マルゼンスキーと Storm Cat
先週土曜日のひめさゆり賞(3歳500万下・福島芝1800m)を勝ったバイタルスタイルは、またしても「母系に Storm Cat を持つスペシャルウィーク産駒」でした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007101001/
昨春刊行の『負けないPOG入門』(競馬王新書)では、「POG向きのスペシャルウィーク産駒の配合としてまず挙げたいのは、母系にストームキャットを持つもの。」(44頁)と記しました。それぐらい明らかなニックスです。
現3歳世代のスペシャルウィーク産駒をみると、収得賞金900万円以上(2勝、または1勝+重賞2着)の9頭のうち、半数以上の5頭(ラナンキュラス、タガノエリザベート、モズ、ガンマーバースト、バイタルスマイル)がこの配合から誕生しています。「母系に Storm Cat を持つスペシャルウィーク産駒」と、「Storm Cat を持たないスペシャルウィーク産駒」を1走あたりの賞金で比較すると、前者が359万円、後者は139万円。じつに約2.6倍の差があります。どちらの配合パターンを選べば効率よく賞金を稼げるか一目瞭然です
なぜこの配合が走るのかというと、おそらく父に含まれるマルゼンスキーと、母系に入る Storm Cat がよく似た配合構成だからでしょう。スペシャルウィークと Storm Cat のニックスは、要するに「マルゼンスキーと Storm Cat のニックス」と言い換えることができます。
まず、両者の父 Nijinsky と Storm Bird は相似な血です。
http://www.pedigreequery.com/nijinsky2
http://www.pedigreequery.com/storm+bird
┌ Northern Dancer
Nijinsky ―┤ ┌ Bull Page
└○┤ ┌ Gallant Fox
└○┐ ┌ Omaha ┤
└○┘ └ Flambino
┌ Northern Dancer
Storm Bird ┤ ┌ Bull Page ┌ Gallant Fox
│ ┌○┘ ┌ Flares ―┤
└○┤ ┌○┘ └ Flambino
└○┘
いずれも Northern Dancer を父に持ち、母の父が Bull Page 系で、母系の奥に Omaha=Flares という全きょうだいの血が入ります。
Nijinsky も Storm Bird も、カナダの大生産者E.P.テイラーが作りました。同じ牧場(ウインドフィールズファーム)で誕生した馬ですから血統が似ているのも当然でしょう。
ちなみに、この2頭に加えて、The Minstrel もほとんど似たような血統構成なので、Nijinsky、Storm Bird、The Minstrel の3頭は、血脈としてトライアングルを形成しています。例えが適当か分かりませんがアンライバルドとボーンキングとリンカーンのような関係です。血統表にこれらが複数ある場合は注意したほうがいいでしょう。
http://www.pedigreequery.com/the+minstrel
次に、マルゼンスキーの母シルと、Storm Cat の母 Terlingua の血統構成も似ています。
http://www.pedigreequery.com/shill
http://www.pedigreequery.com/terlingua
シルの父 Buckpasser と、Terlingua の2代母 Bolero Rose が相似な血(Tom Fool≒First Rose、War Admiral≒Eight Thirty)で、シルの母 Quill と、Terlingua の父 Secretariat がいずれも Princequillo を持っている、という関係です。表を作って逐一解説を始めると膨大な分量になってしまうので、今回は申し訳ありませんが細かな説明は省略させていただきます。興味のある方は以下のURLをご参照ください。
http://www.pedigreequery.com/tom+fool
http://www.pedigreequery.com/first+rose
http://www.pedigreequery.com/war+admiral
http://www.pedigreequery.com/eight+thirty
「マルゼンスキーと Storm Cat」が特別な関係であることを示すのは、スペシャルウィーク産駒だけではありません。
たとえば、Storm Cat 系の名種牡馬ヘネシー(Johannesburg などの父)は、シャトル種牡馬として2001年に1シーズンだけ日本で供用されました。その際、母系にマルゼンスキーを持つ馬はたった1頭しか誕生しませんでしたが、その馬、オースミヘネシーはシリウスS(G3)5着などの成績を残しました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2002102661/
母の父にマルゼンスキーを持つダービー馬ウイニングチケットは、JRAで1頭だけ重賞勝ち馬を送り出しました。その馬、ベルグチケットは母の父が Storm Cat です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1997102163/
ウイニングチケットの末弟サイボーグは、ダート短距離路線でOPまで出世しました。その父は種牡馬成績が芳しくなかったタバスコキャット。いうまでもなく Storm Cat の息子です。サイボーグはタバスコキャットの全産駒のなかで収得賞金第2位です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2002105269/
スペシャルウィークの今年の2歳世代にも、母系に Storm Cat を持つ馬は何頭かいます。ただ、昨年よりは少ない印象です。おもしろそうだと思ったのはピンクガーターの2008。一昨年のセレクトセールで800万円の値がつきました。お買い得だったような気がします。仕上がり早のスピードタイプで、2歳戦でガンガン走りそうな雰囲気があります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103280/
マルゼンスキーとStorm Catはニックスとの事ですが、NijinskyとStorm Birdもニックスと考えて良いのでしょうか?例えばダンスインザダークとストームキャットの関係はどうなんでしょうか?
投稿: Bucchi | 2010年4月14日 (水) 14:01
こんにちは。
手っ取り早く連対率で比べてみました。
■ダンス+Storm Bird 非 Storm Bird のダンス産駒
全連対率 16.7% 14.9%
芝連対率 18.2% 16.1%
ダ連対率 13.3% 11.4%
■ダンス+Storm Cat 非 Storm Cat のダンス産駒
全連対率 17.9% 14.9%
芝連対率 18.4% 16.1%
ダ連対率 16.9% 11.3%
母系に Storm Bird または Storm Cat が入ったダンスインザダーク産駒は、そうでない同産駒に比べて成績がアップしています。とくに Storm Cat が入った場合のダート連対率の伸びが著しいですね。むろん「ニックス」と呼んでも差し支えないとは思いますが、個人的には「準ニックス」ぐらいの認識です。トップクラスの産駒層にもう少し厚みがあれば申し分ないのですが。たとえば「ダンスインザダーク+ディクタス+ノーザンテースト」は連対率22.1%、「ダンスインザダーク+Miswaki」は19.7%で、トップ層も厚く、これらは堂々たるニックスだと思います。
投稿: 栗山求 | 2010年4月14日 (水) 18:58
ありがとうございました。大変参考になりました。蛇足ですが「血統ビーム」を読んで血統に興味が湧きました。ブログも楽しみにしております。
投稿: Bucchi | 2010年4月14日 (水) 21:01