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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

書評

2011年10月 7日 (金)

『今、競馬で勝つための考え方』

秋の競馬シーズンはこれからが本番。競馬書籍が書店の本棚に並ぶようになってきました。

10月3日に『今、競馬で勝つための考え方』(株式会社エンターブレイン)というムック本が発売されました。「達人たちの馬券術」というコーナーのなかで、長谷川仁志さん、水戸正晴さん、亀谷敬正さんと並んで取り上げていただきました。見開き2ページの写真つきなので結構大きめです。

わたしはタッチしていませんが、それ以外にも種牡馬解説、コースやレースの攻略ポイント、調教や馬体の見方、といった記事が満載で、競馬に対する考え方をよりいっそう深めてくれる1冊です。もしご興味のある方はどうぞ。
http://www.enterbrain.co.jp/product/mook/mook/11335201.html

2011年10月 5日 (水)

シンボリルドルフ死す

ニュースを目にしたとき、わずかな思考の空白のあと、「……シンボリルドルフでも死ぬのか」と思いました。生き物ですから死ぬのは当たり前です。その当たり前のことが訪れることを不思議に思うくらい、自分のなかでシンボリルドルフは別格の存在でした。

桁外れの天稟と、侵しがたい威厳。厩舎で「ライオン」とあだ名されるほどの激しい気性であったといいます。その一方で、競馬になれば冷静沈着、まるで人間の頭脳を搭載しているかのような完璧なレースぶりでした。熱さや激しさを不思議なほど感じさせず、努力や根性といった言葉から最も遠く離れた、クールでスマートな天才でした。

一個のサラブレッドとして、これほど魅力的な存在はほかに見当たりません。現役時代から大好きな馬でしたし、その気持ちは二十数年を経ても変わることはありませんでした。

昨年9月30日のエントリー「シンボリルドルフがジャパンC当日に東京競馬場へ」のなかで、以下のように記しました。

「絶対的に強い馬(=シンボリルドルフ)に憧れる気持ちが『なぜ強いのだろう』という探求心を生み、それを解き明かそうとしたことが血統に関心を持つきっかけだったと思います。そういう意味でシンボリルドルフは自分の人生を変えた馬といえます。初めて5代血統表を書いた馬はシンボリルドルフでした。もっとも、完成した血統表を見たところで何が何やらわかりませんでしたが……。」
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/09/post-ef66.html

昨年のジャパンC当日、東京競馬場にやってきたシンボリルドルフは、昼休みにパドックに現れてお披露目をしました。何の根拠もなくシンザンの長寿記録を抜くのだろうと思い込んでいたので、久々だなぁという感慨以外、これといって感傷を浸ることもなく、晴れやかな気分でパドックの周回を見守っていました。いまから考えればあれがファンに対する別れの挨拶でしたね。

シンボリ牧場を隆盛に導いた天才馬産家・和田共弘と、彼の馬産哲学の結晶であるシンボリルドルフについては、『神に逆らった馬――七冠馬ルドルフ誕生の秘密』(木村幸治著/ノン・ポシェット)に詳しく描かれています。『凱旋――シンボリルドルフをつくった男』を改題し、新たに文庫版としたものです。この本を読まずして日本競馬の歴史は語れません。名著だと思います。

2011年6月 8日 (水)

亀谷敬正著『血統ビーム 種牡馬ファイル』

亀谷敬正さんの新著『血統ビーム 種牡馬ファイル』(白夜書房)が発売されました。「オリジナルファイルも作成できる新感覚データブック」「正しいデータで分析すれば血統は最高の馬券ツールになる!」というキャッチがついています。種牡馬ごとの詳細なデータがカラーで分かりやすく、要点を絞ってまとめられており、馬券の買いどころが一目瞭然。巻末にはコース別の種牡馬ランキングも掲載されており、至れり尽くせりの内容です。亀谷流のオリジナリティにあふれています。1600円。

2011年4月22日 (金)

伊吹雅也著『WIN5(五重勝)ほど儲かる馬券はない!!』

今週から関東の競馬が復活します。と同時に、新しい馬券がスタートします。すでに新聞雑誌で盛んに取り上げられている「WIN5」。JRAが指定する5つのレースの1着馬をすべて当てたら的中、という馬券です。100円で最高2億円の払戻金!というキャッチは魅力的ですね。

