馬の故障と高速馬場
この問題について触れた本が手元に2冊あります。
『競走馬の科学』(JRA競走馬総合研究所編・講談社・06年4月)
『コースの鬼!』(城崎哲著・競馬王新書・07年11月)
因果関係があるのかないのか議論を深める一助として、ちょっと長いのですが抜粋したいと思います。
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「記録と馬場の関係については、内・外のほかに『時計が速いのは馬場が硬いため』という考えがある。たしかに、硬い馬場は走行タイムが速い傾向にあるが、『時計の速い馬場=硬い馬場』とは必ずしもいえない。芝が密に生えそろって、クッションの効いた状態でも速いタイムを記録することがある。
また、『硬い馬場は事故のもとになる』という考えもあるが、これも誤った認識である。実際に、時計の速いレースで事故が多発するという傾向はない。競走馬は馬場が硬ければ硬いなりの、軟らかければ軟らかいなりの走り方をする。これから肢を着こうとする場所の状態が、競走馬の予想どおりであれば、危険はさほど高くない。
しかし、硬かったり軟らかかったり、また凹凸があったりした場合に、競走馬の肢は競走馬自身の予想とは違う動きをしてしまう。これがもっとも事故につながりやすい。
馬場は競走馬にとって走りやすく、より安全でなければならない。重要になるのが、馬場の均一性である。」(『競走馬の科学』139頁)
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「馬場造園課の人々にとっての理想の馬場とは、馬・騎手にとって安全で、公平で、たくさんの馬主が自分たちの馬を走らせたいと感じてくれるような馬場である。
それに対して馬場の速い・遅いは、ファンの関心の中心であっても、馬の故障やアクシデントの議論とかかわってくるため、馬場造園課としたら言いたくないし、聞きたくない。
彼らは、日本の馬場は外国のそれに比べて路盤が硬い=時計が速すぎる、だから日本は競走馬の故障が多いのだ、というワンパターンの論調で、マスコミ等から長らく――20年以上も――攻撃され続けたために、速いという言葉にやたらと過敏な体質がすっかりできあがってしまっているのだ。
といって馬場造園課がこの20年間マスコミの意見にまったく耳を傾けてこなかったわけではない。速い芝と言われることにうんざりしながら、それを何とかしたいといちばん思ってきたのは馬場造園課だったはずだ。そのため91年の阪神競馬場の馬場改造を初め、速いものを遅くしようといろんなことを試みてきた。だが結局、馬場の耐久性を犠牲にせずに、日本の馬場の物理的な特性――①アップダウンが少ない、②直線が長い、③労働集約的な管理によってコース面のデコボコが常に平らに修正されている、④洋芝よりも根の張った野芝が使われている――を越えられないというのが現実だった。
そうやって紆余曲折を経て、ヘタに路盤を軟らかくするくらいなら、もっと芝自体を丈夫にして、全体に均一な、保持力のある馬場を作ったほうがかえって安全な馬場に近づくのではないか、その副産物としてある程度の速さはやむをえないのではないか、という考え方に最近は変わりつつあるようだ。そのところをJRA施設部馬場土木課課長の矢島輝明さんは、
『時計が速いというのと、競走馬の故障しやすさは別のことだと考えている。現実にコース面がデコボコで不均一で遅いよりは、速くてもコース面が平らで硬さが均一な、保持力が十分な馬場のほうが事故や故障が少ないことがわかっている。
たとえば芝のレースの競走馬の故障率は1999年頃がいちばん高く、約2%だった(出走馬100頭中2頭という意味)が、最近はその半分強(1.1~1.2%)にまで下がっている。それに対してダートの故障率は現在でも1.4%程度だ。
脚元に不安のある馬がダートに回ることが多いとしても、芝とダートを比べたらダートのほうが断然タイムが遅い。それでいてダートのほうが事故率が高いのは、走破タイムと故障率の間に直接の相関がないことを示している』と説明する。」(『コースの鬼!』28-30頁)
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日本と諸外国、過去と現在、馬場別・距離別・競馬場別・クラス別……といった故障率の比較データがあれば見てみたいですね。
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