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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2011年9月

2011年9月 5日 (月)

新潟2歳Sはモンストール

東西の2歳重賞は、いずれも「サンデーサイレンス×ノーザンテースト」の組み合わせから成る種牡馬(アドマイヤマックスとダイメジャー)の子が勝ちました。今年のオークス馬エリンコートも同じ組み合わせのデュランダルを父に持つので、今年はこの配合の種牡馬の活躍がやけに目立ちます。

もし3ヵ月前に、モンストール(父アドマイヤマックス)とエピセアローム(父ダイワメジャー)の血統表を渡されて、新潟2歳Sと小倉2歳Sのどちらを勝ちそうですかと問われたら、たぶん現実の結果とは逆を選択していたのではないかと思います。

新潟2歳S(G3・芝1600m)を勝った△モンストール(4番人気)は、「ここまで強いとは……」というのが率直な感想です。
http://www.youtube.com/watch?v=MgogWbg-xLM

「アドマイヤマックス×デヒア」はローカル向きの軽さを感じさせる配合です。現役時代のアドマイヤマックスは、高松宮記念(G1・芝1200m)を勝ったスピード馬で、母の父デヒアはパワー型のスピードタイプ。ここに底力を与えているのは2代母イソノルーブルでしょう。91年のオークス馬です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2009101347/

イソノルーブルの父ラシアンルーブルは、「Nijinsky×Buckpasser×Princequillo」という組み合わせで、マルゼンスキーと血統構成の8分の7まで同一です。ただし、マルゼンスキーのようなスマートさや才気はなく、硬さを帯びた重厚な血で、持続力に優れていました。帝王賞とフェブラリーHを勝ったラシアンゴールドの父でもあります。

イソノルーブルの母キティテスコは Nasrullah 3×3。こういうスピード配合の母からオークス馬を送り出したことでも、ラシアンルーブルの重厚さをご理解いただけると思います。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1988104640/

いまのところアドマイヤマックス産駒は大物感に欠けるものがほとんどですが、モンストールのほかにもう1頭、アドマイヤコスモス(中央転入後3連勝中)という有望株がいます。この馬の母アドマイヤラピスは、嵐山S(OP・芝3000m)を勝ちステイヤーズS(G3・芝3600m)でも2着となったステイヤー。重厚な血が入ると大物感を醸し出すという、素直なタイプの種牡馬なのかもしれません。モンストールの場合、前述のとおりオークス馬イソノルーブルが底力のバックボーンになっているものと思われます。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007101630/

モンストールの配合的なキーポイントとしてもうひとつ注目したいのは、母の父デヒアです。今回あらためて調べてみて気づいたのですが、母の父として非常に優れています。デヒア産駒は一本調子のダート馬が多く、ローカルのダート短距離、同1700mあたりで稼ぐようなタイプがほとんどでした。仮に自分が牧場を持っているとしたら、できれば入れたくないと感じるような血です。しかし、そうしたイメージは単なる先入観に過ぎません。8月終了時点で母の父としては連対率20.7%(497戦103連対)。この数値は立派の一語です。母の父として20%を超えてくるのは文句なしの一流です。

ある程度頭数が走っていてこれより上の数値を出しているのは、フレンチデピュティ(23.3%)とエンドスウィープ(22.0%)ぐらい。サンデーサイレンスは18.3%、ノーザンテーストは17.4%、トニービンは17.0%、マルゼンスキーは16.6%、トウショウボーイは15.5%です。

JRAで出走した「母の父デヒア」50頭中、社台系の牧場が生産した馬はわずか2頭。ほとんどが日高の生産馬でありながらこれだけの成績を挙げているのですから優秀という以外にありません。このほか海外でも、米最優秀スプリンターに輝いた Midnight Lute(07、08年ブリーダーズCスプリント)を出しています。
http://www.pedigreequery.com/midnight+lute

