カウンテスアップ――86年東京大賞典
よく知られているように的場文男騎手は一度も東京ダービーを勝ったことがありません。すでに十数年前から「大井競馬の七不思議」といわれていたほどです(残りの六不思議は不明)。
イギリス史上最多の4870勝を挙げたゴードン・リチャーズ騎手(1904~88)は、騎手記録をほとんど塗り替え、あらゆる名誉を手に入れながら、長い間エプソムダービーだけは勝てませんでした。彼は28回目の挑戦で初めて勝利しました。
的場騎手は現在、東京ダービー29連敗中。ついにゴードン・リチャーズ騎手を超えてしまいました。トップジョッキーのダービー連敗記録でこれ以上のものはおそらく世界にもないでしょう。
年末の大一番である東京大賞典も、たった一度しか勝っていません。しかし、カウンテスアップで勝った86年の一戦は、個人的に的場騎手のベスト騎乗ではないかと考えています。
1番人気に推されたハナキオー(堀千亜樹騎乗)は、羽田盃(ダ2000m)を9馬身差、東京ダービー(ダ2400m)を1馬身差、東京王冠賞(ダ2600m)を4馬身差で勝って南関東三冠を達成したほか、1200mの東京盃(この年は内回りで施行)もレコード勝ちした怪物。父アラナスからスタミナを、母の父カリムからスピードを受け継いだ万能型でした。
http://ahonoora.web.fc2.com/hanakio.html
これを倒したカウンテスアップは、戦前から距離不安が囁かれていました。当時の東京大賞典は3000mの長丁場。カウンテスアップはスピードが持ち味なので、2500mの大井記念では2年連続で4着と敗れ、ロッキータイガー相手とはいえ2400mのダイオライト記念、2800mの帝王賞でも2着と敗れていました。さらには全盛期を過ぎたという印象もあり、ここではハナキオーの引き立て役になるだろう、というのが大方の見方でした。
カウンテスアップは好スタートからさっとハナに立ち、すかさずスローペースに落とします。後続馬群をコントロール下に置いた的場文男騎手は、カウンテスアップの使える脚を計算し、仕掛けどころを考えるだけだったはずです。「遅いぞこれ……」とスタンドがざわつくほどのスローペースは、2周目の3コーナーあたりから徐々にペースアップし、完全な上がり勝負に。こうなればスピードに優るカウンテスアップの独壇場です。ハナキオーも三冠馬の意地をみせて追いすがりますが、3着以下を大差に引き離したマッチレースはカウンテスアップに軍配が挙がりました。
“的場文男の腕でもぎとった勝利”と表現するしかない非常に印象深いレースでした。カウンテスアップは1円も買っていなかったので馬券は完敗。しかし、いいものを見せてもらったという気分でした。
カウンテスアップは「フェートメーカー×ドレスアップ」という組み合わせで、Khaled 3×3のインブリードを持ちます。
http://ahonoora.web.fc2.com/countes_up.html
これは80年代末に帝王賞、ブリーダーズGC、全日本サラブレッドCなどの大レースを勝ちまくったフェートノーザンと同じ組み合わせです。オグリキャップ記念を勝ったメーカーロッキーも同様です。父フェートメーカーも母の父ドレスアップもまったくマイナーな存在だけに、この組み合わせから立て続けに大物が出たのは驚きでした。マジックのようなニックスといえるでしょう。
http://ahonoora.web.fc2.com/fate_northern.html
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1988100678/
┌ フェートメーカー(祖父 Khaled)
カウンテスアップ ―┤ ┌ ドレスアップ(父 Khaled)
└○┘
┌ フェートメーカー(祖父 Khaled)
フェートノーザン ―┤ ┌ ドレスアップ(父 Khaled)
└○┘
カウンテスアップの半姉フドウゴールド(父モハビ)は、カウンテスアップと同じく Khaled 3×3のインブリードを持ち、重賞のしらさぎ賞を勝ちました。その孫にオリオンザサンクス(ジャパンダートダービー、東京ダービー、羽田盃)がいます。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1979104965/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1996103237/
┌ モハビ(祖父 Khaled)
フドウゴールド ――┤ ┌ ドレスアップ(父 Khaled)
└○┘
的場文男騎手はこの年、自己最高の148勝を挙げ、桑島孝春騎手(190勝)、石崎隆之騎手(186勝)に次いで南関東の第3位に食い込みました。このあたりから名実ともに南関東を代表する名ジョッキーの仲間入りを果たしたと思います。
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