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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年12月15日 (水)

ディープインパクト産駒はなぜ逃げて強いのか

■日曜阪神9R・エリカ賞(500万下・芝2000m)は2番人気のスマートロビン(父ディープインパクト)が逃げ切り勝ち。
http://www.youtube.com/watch?v=epEwGUY-JoY

レース中盤に13秒台のラップが4回続く超スローペース。ただでさえ折り合いに難のある1番人気のアドマイヤセプターにとっては辛い競馬になりました。エイシンフラッシュが勝った昨年もそうでしたが、エリカ賞は出走メンバーの質が高いわりにこういうのんびりした競馬になりやすいですね。3着トーセンラー(父ディープインパクト)は最後まで前が開かず不完全燃焼。もったいない競馬でした。

昨日のエントリーに、富樫様からディープインパクト産駒が逃げた場合の勝率の高さ(7戦全勝)についてのご質問がありました。私の考えを述べたいと思います。

ディープインパクト産駒は出走回数に比して逃げる回数が少ないと思います。逃げ率は「4.4%」。これは2歳種牡馬ランキング上位10頭中、最低の割合です。つまり、20レース走って1回弱の割合しか逃げないわけです。

原因は何かと考えると、陣営の思惑などを除けば、ごく単純に「出脚が鈍い」ということに尽きると思います。12月6日のエントリー「ディープインパクト産駒のトビの大きさとその影響」のなかで、以下のように記しました。

「ヌーベルバーグに限らずディープインパクト産駒はトビの大きいものが目に付きます。したがって、強いて挙げれば機動力に弱みがありそうです。自転車でいえばギア比が大きいタイプですね。トップスピードは文句なしに速いものの、そこへ持っていくまでの漕ぎ足が重いため、機敏に変速することができないわけです。それがディープインパクト産駒にしばしば見られる勝負どころのモタつきの原因なのかもしれません。」
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/12/post-9f4d.html

以上の文章は「勝負どころのモタつき」について考察したものですが、じつは、トビが大きいことで一番影響を受けるのはスタートダッシュです。サクラバクシンオー産駒やロックオブジブラルタル産駒がなぜ先に行けるのかというと、回転の速いピッチ走法で小脚が使えるからです。

たとえば、世界一広いストライドを持つ陸上男子短距離のウサイン・ボルト選手は、ロケットスタートを武器としているわけではありません。小脚を使わなければならないスタート直後のスピードは他の選手と変わらず、レース中盤から後半にかけて、広いストライドを活かした爆発的なスピードで差を広げていきます。ディープインパクト産駒はこれに近いと思います。

ディープインパクト産駒が逃げる場合は以下の2パターンでしょう。①小脚を使えるタイプの産駒だった。②ほかに行く馬がいなかった。

①はディープサウンドやイングリッドですね。Danzig や Wild Again など、ピッチ走法に出やすい血が近い世代に入っています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102871/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102578/

今回のエリカ賞は②です。スタート直後にお見合いが始まり、押し出されるようにしてスマートロビンが先頭に立ちました。ディープインパクトはスタミナに不安のない中距離血統。産駒を見ていると、苦しい勝負どころでもうひと伸びできる精神力と、それを可能にする強靱な心肺機能を備えているように思います。ウサイン・ボルト選手のようにトップスピードに乗ってしまえば他の追随を許さないわけですから、自らペースを握り、後続馬に先んじてスパートしてしまえば、追いかける馬は辛いと思います。ディープインパクト産駒はほかの種牡馬の子よりも一枚上のトップスピードを誇り、さらに持久力もあるので、後続馬はなかなか追いつけません。そして、並びかけても粘り強いので厄介です。長くなりましたが、これがディープインパクト産駒が逃げて強い理由だと思います。

スマートロビンの2代母 Key Dancer は、名繁殖牝馬ダンシングキイ(ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードの母)の全姉で、スマートロビン自身は Lyphard 4×2。切れ味よりも持続力で勝負するタイプではないかと思うので、今回のように徐々にペースを上げて粘り込むようなレーススタイルは合っていたと思います。内田博幸騎手のファインプレーでしょう。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008100685/

■日曜小倉4R・新馬戦(ダ1700m)は1番人気の◎ロードエルドール(父スペシャルウィーク)が2番手から抜け出して完勝。
http://www.youtube.com/watch?v=8lJCpJ_h_6g