デヒアの父 Deputy Minister は母の父として定評があり、自身も07年に北米でリーディングブルードメアサイアー(母の父の種牡馬チャンピオン)に輝いています。また、前出のフレンチデピュティも Deputy Minister の息子です。アパパネの母の父 Salt Lake も一見大物感に欠けるのですが、これも Deputy Minister の子ですから、母の父として特別なものを伝えている可能性があります。

モンストールが反応よく先に抜け出し、ジャスタウェイの追撃を抑えたシーンは、アパパネがブエナビスタを破って優勝したヴィクトリアマイル(G1)に似ていると感じました。

新潟の外回りコースは直線の長い特殊なコースなので、32秒7という速い上がりで勝ったといっても、瞬発力タイプと決め付けることはできません。モンストールは、加速に優れているのは確かですが、本質的にはスピードの持続力で勝負するタイプではないかという気がします。小回りコースにも対応できるでしょう。

◎ジャスタウェイ(1番人気)は2着。3着以下を5馬身ちぎっているのですから力は示しました。予想は△◎で馬連950円的中です(ウマニティでは連単3080円的中)。

モンストール、ジャスタウェイの2頭は、例年の新潟2歳Sの勝ち馬レベルを上回っていると思います。秋の中央開催でデビューを予定している大物たちにとっては強敵でしょう。今年の2歳戦線は相当おもしろくなりそうな予感がします。

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2011年9月 4日 (日)

ゴールドアリュール化するネオユニヴァース

土曜小倉9Rの唐津特別(500万下・ダ1700m)は、ネオユニヴァース産駒のウインベルカント(3番人気)が快勝しました。

同馬が直線でグイグイ伸びてくる姿を目にしたとき、このところ薄々感じていたことが確信に変わりました。

ネオユニヴァースはゴールドアリュール化しているのではないか、ということです。

ヴィクトワールピサ、ロジユニヴァース、アンライバルドなどを送り出したネオユニヴァースは、大レースに強い種牡馬として馬産地で人気を博しています。ただ、最近の競馬を見ていると、イタリアンレッドのような芝の重賞勝ち馬が出現する一方で、全体的な活躍のフィールドは芝からダートへと徐々に移ってきているのを感じます。たとえば、先日のレパードS(G3・ダ1800m)ではタカオノボルが2着と健闘しました。冒頭でご紹介した唐津特別の3レース前、小倉6R(500万下)でもネオリアライズがダート1700m戦を圧勝しています。

産駒がデビューした08年以降、芝とダートでそれぞれ何勝ずつ挙げてきたかを年ごとに並べてみます。

     芝  ダート
08年 17勝  5勝
09年 40勝 21勝
10年 54勝 42勝
11年 21勝 60勝

昨年までは芝が優勢でしたが、今年に入ってからはなんと芝よりもダートのほうが3倍近く勝っています。

ネオユニヴァースは、ほかのサンデー系の有力種牡馬と比べて、軽快なスピードに恵まれいるわけではなく、スパッと切れるわけでもありません。その代わり、パワーと底力は十分。つまり、もともとダート向きに転化しやすい資質を備えていました。この先、若い世代からタカオノボル、ナムラカイシュウ、インペリアルマーチ、アドバンスウェイのようなパワータイプが台頭してくるのではないか思います。やがては第二のゴールドアリュールとなるかもしれません。

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2011年9月 3日 (土)

ダービーダン方式の至宝 Dynaformer(7)

ダービーダン方式で誕生した名牝 Memories of Silver は、ビヴァリーD.S(米G1・芝9.5f)、クイーンエリザベス二世チャレンジCS(米G1・芝9f)など7つの重賞を制覇。後者で樹立した1分45秒80というステークスレコードは現在も破られていません。

繁殖牝馬としても非凡な才能を示し、娘の Winter Memories(父 El Prado)は現在、アメリカの牝馬芝戦線で注目を集める存在となっています。芦毛がトレードマークの同馬はダービーダンファームの生産馬(正確にはフィリップスレーシングパートナーシップ)。2歳時の昨年はBCジュヴェナイルフィリーズターフ(G1)で2着と敗れたものの、今年に入ってからアパラチアンS(G3)、サンズポイントS(G2)、レイクジョージS(G2)と重賞3連勝。
http://www.pedigreequery.com/winter+memories

