1982年以来、日本ダービーには必ず Northern Dancer 系の出走馬が名を連ねていました。しかし、09年にターニングポイントが訪れます。この年、同系の出走馬が途絶え、28年ぶりに Northern Dancer 系が出走しないダービーとなりました。昨年はメイショウウズシオ、シャインと2頭出走しましたが、今年はまたゼロ。Northern Dancer 系にとって冬の時代といえるでしょう。
ただ、それは日本だけの現象であり、世界の主要競馬開催国、とくにヨーロッパとオーストラリアにおいては、Northern Dancer 系は相変わらず猛威を振るっています。昨日のエントリー(活躍馬が続出する「Galileo×デインヒル」)でご紹介したように、ヨーロッパでは20年近く生産界を牽引してきた Sadler's Wells とデインヒルが融合し、新たな名馬を次々と誕生させています。これらはいずれも Northern Dancer 系です。
いまからちょうど50年前の1961年5月27日に、カナダのウィンドフィールズファームで Northern Dancer は誕生しました。
父 Nearctic は St.Simon の影響が強いイギリス血統。母 Natalma には、伝統的なアメリカ血統を濃厚に含んだ Native Dancer と、Lady Josephine(現代スピード血脈の祖)の影響を受けた Mahmoud が入ります。ですから、基本的には異系交配的な産物で、異なる個性のぶつかり合いによって人知を超えた生化学反応が生じ、時代を画する傑作が誕生したというわけです。
http://www.pedigreequery.com/northern+dancer
Northern Dancer 系の現況については昨年11月に4回シリーズでご紹介しました。
Northern Dancer 没後20年(1)
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/11/northern-dancer.html
Northern Dancer 没後20年(2)
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/11/northern-danc-1.html
Northern Dancer 没後20年(3)
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/11/northern-danc-2.html
Northern Dancer 没後20年(4)
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/11/northern-danc-3.html
世間に流通する血統系の慣用句で、わたしが最も理解に苦しむのが「セントサイモンの悲劇」です。そもそも何が悲劇なのかよく分かりません。St.Simon が種牡馬として爆発的な成功を収めたあと、代を経るごとに系統が衰退していったのは事実です。しかし、それでサラブレッド全体のレベルが低下したかというと、そんな事実はどこにもないと思います。むしろ逆に上昇したとわたしは考えます。英ダービーの勝ちタイムの変遷からもそれはうかがえます。
Teddy、Blandford、Tourbillon、Hyperion、Nearco など、20世紀前半に登場した大種牡馬群は、ほとんど例外なくGalopin-St.Simon(=Angelica) の強い影響のもとに誕生しています。このあたりは笠雄二郎著『サラブレッド配合史』(http://www.miesque.com/c00001.html)に詳述されています。
http://www.pedigreequery.com/teddy
http://www.pedigreequery.com/blandford
http://www.pedigreequery.com/tourbillon
http://www.pedigreequery.com/hyperion
http://www.pedigreequery.com/nearco
サラブレッドの生産は父系を伸ばすことが目的ではありません。強い馬を作ることです。St.Simon 系が衰退したことを悲劇というのは父系愛好家だけでしょう。むろん、そうした事態が起こったからといって、当時の生産者が愚かだったわけでもありません。St.Simon の強い影響力がサラブレッド全体のレベルを上昇させたのですから、少なくともわたしのなかでは“悲劇”という言葉はピンときません。
もし仮に、遠い将来サンデーサイレンス系が衰退したとしたら、人々の心にセンチメンタルな疼きは生じるでしょうが、日本の生産界には何の不都合も起こらないでしょう。サンデーサイレンスが日本の生産レベルを大きく引き上げた事実は変わりません。そして、サンデー系が衰退してもサンデー牝馬を苗床とした新しい系統がたくましく伸びているはずです。わたしはそれで何の問題もないと考えます。
もっとも、同系統が増えすぎて父系が衰退するということが、現代ではほぼ起こりえないことは Northern Dancer が証明しています。St.Simon のころとは生産規模が違いますし、交通機関の発達によりサラブレッドが大陸間を自由に行き来する現代において、配合相手に困るという事態はまず考えられません。
誕生から半世紀、Northern Dancer の血が世界の果てまで広まり、4代前、5代前と血が遠ざかっていくと、系統全体が一斉に衰退期に向かうということは現実的ではないでしょう。いまや Nearco 系という区分に何の意味もないように、いずれ Northern Dancer 系という区分も過去のものとなるはずです。
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