ここ数年、JRAレーシングビュアーを愛用しています。これがないと予想ができません。02年以降のJRA全レース、04年以降のダートグレード競走、84年以降のG1レース、重賞出走馬や2歳馬の追い切り映像に加え、レース開催日には各レース終了後3分ほどで映像がアップロードされます。海外でも日本にいるときと同じように視聴可能。これほど利便性の高い競馬映像サイトが月々525円で利用できるのですから素晴らしいの一語です。
http://prc.jp/jraracingviewer/index.html
今週は宝塚記念なので、宝塚記念の過去映像を眺めていました。84年、85年と、私が大好きだったグローバルダイナ(父ノーザンテースト)が頑張っています。84年は10番人気で3着。85年は7番人気で5着。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1980101955/
ステートジャガー事件によって記憶される85年のレースは、リアルタイムでたった一度観たきりでした。最後の直線でグローバルダイナが先頭に立ったシーンを25年ぶりに目にした瞬間、当時の高揚感、友達と交わした会話、場所(後楽園場外でした)まで、芋づる式に甦ってきました。プルーストの『失われた時を求めて』ではありませんが、記憶というのは不思議なものです。
http://ahonoora.web.fc2.com/takaraduka_1985.html
話は脱線しますが、80年生まれはノーザンテースト牝馬が豊作でした。前出のグローバルダイナ(阪神牝馬特別、小倉大賞典、北九州記念)のほか、シャダイソフィア(桜花賞)、ダイナカール(オークス)、ダイナマイン(新潟記念、牝馬東タイ杯)、シャダイチャッター(小倉記念)と、クラシック馬2頭を含む5頭の重賞勝ち馬が出ました。現在と違って当時はトップクラスの種牡馬でも1世代に50~60頭の産駒しかいなかったので、活躍の“濃度”はかなりのもの。ノーザンテーストは当時の生産界にあって完全に別格の存在でしたね。
このうちダイナカールは、年度代表馬エアグルーヴの母となりました。そして、アドマイヤグルーヴ、オレハマッテルゼ、エガオヲミセテ、フォゲッタブル、ウォータクティクス、フラムドパシオン、ルーラーシップなど、多くの活躍馬の牝祖となっています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1980101983/
シャダイチャッターは、プレミアムボックス、ワンモアチャッター、アリゼオ、そして今週の宝塚記念に出走するスマートギアなどを子孫から送り出しました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2005105204/
グローバルダイナの子孫から出た重賞勝ち馬はいまのところプリサイスマシーンだけ。今後の発展に期待です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1999106907/
桜花賞馬シャダイソフィアには子孫がいません。5歳秋のスワンS(G2)で故障し、予後不良となったからです。母ルーラースミストレスは馬主の吉田善哉氏が自らアメリカのセリで購買した馬だったので、愛着はひとしおだったようです。
「毎年多くの馬を生産し、事故はよく起きるが、そのつど深刻に考えていては身が持ちません。ただ、あれ以来、目をかけた馬が走ると競馬を見ていてレースが怖くなることがありますね。シャダイソフィアぐらい、きれいで品のいいサラブレッドはまれです。私が育てた数ある牝馬の中で最も血統のいい、気に入った馬でした。今思い出しても惜しい馬を失ったものです」(『優駿』86年12月号)
同期のオークス馬ダイナカールがあれだけの大牝系を築いたことを考えれば、シャダイソフィアが無事だったら……と思わずにはいられません。ルーラースミストレスの牝系は、その唯一の牝駒であるシャダイソフィアの死によって断絶しました。
しかし、それから3年後の88年11月、吉田善哉氏とその息子照哉氏は、アメリカでアンティックヴァリューという名の牝馬を購買しました。2代母 Brazen はルーラースミストレスと4分の3同血の関係にあり、アンティックヴァリュー自身はシャダイソフィアと配合がそっくりです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000038/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1980102040/
┌ Northern Dancer
アンティックヴァリュー ―┤
└○┐ ┌ Bold Ruler
└○┤
└ Amoret
┌ Northern Dancer
┌○┘
シャダイソフィア ――――┤ ┌ Bold Ruler
└○┤
└○┐
└ Amoret
アンティックヴァリューはシャダイソフィアだ、亡きシャダイソフィアを買い求めたのだ、と直感しました。
やがてアンティックヴァリューは二冠牝馬ベガの母となり、ベガはダービー馬アドマイヤベガの母となりました。亡きシャダイソフィアは、アンティックヴァリューの姿を借りて、再びこの世に降臨したのです。
……と書けば、ちょっとええ話やなぁ、となるわけですが、ベガが二冠を達成した直後、吉田照哉氏はインタビューにこう答えました。
「アンティックヴァリューの血統表を見たとき、すぐにソフィアの近親だなって気付いたけど、だから買ったというわけじゃない。いちいち1頭の血統にこだわってるヒマはありませんから」(『優駿』93年8月号)
これを読んだ瞬間、椅子からずり落ちそうになりました。まったく身も蓋もありません。外野が勝手に物語を紡いでも、それは想像の産物でしかなく、現実はたいていこんなところなのでしょう。