7月27日、ニューヨーク州のサラトガ競馬場で行われたレイクジョージS(米G2・芝8.5f)は、後方から大外を進出して直線で突き抜けるというモノが違うレースぶりで、まるで Zenyatta のようでした。偶然ですが両馬とも母に Roberto と Ribot の組み合わせがあります。
http://www.youtube.com/watch?v=poZrlkBK0hs

通算成績は7戦5勝。圧倒的な1番人気に推された前走のレイクプラシッドS(G2)は、内に押し込められる窮屈なレースを強いられ、しかも外に出そうとするときに進路をカットされるなど、スムーズな競馬ができず4着に敗れました。これは参考外の1戦なので、次走は巻き返してくるものと思われます。

順調に行けば、秋はキーンランドのクイーンエリザベス二世チャレンジCS(米G1・芝9f)を経てチャーチルダウンズのBCフィリー&メアターフ(米G1・芝11f)でしょうか。

クイーンエリザベス二世チャレンジCSは、ダービーダンファーム生産馬やダービーダン血統ときわめて相性がよく、84年のレース創設以来、計10頭が勝っています。先に記したとおり Winter Memories の母 Memories of Silver は96年にステークスレコードで優勝しました。

87年 Graceful Darby ★
88年 Love You By Heart ★
90年 Plenty of Grace ★
93年 Tribulation ★
96年 Memories of Silver ★
97年 Ryafan ☆
00年 Collect the Cash ◆
02年 Riskaverse ◆
03年 Film Maker ◆
10年 Harmonious ◆

   ★…ダービーダン生産馬
   ☆…ダービーダン血統
   ◆…Dynaformer 産駒

Winter Memories はダービーダンファームの生産馬ですから、このレースと相性がいいはずです。

もし仮に、続くBCフィリー&メアターフに Blue Bunting(英1000ギニー、愛オークス、ヨークシャーオークス)が出てくれば、ダービーダン血統同士の決戦となります。連載の冒頭に記したように、欧州3歳最強牝馬の Blue Bunting は Dynaformer を父に持ちます。Winter Memories よりも力は相当上でしょう。ただ、Winter Memories は成長力と底力に秀でた血統で、地元の利もあります。一発があっても不思議はありません。もし対決が実現するならば、個人的に今年のブリーダーズCのなかで最も楽しみなレースとなります。(この項終わり)
http://www.pedigreequery.com/blue+bunting

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2011年9月 2日 (金)

ダービーダン方式の至宝 Dynaformer(6)

ダービーダンファームにゆかりの深いわが国の競走馬はグラスワンダーだけではありません。現役時代にダービーを勝ち、ウオッカの父としても名高いタニノギムレットもそうです。

父ブライアンズタイムは以前ご紹介したようにダービーダンファームの生産馬です(正確にはジョン・フィリップスの母でジョン・W・ガルブレイスの娘でもあるジョディ・ガルブレイス)。

2代母タニノシーバードは、オーナーの谷水雄三氏が先代の急死によってカントリー牧場を受け継いで間もないころ、アメリカへ渡ってセリで落札した馬です。父 Sea Bird、母の父 Graustark は、いずれもダービーダンファームの繋養種牡馬。生産者はジョン・W・ガルブレイスなので、実質的にはダービーダンファームです。

父と2代母、すなわち血統の4分の3までがダービーダン血統で、同牧場の名種牡馬 Graustark を3×4でクロスさせています。あの重厚感あふれる万能型のキャラクターは、ダービーダンファームが作り上げた血統的個性を強く感じさせるものでした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1999100226/

Ribot は劇薬のような血で、正しい使い方をすれば素晴らしい効果を発揮します。そのかわり、使用量を守る必要があります。近い世代では単独で使ったほうがいいタイプです。強いクロスを作った場合、鈍重さ、硬さ、気性の難しさといったものを表しがちなので、決して扱いやすい血ではありません。ただし、稀にハマったときは大きな効果を発揮します。タニノギムレットはそうした稀有な例でしょう。

