【JCダート・オマケの消去法】
「もう師走っす。酒の季節っすね~」
一年中、酒浸りのアフター競馬評論家・鬼野谷が熟柿臭い息を吐きかけてきた。
「四十七士の討入りもすぐそこっす。そういえば、その大石内蔵助に『酒の心得五カ条』ってのがあるんすよ」
酒を飲むときは、一.口論をするな、一.注いでもらった酒はすぐ飲め、一.酒をそっと捨てるな、一.無理強いするな、一.女が困ってるときは助けよ。
「その五カ条、ぜ~んぶ鬼野谷に聞かせたいもんだね」
「ウシシ…。酒の馬名ベスト5ってのもあるんすよ」
1位ウオッカ、2位テキーラ、3位ストレートバーボン、4位ウイスキージャック、5位ジンオンザロック。
「何を基準にした順位なんだい。勝ち星の数かい?」
「いや、酒の度数っすよ。でね、この1位のウオッカの飲み方って結構ウルサイんすよ。注がれるときは、グラスを持ち上げちゃいけないんす」
「なんで?」
「ロシア人が言うには、持ち上げると幸せが逃げてしまうんだって。そして飲むときは一気にグラスを干すんだそうすよ」
「サケダイスキ、ヨイドレテンシ、ユキミザケの鬼野谷向きの酒だね。でも、ベスト5に日本の酒が入ってないけど…」
「ダメっす。洋酒にはかないません」
平成13年、酒の東西対決があった。
4月21日の土曜日、東京競馬場9R新緑賞・芝2300m、『テキーラ』ショットVSマチカネ『シラナミ』という酒馬名の東西対決がひそかに行われた。
テキーラの鞍上は初の短期免許で注目を集めるケント・デザーモ。レース、直線入り口で前が詰まって行き場をなくしてしまうが、さすが名手、俊敏な判断で外に持ち出し、東京の長い直線を利して一気の追い込みを決めた。シラナミは好位もずるずる落ちる一方で9着だった。
「テキーラのつまみにはチキンがいいそうすけど、今度のジャパンカップダートはチキンレースっすよね」
「トランセンドとエスポワールと、どっちが逃げるか、度胸試しみたいなもんだね」
「負けたら、チキン野郎!って一生バカにされそうすね」
「で、どっちが逃げてもいいけど、勝つのはどっち?」
「ん~、勝てないのはトランセンドでしょうね」
前2走(秋9月以降に限る)とも日本のレースを使用して、その中に1馬身差以上の快勝歴がなかった馬は[0-4-5-55]と未勝利。H16年、前2走が「G1南部杯2着→G1JBCクラシック2.02.4のレコード3/4馬身差1着」のアドマイヤドンが、単勝1.7倍の断トツ人気も2着がやっとだった。
今回のトランセンドもアドマイヤと同じローテで、前2走「G1南部杯アタマ差1着→G1JBCクラシック2.02.3で2着」。
「それにね、この秋2走の上がり3Fのタイム。エスポワールが37.3→36.7で、トランセンド36.8→37.3。エスポワールがわずかだけど0.1上回っているんすよ」
「エスポワール逃げ残りの可能性が0.1に秘められているってことだね。馬券も勝ち組に生き残れそうだね」
「そうす、レスポワール・フェ・ヴィーヴル(L' espoir fait vivre)人は希望によって生きるってね、フランスのことわざにもあるっすよ」
「鬼野谷の場合は、希望に酔って、じゃないのかい」
「まだまだ、ヨイの口っす。だいたいね、逃げ残りとか生き残りっていうゲスな言葉はないんすよ」
「じゃ、なんて言うんだよ」
「逃げ切りに死に残りっす。明治からっすよ「生き残り」なんて不甲斐ない言葉が生まれたのは。江戸で横井也有っていう俳人が詠ってるじゃないすか、死に残れ 一つばかりは 秋の蝉 ってね。エスポワールの死に残りっす」
「もう冬だけど…」
高橋学の「消去法シークレット・ファイル」の予想は、netkeiba.comをご覧下さい!