだいも合流し、西海岸の陽光のもとで“ドナー150”と子供たちは自転車遊びに興じます。たしかに遺伝的には親子でありきょうだいではありますが、どことなくぎこちない集団。そのシーンは、明るさのなかに胸が締め付けられるような重さを孕んでいて、なんともいえない余韻を残しました。
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