どう買ったらいいのか。当てるにはどうしたらいいのか。誰もが抱くであろうこの疑問に明快に答えてくれる好著が刊行されました。それがタイトルにある『WIN5(五重勝)ほど儲かる馬券はない!!』(伊吹雅也著・競馬王新書)です。

単勝や複勝などと違い、当たりづらい高額配当系の馬券は、なによりも当てるための技術が要求されます。

「WIN5は既存の式別とまったく性質が異なる馬券です。『馬券であることに変わりはない』と鷹揚に構えている一般的な競馬ファンは、ほぼ間違いなく大損すると思います。(中略)しかし、だからといって『宝くじを買うようなもの』なのかと言えば、決してそんなこともないと思います。」(84頁)

WIN5を攻略するための賢い戦略が、数値をベースとした説得力のある論旨で展開されており、読んでいてびっくりするくらい目から鱗が落ちました。この本を読むと読まないとでは回収率において天と地ほどの差が出てくるでしょう。

2011年3月13日 (日)

シンボリルドルフ30歳の誕生日

土曜日の夕方、ショッピングセンターまで買い出しに行ったら、水やパンやインスタント食品が陳列棚から消え去っていました。ポリタンクもなし。コンビニへ行くとミネラルウォーターは完売。おそらく首都圏はどこもこんな光景だったのでしょう。停電により断水するとマズイので、街角の自動販売機でミネラルウォーターをまとめ買いしました。多少コストは高くなりますが仕方ありません。

言語を絶する被災地の惨状を目の当たりにすると競馬を楽しめる気分ではなく、数万人の方々の安否や原発の状況を考えると気分が落ち込んできます。何を書くか迷ったのですが、地震の悲惨さを伝えるのはわたしの役割ではなく、いつまでも身辺雑記を書くのもどうかと思うので、簡単ではありますがやはり競馬について書くことにします。不快に思われましたらすみません。

本日はシンボリルドルフが誕生してからちょうど30年目にあたります。昨年のジャパンC当日、東京競馬場にやってきてその雄姿を披露したのは記憶に新しいところです。

まだ現役だった85年12月、『勝つことに憑かれた名馬 シンボリルドルフ』(今井寿恵/角川書店)という本が出版され、発売日に書店で手に入れました。当時、高校生にとって本1冊に2000円を費やすのはかなり勇気のいることでした。しかし、まさにお値段以上、買ってよかったと満足できる作品でした。競走シーンはもちろん、美浦トレセン、シンボリ牧場の貴重な写真が満載。とくにシンボリ牧場で収めた写真は美しすぎます。故・今井寿恵さんの最高傑作ではなかったでしょうか。生産者の和田共弘氏、野平祐二調教師、岡部幸雄騎手だけでなく、シンボリ牧場のスタッフの方々にまで丹念にインタビューを試みているのは貴重な資料です。Amazon で調べてみたところ手頃な値段で中古品が入手できるようです。

この本に次のような記述があります。

「1981年3月13日夜10時、北海道門別シンボリ牧場で鹿毛の牡生まれる。細身に出たが筋金入りと思える仔馬は、出生して30分後に立ち上がる。母スイートルナは仔馬をかわいがったが、自分が餌を食べるときに乳を飲みたがると怒り追い払った。普通の仔馬は母親に叱られると馬房の隅でおとなしく待つが、この仔馬は耳をしぼり猫が逆毛を立て威嚇するように母親に立ち向かい、貪欲に乳を飲んだ。感情起伏の激しさは母ゆずりか、シンボリルドルフ。」

目に浮かぶようなエピソードです。生まれつき気位の高い、皇帝という異名にふさわしい名馬です。

シンボリルドルフと現在のトップクラスの競走馬が戦ったら、おそらくルドルフは負けるでしょう。でも、理性ではそう思っても、じっさいに走ってみたらわからないぞ、という気持ちがあるのも事実です。

シンボリルドルフがシンザンの長寿記録を塗り替えるのは、2016年6月24日。ルドルフならやれそうな気がします。

2010年10月 6日 (水)

『RACING ALMANAC』

競馬史家で競馬書籍蒐集家の早野仁さんから、「この本おもしろいよ」と紹介していただいたのが『RACING ALMANAC』(GRAHAM SHARPE 著・RACING POST)。和訳すれば「競馬暦」ですね。

「500 YEARS OF HISTORY IN 366 DATES」という副題がついているように、過去500年にわたる競馬に関する出来事を拾い集め、1月1日から12月31日まで1日ごとにそれを紹介していくという本です。1日あたりの分量は1ページ。

