Northern Dancer 没後20年(1)
1990年11月16日、20世紀を代表する大種牡馬 Northern Dancer が死亡しました。29歳。年も年ですからいつ死んでもおかしくないという心の準備はしていたのですが、いざ訃報に接すると「ああついに……」という軽い虚脱感があったのを覚えています。
当時、22歳の栗山青年は、『週刊競馬通信』という雑誌の編集に携わりつつ、「血統SQUARE」という枠をもらって連載コラムを書き始めたばかりでした。いまでも似たような生活をしているわけですから進歩がないというか何というか……。初めて書いたのは「オペラ座の夜」という5回シリーズ。4分の3同血の関係にある Nureyev と Sadler's Wells について、Dalmary にさかのぼる牝系から描き出したもので、Northern Dancer 系の主導権争いは Sadler's Wells が勝利したと結論づけました。
なぜこの題材を取り上げたかというと、当時の生産界において Northern Dancer の存在感はきわめて大きく、数ある後継馬のなかでどのラインが主流となるかということが主要な関心事だったからです。そして、いまでもはっきりと覚えているのですが、原稿を書き上げたその瞬間、Northern Dancer の訃報を耳にしたのです。個人的にはそうした点からも印象深い出来事でした。
本日は Northern Dancer 没後ちょうど20年目にあたります。
世の中が否応なく変わって行くように、血統の潮流も大きく様変わりしました。1990年の種牡馬ランキングを以下に示します。
1位 ノーザンテースト(by Northern Dancer)★
2位 ミルジョージ(by Mill Reef)
3位 トウショウボーイ(by テスコボーイ)
4位 モガミ(by Lyphard)★
5位 ノーザンディクテイター(by Northern Dancer)★
6位 マルゼンスキー(by Nijinsky)★
7位 ブレイヴェストローマン(by Never Bend)
8位 ラッキーソブリン(by Nijinsky)★
9位 リアルシャダイ(by Roberto)
10位 アンバーシャダイ(by ノーザンテースト)★
10頭中6頭が Northern Dancer 系です(★が付いた馬)。サンデーサイレンスもトニービンもブライアンズタイムもまだ出てきていません。これらが出揃ったのが90年代の前半。ここから日本の血統シーンは一変していきます。しかし、90年の時点では、このまま Northern Dancer 系の天下が続いていくのだろうと、深く考えるまでもなく当然のこととして感じていました。
20年が経過したいま、日本における Northern Dancer 系は傍流に追いやられています。09年の日本ダービーには Northern Dancer 系の出走馬が1頭もありませんでした。10年の種牡馬ランキングでは3位のクロフネのみが Northern Dancer 系で、10頭中5頭がサンデーサイレンス系。わずか20年でこんな事態になろうとは想像できませんでした。(続く)
コメント