『ブラッドバイアス・血統馬券プロジェクト』に提供した予想は◎★△で3連単13万3000円的中。予想を転載します。

「◎ロードエルドールは『スペシャルウィーク×ティンバーカントリー』という組み合わせ。半姉シンメイフジ(関東オークス、新潟2歳S)、母レディミューズはチューリップ賞(G3)2着馬、2代母シンコウラブリイはマイルCS(G1)の勝ち馬という良血。パワーが感じられる配合なのでダートはこなすだろう。スペシャルウィーク産駒はダ1600m以上のダート新馬戦で連対率36.1%と走っている。」
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103555/

半姉シンメイフジ(父フジキセキ)は芝で頭打ちになったあと、関東オークス(G2・ダ2100m)に出走したところアッサリ勝ちました。母の父がティンバーカントリーなのでダートが下手なはずはありません。シンメイフジは牝馬だったので芝もこなしましたが、本馬は牡馬なので走りがパワフル。芝で走るには重いですね。母方に Caerleon が入るスペシャルウィーク産駒といえばブエナビスタと同じ。ただ、前述したようにロードエルドールは母の父がティンバーカントリーで、しかもセントクレスピン4×6などもあるので、配合から見てもやはり重いですね。

マイル以上のダート新馬戦に強い種牡馬は、ネオユニヴァース、スペシャルウィーク、クロフネ、ゴールドアリュール、ジャングルポケット。狙い馬に迷ったら、このあたりの産駒を選んでおけば間違いはありません。

■日曜中山5R・新馬戦(ダ1800m)は3番人気の○レーザーバレット(父ブライアンズタイム)が4馬身差で楽勝。
http://www.youtube.com/watch?v=YZ83rDz2QCA

「ブライアンズタイム×Mr.Prospector」ですからチョウカイキャロル、ノーリーズン、フリオーソと同じ。母方に Mr.Prospector 系が入るブライアンズタイム産駒はよく走っており、最近は芝よりもダートでの活躍が目立ちます。日曜阪神2Rの未勝利戦(ダ1800m)を6馬身差で圧勝したスマートルシファー(父ブライアンズタイム)も、母の父が Seeking the Gold(その父 Mr.Prospector)ですから同じパターンです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008104812/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008100694/

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コメント

なるほど
ウサインボルトですか
イメージとしては確かにそんな感じですね
あと、極端にディープ産駒の逃げ率が低いことに驚きました

細かい解説、ありがとうございました

栗山さん。こんにちは

ついこの間まで2勝馬がと言われていたディープですが結局ひと月もせずに言われなくなりそうですね。次は重賞馬がと言われそうですが。笑
これも一月には言われなくなりそう。勿論今週も十分可能性はあるんでしょうけど。

ディープ産は今のところ牡馬のオープン馬は意外に4頭とも大型だったり、リファールクロス持ちがやけに走ったりと個人的にまだまだよく分からないことだらけですが未来は明るいのではないかと思います。

>富樫様

こちらこそ、話題を振っていただきありがとうございました。

>kreva 様

こんにちは。サンデーサイレンス産駒がデビューした当初も、早熟説やら距離もたない説やら、重箱の隅をつつくように不安説がいろいろささやかれたものです。走る種牡馬の宿命のようなものでしょう。よほどの欠陥を抱えていないかぎり、裾野が広ければ頂点は高くなります。重賞勝ち馬、G1馬はこれからどんどん出てくると思いますよ。どんな配合馬が走るのかはこれから注視していきたいですね。はっきりしたことが分かるには2~3シーズンかかるのではないでしょうか。乏しい材料のなかでいろいろ推理したり仮説を立てたりするのは楽しいですね。毎週目が離せません。

