日本ダービーはエイシンフラッシュ
大相撲の優勝決定戦が立ち会いのはたき込みで終わってしまったような、そんな虚無感を覚えました。もちろん、ダービー勝利の価値が減ずるものではありません。レースを観戦する側として「う~ん……」という割り切れなさを感じたということです。
馬群が欅の向こうにさしかかり、1600mの通過が目視で1分41秒ぐらい。何かの間違いではないかと思いました。不良馬場だった昨年よりもさらに遅い極端なスローペースです。
優勝した△エイシンフラッシュ、2着ローズキングダムは、こういうレースに適性があったということです。スローペースでスムーズに折り合い、脚をためて最後に爆発させるという能力が問われたレースでした。スタミナはあまり関係ありませんでしたね。ちなみに1、2着馬は Kingmambo の直系の孫です。
エイシンフラッシュは「King's Best×Platini」という組み合わせ。父 King's Best は英2000ギニー(G1・芝8f)の勝ち馬で、歴史的名牝 Urban Sea(現役時代に凱旋門賞を勝ち、繁殖牝馬として Galileo や Sea the Stars を送り出す)の半弟です。母ムーンレディは牝馬ながら独セントレジャー(G2・芝2800m)を勝ちました。その父 Platini は93年のジャパンCで4着となっています。父母双方にドイツ血統が色濃く流れているのが特徴。皐月賞の差し脚は迫力十分ながら、良馬場の切れ味勝負ではサンデー系に対して分が悪いだろうと感じていたので、このメンバー相手に上がり32秒7で突き抜けたのは驚きです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007102951/
4月22日のエントリー「勢力を拡大するドイツ血統」から一部を抜粋します。
「主要競馬国の血統は、昔の時代に比べてクロスオーバー化が進み、国ごとの個性といったものが消失しつつあります。そうした時代にあって、ドイツ型馬産によって育まれた血統が、貴重な異系――つまりは活力源――として引っ張りだこになるのは自然な成り行きです。サドラーズウェルズと結びつけばその味を引き立て、サンデーサイレンスと結びつけばその味を引き立てます。そうした万能調味料のような役割を果たしてるからこそ、ドイツ血統は世界的な成功を収めているのではないかと思います。
現代における最も重要なドイツ血統は、1974年に誕生した Surumu でしょう。『スタミナはあるが重く、道悪が上手でスピードに乏しい』といった旧来のイメージから脱した、現代性を帯びたドイツ血統です。スピードがあり、堅い馬場も苦にしません。Surumu の2代母 Suncourt はテスコボーイの母でもあります。Monsun は、母の父に Surumu があってこそ世界的な成功を収めることができたのだと思います。」
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/04/post-5cf1.html
エイシンフラッシュの母の父は Platini、その父は Surumu です。このあたりの血は、引用箇所で触れたように素軽さがあり、堅い馬場にも対応します。母ムーンレディはひょっとしたら名牝かもしれませんね。1歳下の半弟はアグネスタキオン産駒。「栗山ノート」のアグネスタキオン産駒部門で1位に挙げています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103023/
◎ヴィクトワールピサはこのペースで好発から徐々に位置取りを下げるという不可解な競馬をし、向正面では若干折り合いを欠いていました。○ペルーサは見てのとおりスタートから誤算の連続で力を出しきっていません。今回のレースは不可抗力に近い事故のようなものととらえています。個人的にこの2頭の評価は下げません。
レースが終わり、検量室のなかで11R富嶽賞の騎乗馬を待つ岩田騎手は、重圧からの解放感からなのか思いのほか晴れやかな表情でした。騎手仲間と屈託無く笑い合う姿が印象的でした。ただ、検量室を出たあと、面識のある女性記者とのやりとりでは「悔しいけど、しゃあないもん」と絞り出すように答えていました。
もうひとり、検量室から四位洋文騎手が出てきたので記者が取り囲みました。いくつかの質問に丁寧に答えたあと、ほかの騎手の心理を代弁して最後にこう締めました。
「今日はみんな悔しいんじゃない? 勝った騎手以外は」
最終レースまで馬券を楽しんだあと、京王線で新宿へ出ました。望田潤さんなど競馬通信社の元同僚数名と飲み会。誰ひとりダービーを当てた人はいませんでした。《馬鹿話9:競馬論1》ぐらいの割合で夜遅くまで楽しいひとときを過ごすことができました。