その日起こった重要な出来事が数行ずつ簡潔に記されています。また、その日に語られた名言、その日に生まれた人、亡くなった人のリストもあります。

イギリスの本なので、記述はイギリス中心です。日本関連の記事は武豊騎手の誕生日(3月15日)以外見つけられませんでした。この本に載るというのはなかなか大変で、たとえばフランスで4回チャンピオンジョッキーに輝き、凱旋門賞3連覇などの偉業を成し遂げたオリビエ・ペリエ騎手の誕生日は載っていません。

凱旋門賞の前日と当日の場内テレビには武豊騎手の姿がよく映っていまいた。騎手控え室、パドック、輪乗りの映像でしばしばカメラに抜かれていました。フランスでの騎乗歴は20年近くになり、G1も4勝しているので、Yutaka Take は日本人騎手の代名詞となっています。

前日に2鞍騎乗していたのですが、あるレースの発走前にアナウンサーが「○番に乗っているのは日本人ジョッキーの武豊、明日の凱旋門賞ではヴィクトワールピサに騎乗します」と丁寧に紹介していました(フランス語は分からないのですが単語をつなげるとそういう意味だと思います)。ただ、馬名をヴィクトワール「ピザ」と発音していたのはいかがなものかと……。「ヴィクトワール」の部分はフランス語だけあって発音がめちゃめちゃカッコよかったのですが。

話が脱線しました。『RACING ALMANAC』は昨年暮れにハードカバーが出て、先月ペーパーバックがその半分の値段で売り出されました。アマゾンの価格を見ると日本円でちょうど1000円ぐらいです。

2010年9月23日 (木)

『奇跡の名馬』

春と秋には競馬の本がいろいろ出版されます。最近目に付いたものでおもしろいと思ったのは『奇跡の名馬』(兼目和明・大岡賢一郎共著/パレード)。うみねこ博物館(http://umineko-world.jugem.jp/)というブログから抜粋して再構成したものです。

588頁の大冊で、中身は古今東西100頭以上の名馬が紹介されています。そのセレクトがミソ。日本馬では第二メルボルンやミラクルユートピアが収録されていますし、外国馬は北米、中米、南米、ヨーロッパ、アジア、アフリカなど、ほぼ全世界を網羅しています。たとえば英領ヴァージン諸島の Act Spectation、スペインの Rheffissimo、トルコの Minimo、フィリピンの Fair and Square、インドの Elusive Pimpernel、ケニアの Tinsel Town、ジャマイカの Simply Magic、トリニダードの Mentone、バルバドスの Zouk などは見たことも聞いたこともない馬たちでした。

南米馬は大岡賢一郎氏が担当し、それ以外はすべて兼目和明氏が執筆しています。兼目氏独特のポエティックな文体は少々癖があるのですが、そのマニアックな目配りは瞠目すべきものがあります。

私は血統畑の人間なので、pedigreequery.com でそれら辺境の名馬をリサーチし、配合を玩味するのが楽しいですね。たとえば「西アジア史上最強皇妃」と紹介されたトルコの Minimo を調べると、Forli とほとんど同じ配合構成であることに気付きます。トルコとアルゼンチンで同じような配合馬が走ったのだなぁ……と、しばし感慨に耽ってしまいます。
http://www.pedigreequery.com/minimo
http://www.pedigreequery.com/forli

       ┌ Hyperion
     ┌○┤ ┌ Fair Trial
Minimo ―┤ └○┘
     └○┐
       └ Commotion

       ┌ Hyperion
     ┌○┤
Forli ――┤ └ Commotion
     │   ┌ Fair Trial
     │ ┌○┘
     └○┘

血統表にある Commotion の母 Riot と Fair Trial は相似な血です。
http://www.pedigreequery.com/riot
http://www.pedigreequery.com/fair+trial

        ┌ Phalaris
      ┌○┤ ┌ Chaucer
Riot ―――┤ └○┘
      └ Lady Juror

        ┌ Phalaris
      ┌○┤ ┌ Chaucer
Fair Trial ┤ └○┘
      └ Lady Juror

ちなみに、ナスノカオリ(桜花賞)、ナスノチグサ(オークス)の母ナスノホシも、Riot と Fair Trial の組み合わせを持っています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1955100166/

2010年9月15日 (水)