ディープ産駒の逃げ切りに関する論考、たいへん興味深く読ませていただきました。
自分にとっても、スマートロビンのエリカ賞の逃げ切り勝ちは、大きな衝撃でした。
というのも、ここまで個人的に疑問に思っていた大きな問題に、解答が見つかったように思えたからです。
その疑問とは、リファールとトニービンに関するものです。
ディープの初年度産駒のここまでの特徴として、「トニービン牝馬との相性の良さ」と「リファールのクロスでもよく走る」の2つは、非常に重要な問題のように思われます。
トニービンはあれほどの大種牡馬のわりには、BMSとしては平凡な成績ではないでしょうか。サンデー系種牡馬×トニービン牝馬の配合も、ハーツクライだけが圧倒的に成功しているだけで、それ以外は期待したほどでもありません。
しかし、ディープ×トニービン牝馬は、はやくもニックスかと思うほどの相性の良さです。
リファールのクロスについては、これまで血統ファンの殆んどが「重い」とか「野暮ったい」とかいう、あまり芳しくないイメージで見てきました。
しかし、ディープ産駒の2勝馬4頭のうち、3頭までにリファールのクロスがあるのです。
こうした問題に頭を悩ませていた時、スマートロビンのエリカ賞を見て、問題の根っこは1つなのではと考えついたのです。
それは、望田潤さんがよく指摘される「サンデー×リファール×ハイインロー」にヒントが隠されているのではということです。
望田さんの指摘によれば、この配合パターンは、先行して粘り込むことでハイペリオンのスタミナを振り絞ることが出来るということになります。
その代表例が、それまで差し馬だったハーツクライを、有馬記念でルメール騎手が先行させ、ディープを完封してみせたレースでしょう。
しかし、ディープもまた「サンデー×リファール×ハイインロー」の配合になっています。そして、ディープこそは、この配合パターンの常識にことごとく反しています。この配合の欧州的スタミナで先行して粘り込むスタイルに対し、ディープは日本向きの切れ味で勝利を重ねてきました。
そこから何が言えるかというと、ディープの場合、ハイインロー的な要素が、OFFになっているとまでは言いませんが、充分にONになっていないのではないかということです。この点にディープの弱みがあり、日本での圧倒的な強さとは対照的な凱旋門賞での惜敗につながったのではないでしょうか。
そう考えると、配合によってONになりきっていないハイインローを刺激して強化するというのは、ありうる方策の1つだと思います。

そこで、冒頭のスマートロビンのエリカ賞に戻ります。
これまでのスマートロビンのレース振りは、出遅れ癖もあって、後方待機から末脚を伸ばすパターンでした。
しかし、エリカ賞で一転して逃げに転じて快勝したその姿は、レベルは違うにせよ、ハーツクライの有馬記念を想起させたのです。
スマートロビンは、ディープには似ていない雄大な馬格の持ち主ですが、アメリカンなパワー体型ではなく、リファールの影響が強く出た欧州的な馬体だと思われます(個人的にはダンシングブレーヴにちょっと雰囲気が似ている気がします)。
リファールのクロスによりハイインローがONになったことが、スマートロビンの特質なのではないかと思い至ったわけです。
そのように考えると、トニービン牝馬との相性の良さも、問題の本質は同じではないかと思えてきます。
トニービンによりハイインローが刺激され、ONになりやすいのではないでしょうか。
もちろん、リファールのクロスでも、ドナウブルーのように、ハイインローの特質とは無縁の切れ味優先のマイラーも出ています。しかし、ドナウブルーのような、桜花賞では狙えてもオークスではスタミナが持たなさそうな馬が、万一オークスでも好走するようなら、ハイインローのおかげかもしれません。
初年度産駒だけで結論を出すべきではありませんが、ディープ産駒の配合的なポイントの1つとして、ハイインローの強化というのは念頭においてもよいのではないでしょうか。

追伸
素人の浅はかな予想なので本文とは分けて書きますが、ディープ×トニービン牝馬とハイインローの関係性において、最大の注目馬はエアジャクソンだと思っています。
母はオークス馬レディパステルですが、何故この馬に注目するのかと言うと、ディープ産駒にもかかわらず、ハーツクライに体型が似ているからなのです。
ハーツクライは、サンデー×リファール×ハイインローの最も典型的な成功例ですが、ディープ×トニービン牝馬でもサンデー、リファール、トニービンという、ハーツクライを構成する主要な血脈が揃います。
ディープ×トニービン牝馬がハイインローを強化するなら、1頭ぐらいはハーツクライに似た馬が出来るのではないかと思い、馬体画像を調べなおしたところ、エアジャクソンだけはハーツクライに雰囲気が似た馬体であることが分かりました。
エアジャクソンのデビューが何時になるのかわかりませんが、ディープとハーツクライの良い所どりのような馬になってくれないものかと妄想している次第です。

ディープインパクトの Lyphard クロス馬はたぶんダメだろうと考えて、「栗山ノート」に1頭も含めなかったのですが、これだけ走られるとまさにぐうの音も出ないというヤツです(笑)。

世界的にほとんど実績のない Lyphard クロス馬が、なぜディープインパクト産駒では走るのか、そして、トニービンとの好相性に着目してハーツクライと対比していく、というアプローチは、ディープインパクトの個性を炙り出す際になかなかスリリングな筋道だと思いました。長文ながらそれを忘れるくらい興味深く読ませていただきました。ありがとうございます。

ハーツクライの要素(トニービンを除く)を持つディープ産駒といえばドナウブルーとレッドセインツがいます。前者の2代母の父リファーズスペシャルはハーツクライの2代母ビューパーダンスの全兄。後者の3代母とハーツクライの3代母はいずれも My Bupers。ディープインパクトとハーツクライの関係はやはり何かありそうです。

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