【京成杯オマケの消去法】
「トンド、トンド…」
正月の飲み過ぎで七草粥もノドを通らなかったアフター競馬評論家の鬼野谷がすすけた顔であらわれた。
「いやぁ、浅草の鳥越神社に行って来たっすよ。知ってる?とんど焼きって」
「まさかカルメ焼きやドラ焼きと勘違いして行ったんじゃないよね」
「……、そのマサカっすよ」
とんど焼きは江戸時代から続く正月行事のひとつで、七草の翌日に松飾りや注連縄を燃やし、火のまわりを竹の棒でとんど、とんどと突きながら歩き、その煙をあびて無病息災を願う伝統の祭りだ。最後にその火でモチを焼いて食べるのだが、これは子供の祭りで、大の大人が出しゃばるのは鬼野谷ぐらいだ。
「モチは食べそこなったけど、消去法の馬券が当たりますように、オバミホの収支ノートが黒字になりますようにって祈ってきたっすよ」
「鬼野谷の馬券、奇跡の的中!なんてのは祈らなかったの?」
「ずいぶんだなぁ。でも奇跡は確かに願ってきたっす。打倒!ディープって。キセキに注目っす」
去年の秋からすでに4つの重賞で4頭の若駒ディープインパクト産駒が勝ちあがり、今春のクラシックはディープだらけになりそうな予感だが、今週の京成杯で、鬼野谷は打倒ディープでフジキセキ産駒を狙うという。
「先日テレビの座談会で、ディープインパクトに対抗するならどの馬に乗ってみたいですかと問われた武豊が、やっぱサイレンススズカでしょうって言ってたんすけど、フジキセキを忘れてないかって言いたいす」
幻のダービー馬フジキセキ。
デビュー戦8馬身差、2戦目OPもみじSで後のダービー馬タヤスツヨシを②着に退ける馬なりのレコード勝ち。そして朝日杯、弥生賞と無敗の快進撃を続けるが、残念無念、名馬の証といわれる屈腱炎のために引退。
「無事だったら、ディープ並みにG1連戦奪取、間違いなしっす」
「でも、産駒成績が、去年2位から10位へと急落、重賞も9勝から2勝、種付けも休止とちょっと勢いに欠けやしない?」
「そこがキセキのキセキたる所以っす」と油煙ですすけた鬼野谷が、京成杯で推す馬がこれだ。フジキセキ産駒のブライトライン。
昨年5月に内国産種牡馬歴代1位の勝ち星を挙げ、暮れには1200勝を達成したフジキセキ。その血の底力で産駒ブライトラインに復活の気炎をあげてもらおうというのだ。
京成杯は、キャリアと実績に注目する手だという。
京成杯が1600mから2000mに距離延長されたH11年以降、キャリア5戦以上で連対率が5割以上あった馬は[1-2-4-16]。
このうち、(a)1600m以上でⅤなし馬は×、(b)前走非重賞戦で⑥着以下かつ0.6秒以上敗退馬は×、(c)前4走内に⑩着以下の大敗歴がある馬は×、(d)芝未経験馬は×、(e)前2走内に1400m以下の短距離戦使用ある馬は×、(f)前走1800m以下の未勝利戦1馬身差未満の辛勝馬は×、(g)前4走内に未勝利戦で1秒以上敗退歴ある馬は×。
以上の7項目をクリアしていた馬は[1-2-3-0]。
該当馬は、他にマイネルロブストがいるが斤量57㎏を嫌ってブライトライン本命だという。しかも、この馬券になった6頭のうち3頭が7番人気以下の伏兵だったというので、複勝狙いにするらしい。
「フジキセキのキセキって、ホントは奇跡じゃなくって、奇石って書くんすよ」
「ホントじゃなくて、みんな知ってるよ」
フジキセキは、馬名登録の時には「富士奇石」と申請されていた。
「石より堅い複勝馬券!」と言い張る鬼野谷。真っ赤な収支ノートにキセキは起こるのか。ヤケ酒だといって痛飲して凄む無頼虎飲にならなきゃいいけど。
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