『吉田善哉 倖せなる巨人』

昨日のエントリーで吉田善哉について記しました。『血と知と地』を取り上げたのですが、もう一冊、忘れてならないのが『吉田善哉 倖せなる巨人』(木村幸治著・徳間書店)です。善哉だけでなく3人の息子たち(照哉、勝己、晴哉)の姿も丹念に描かれており、また血統に関する話題も豊富です。いいお仕事をされているなぁと感心させられる傑作です。

病魔に冒され、自らの死期を悟った吉田善哉は、部下に命令を出します。その部分を引用します。

~~~~~~~~~~~

少しずつ善哉はロッジでの生活に慣れていき、七月も終わりが近づいた。
「おばさん、獣医の角田に来いと伝えろや」
角田が来た。
「おい、シンボリの和田(共弘)と連絡を取れ」
「で、どうするんですか?」
「おまえ、ぼんくらか?」
「はい?」
「シンボリの和田と、この俺が一緒だとほかにすることがあるのか?」
「すると?」
「一緒に、和田と馬が見てえんだよ、和田さんとじっくり馬が見たいんだ。来いと、お前から伝えろ」
角田は心の震えを覚えた。
吉田善哉が、長い馬産家人生のなかで、同じ世界で馬づくりをし、いちばん何かを感じてきた日本人が、和田共弘であったということを、いま知らされた気がしたからだ。(304頁)

~~~~~~~~~~~

和田共弘は吉田善哉の1歳年下で、スピードシンボリ、メジロアサマ、サクラショウリ、シンボリルドルフ、シリウスシンボリの生産者です。

両者とも妥協知らずの強烈な個性の持ち主ですから、その関係は必ずしも良好とはいえなかったと聞きます。対抗心もあったでしょう。しかしながら、死期が迫ったとき、吉田善哉が一番会いたいと願った人物は、ほかならぬ和田共弘だったのです。このエピソードは心を打ちますね。

残念ながら吉田善哉の希望は叶いませんでした。和田と会うことなく半月後の93年8月13日に死去。72年の生涯でした。

Amazon で検索してクリックすれば、こんな良書が安価で手に入るのですからいい時代になったものです。中古品が193円より出品されています。

2010年8月18日 (水)

Books LLC の競馬洋書

今年5月以降、Books LLC から大量の競馬洋書が刊行されています。アマゾンのサイトで「Books LLC Horse Racing」というキーワードを入れて検索してみると241件引っ掛かりました。これは気になります。誰が何のために……。

物は試しに『British Champion Thoroughbred Sires』という本を注文してみたところ、2週間ほど経ったある日、索引を入れて120頁ほどのペーパーバックが届きました。しかし、中身をめくってみてガッカリしました。Wikipedia の丸写しです。以下のURLにある項目をそのまま収録しただけ。しかも血統表がありません。
http://en.wikipedia.org/wiki/Category:British_Champion_Thoroughbred_Sires

ほかの本は確認していないので分かりませんが、同じ方法で作られているものが多いのではないかと想像します。Wikipedia の英語版はまあまあよく出来ているので、それなりのクオリティではあります。ただ、ネットでタダで読めるものをわざわざお金を出して買うのは馬鹿らしいですね。

2010年8月17日 (火)

王登美さん108歳で死去

プロ野球ソフトバンク王貞治会長の母・王登美さんが亡くなりました。108歳。著名人やその係累でここまで長寿を保った例は稀でしょう。

登美さんは1984年に『ありがとうの歳月を生きて』(勁文社)という自伝を上梓しています。時代との関わりのなかで一庶民がどう生きたか、というライフヒストリーがしっかり描かれた好著です。王貞治の母、という事実によりかかっていないところがいいですね。

1901年に富山県で生まれ、1914年の大洪水により一家は没落。生活が立ちゆかなくなり長女登美は単身東京に奉公へ。その後、親兄弟も上京して共同生活を始めるものの、1919年に両親が相次いで病死。兄弟はちりぢりに親戚に預けられることに。1923年の関東大震災を経て、1927年に深川の中華ソバ屋で浙江省出身の料理人・王仕福と出逢い、周囲の猛反対を押し切り翌年結婚。1940年に貞治が誕生。1945年には経営していた店が空襲により全焼。この年までに弟2人、妹1人、娘1人(貞治の双子の姉)を失っていました。

かなり端折って数行にまとめると以上のようになります。朝の連続テレビ小説の題材にするにはややヘビーですね。ただ、当時にあってはとくに壮絶というわけではなく、このような人生はありふれたものであったでしょう。