ブライアンズタイム、サンシャインフォーエヴァー、Dynaformer、Memories of Silver、Ryafan などは、いずれも Golden Trail の牝系から誕生しています。Roberto と Golden Trail を組み合わせると、Admiral Drake≒Roman、Flaming Swords≒Dinner Time という相似な血のクロスが生じます。
http://www.pedigreequery.com/admiral+drake
http://www.pedigreequery.com/roman

         ┌ Sunstar
       ┌○┤
Admiral Drake ┤ └ Maid of the Mist
       └ Plucky Liege

       ┌○┐
       │ └ Plucky Liege
Roman ――――┤   ┌ Sunstar
       │ ┌○┤
       └○┘ └○┐
             └ Maid of the Mist

http://www.pedigreequery.com/flaming+swords
http://www.pedigreequery.com/dinner+time

         ┌ Man o'War
Flaming Swords ―┤ ┌ High Time
         └○┘

         ┌ High Time
Dinner Time ―――┤ ┌ Man o'War
         └○┘

これが Roberto と Golden Trail の特別な好相性の鍵ではないか、と思われます。(続く)

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2011年9月 1日 (木)

ダービーダン方式の至宝 Dynaformer(5)

ダービーダンファームの現在のオーナーは、創業者ジョン・W・ガルブレイスの娘の息子、すなわち孫にあたるジョン・フィリップスです。生産馬や所有馬の名義は、以前からガルブレイス家やフィリップス家の個人であったり法人であったり共同所有であったり、その形態は無数のバリエーションがあります。それらを区分けするのは不毛な作業なので、ここではすべてまとめてダービーダンファームの馬とします。

Roberto と Ribot の組み合わせから誕生した名馬は、スタミナと底力に恵まれ、芝適性もありました。ダービーダンファームが作り出した名馬たちに潜む Ribot の血は、前回のエントリーでご説明した Graustark と His Majesty の全兄弟にほぼ限られます。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/08/dynaformer-ec72.html

ダービーダン方式は、サンシャインフォーエヴァー、ブライアンズタイム、Dynaformer といった牡馬だけでなく、数多くの名牝をも誕生させました。たとえば、Plenty of Grace(イエローリボンS、ダイアナH)とその4分の3妹 Soaring Softly(BCフィリー&メアターフ、フラワーボウル招待H)、Memories of Silver(ビヴァリーD.S、クイーンエリザベス二世チャレンジCS)、Ryafan(仏米でG1を4勝)など。最後の Ryafan はダービーダンファームの馬ではありませんが、血統は完全にダービーダン方式です。
http://www.pedigreequery.com/plenty+of+grace
http://www.pedigreequery.com/soaring+softly
http://www.pedigreequery.com/memories+of+silver
http://www.pedigreequery.com/ryafan

Plenty of Grace と Soaring Softly の姉妹は、Roberto と Graustark を併せ持ち、Soaring のファミリーに属しています。これは日本で走ったある名馬と同じパターンです。その名はグラスワンダー。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1995108676/

           ┌ Roberto
         ┌○┘
グラスワンダー ―┤
         └〇┐ ┌ His Majesty(=Graustark)
           └〇┤
             └〇┐
               └ Soaring

         ┌ Roberto
         │   ┌ Graustark(=His Majesty)
Plenty of Grace ―┤ ┌〇┘
         └〇┤
           └〇┐
             └ Soaring

グラスワンダーの生産者は、「フィリップスレーシングパートナーシップ&ジョン・フィリップス」。長ったらしくわかりにくい名前ですが、「ジョン・フィリップス」はダービーダンファームの現オーナーですから、実質的にはダービーダンファームの生産馬と考えて間違いありません。

怪物グラスワンダーはダービーダン方式によって生み出されました。桁違いの排気量、スピードもスタミナも十分という美点は、Roberto と His Majesty がベースとなって形作られたものです。(続く)

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競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!