両親兄弟が次々と早世するなかで登美が生き残ったのは、おそらく体が頑丈だったからだろうと思います。若いころは太っていたため奉公先でのあだ名は「関取」。息子の貞治も並外れた食欲の持ち主で、中学時代は学校から帰ると肉や野菜がいっぱい入った大盛のヤキソバをたいらげて、さらにご飯を三杯食べていたそうです。高校時代になると大盛りの五目ソバをまずかっこみ、そのあと自分の顔ほどもあるステーキを二枚食べてやっと人心地がつくという有様で、「うちが料理屋でなければ食費だけで破産している」と語るほどだったそうです。体も大きく、横綱・吉葉山から相撲部屋に誘われたというエピソードもあります。

母・登美は108歳まで生き、息子・貞治は歴代最多本塁打王に。生命力の基本は食欲なのだなぁとつくづく思います。そういえば先日死亡したオグリキャップは旺盛な食欲に支えられて激戦の連続に耐えました。

皆さま、夏バテしてませんでしょうか? 私はこの暑さで食欲が下降気味なので、今日はしっかり食べようと思います。

2010年4月23日 (金)

山野浩一「血統理念のルネッサンス」

昨日のエントリーで紹介した「ドイツ・ダービーの父系」は、1993年に『週刊競馬通信』に連載したものです。なぜ書こうと思い立ったかというと、山野浩一氏が80年代半ばに『優駿』に連載した「血統理念のルネッサンス――レットゲン牧場における系統繁殖の研究」に触発されたからです。同作には、深い知識と洞察にささえられた思考が、氏独特の直線的な文体のなかで展開されており、読了後に不思議な感慨を覚えます。

80年代に発表された血統関連の連載のなかで、私が傑作だと思うものは以下の3つです。

●笠雄二郎「血統あれやこれや」(『週刊競馬通信』)
●門井佐登宣「競馬三国志」(『週刊競馬ブック』)
●山野浩一「血統理念のルネッサンス」(『優駿』)

いずれも雑誌に掲載されたまま再録されていません。嘆かわしいかぎりです。雑誌の連載、という形にとらわれなければフェデリコ天塩氏の『馬事研究』(第1号、第2号)も当然含めなければならないでしょう。

山野氏はドイツ型馬産を最上のものとして礼賛しているわけではありません。「私にもアメリカ型馬産よりも、ドイツ型馬産が優れているとは言い切れない。特に競馬というものの発展はコマーシャリズムなくしてあり得ないと思う。私のドイツ式系統繁殖の提唱はあくまでも生産のバランス上のものだ。」と述べています。

もちろん、ドイツ型馬産について述べているわけですから、そこに高い価値を認めていることはいうまでもありません。ドイツとアメリカの馬産を比較する際、山野氏は音楽や映画を例に採ります。かなり長いのですが引用します。

「よくドイツはGNPや輸出競争で日本と争う国だし、それでいて日本のように財産の備蓄も食料の自給力もない国ではなく、いわば日本型とヨーロッパ型の両面で富める国といえるのに、どうしてアメリカのように競馬が繁栄しないのかという人がいるが、同じようにドイツの音楽の才能を動員すればいくらでもミリオンセラーぐらいできるということがいえる。現実にドイツ音楽の底辺から育ったビートルズやアバのような超大物タレントはアメリカからは出ることはなく、いわば技能としては大きな差があることは事実であろう。だが、こういう問題は単に技能や経済の問題ではなく、要するに音楽や競馬に何を求めるかという人間のアイデンティティの問題なのである。いかにグスタフ・マーラーが美しい旋律を作るからといって、マウント・バーニーのようにやれといっても無理な話で、多くのドイツ人は自分の音楽を作って金を儲けようとは思っても、金が儲かるように音楽を作るということは出来ない。アメリカへ渡ったバルトークは食うや食わずの生活をしながら、プロデューサーの差し出す巨額の金を突き返すわけである。まして食うに困らない人なら誰がそんなことをするだろう。アメリカのような商業的繁栄にはアメリカンドリームという虚構が必要なのであり、経済面と精神面の貧しさがなければならない。フリッツ・ラングにスピルバーグのような映画は作れないし、シュトックハウゼンにYMOのような曲が作れるわけではない。だがハリウッドの監督たちはラングの映画技法を学ぶか、ラングから学んだ人から学ぶかしているだろうし、YMOはシュトックハウゼンなくして存在しえない。たとえドイツのものが至上のものであっても、繁栄するかどうかとなるとまた別問題なのである。ただいえることは、もし我々が学ぶということをするとするならば、やはりスピルバーグよりもラングを学んだ方が良いし、YMOよりもシュトックハウゼンを学んだ方が良く、馬産に関してもアメリカよりはドイツに学んだ方が良いだろう。」

この意見が合っているか間違っているかといったことは瑣事にすぎません。この鮮やかな独断こそが山野節であり、最大の読ませどころです。それを記すことが評論家のなすべき仕事なのだろう、と思います。

2010年1月 9日 (土)

不忍池競馬を見た最後の生き残り、物集高量

昨日のエントリーで採り上げた立川健治さんの本は、明治17年(1884)11月、上野不忍池競馬場で行われた初めての競馬開催の模様から書き起こされています。共同競馬会社が主催した不忍池競馬は、明治25年(1892)まで行われました。

この競馬を見た、という人物が昭和の末まで存命していたことはあまり知られていません。

その名は物集高量(もずめ・たかかず)。

明治12年(1879)に生まれ、昭和60年(1985)に106歳で亡くなりました。

100歳の誕生日(昭和54年4月3日)に刊行された『百歳は折り返し点』(日本出版社)という本に次のような記述があります。

「切通坂まで使いに行ったときには、不忍池で競馬を見物しました。不忍池の周囲が競馬場だったのを見た人も、現在はいないことと思います。」

明るく闊達なお爺さん、というキャラクターで親しまれ、私が子供のころ、たまにテレビでその姿を見かけたものです。『徹子の部屋』にも招かれたことがあったはずです。きんさんぎんさんよりはるか前に出現した元祖“100歳スター”でした。まさか物集さんが不忍池競馬を見ていたとはつい最近まで知りませんでした。まず間違いなく、共同競馬会社の不忍池競馬(1884~1892)を見た最後の生き残りだったはずです。

何冊か出ているエッセイは、物集さんが生粋の遊び人だっただけに、どれもおもしろく飽きさせません。エッセイの巻末に年表が載っており、昭和4年(1929)には「初めて横浜根岸の競馬場へ行く」「初めて中山競馬場へ行く」といった記述があります。100歳を迎えた昭和54年(1979)には「日本ダービー。カツラノハイセイコ優勝。予想的中」と。

物集さんのエピソードで好きなのは、106歳で亡くなる前日、若い看護婦のスカートに手を入れて婦長に叱られた、というもの。凄いの一語です。

2010年1月 8日 (金)

馬事文化賞

2009年のJRA賞馬事文化賞は、立川健治さんの『競馬の社会史1 文明開化に馬券は舞う―日本競馬の誕生』に決まりました。歴史を尊重することなく文化が成熟することはないと思うので、こうした仕事にしかるべき賞が与えられたのは喜ぶべきことです。750頁を超える大部ですが、記述が柔らかく図版も多いので読みやすいですね。

2010年1月 7日 (木)

千島俊司「ジョッキーの血」

久しぶりに『週刊Gallop』を買ってみたところ、「ジョッキーの血」という連載がありました。作者の千島俊司さんは、1970年代に道営競馬の天才ジョッキーとして名を馳せた故千島武司さんのご子息。

千島俊司さんは以前、父武司さんを題材とした作品で「Gallopエッセー大賞」を受賞されました。そのテーマをさらに深く掘り下げた作品のようです。

故千島武司さんは、道営競馬で年間130勝の新記録(当時)を樹立するなど、72年から77年までの6年間に5回リーディングジョッキーに輝きました。ミスダイリンとのコンビで大井競馬場の全日本アラブ大賞典をレコード勝ちした記録もあります。77年の暮れ、1歳馬の馴致調教中に馬に蹴られるアクシデントにより死去。25歳の若さでした。

7年前に『競馬最強の法則』で「埋もれた地方の天才たち」という文章を書いたとき、故千島武司さんについて触れたことがありました。ただ、当時の資料から再構成したものだったので、通り一遍の内容でしかありません。

千島俊司さんの作品は、まさに当事者の生々しい記録なので興味が尽きません。70~80年代の道営競馬の空気がありありと浮かんできます。連載11回目の今回は、最近読んだ競馬に関する文章のなかで群を抜いて素晴らしいと思いました。この続きを読むために来週も『週刊Gallop』を買うでしょう。

競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!