片野治雄のファミリーテーブル考察
<種牡馬についての個人的見解>
「枝の定理」が07年の連載開始から一貫して牝系を重視した血統論を展開している理由、それは身体活動能力(細胞分裂の違いから生じる個体差の発現)を司るミトコンドリア遺伝子が母系からしか遺伝しないという事象に起因しています(レニン遺伝子は別)。しかし、だからといって父系からは何も遺伝しないと思っているわけではなく「車」に例えれば父系からは[車体=体躯]が、母系からは[エンジン=運動神経]が受け継がれている、と僕個人ではイメージしています。
かつてマイネル軍団・前代表の岡田繁幸氏がサンデーサイレンス産駒の特長について「筋肉量は少ないが、関節の可動域(ジョイント)部分の柔軟さはズバ抜けていて、そこから生み出されるキック力の強さがサンデー産駒の大きな武器。さらに顔が小さく鋭角になっていて風の抵抗を受けにくくなっている」という旨の発言をされていました。これを「車」で表すならばSS産駒の馬体とは極限の軽量化と、強い負荷にも耐えうる最高のクッションが備えられた「F1カー」に近い、と言えるのではないでしょうか。
また、芝・ダート兼用血統で、シーズンを問わずタフな活躍馬を数多く輩出するミスタープロスペクター系の競走馬たちの馬体はパリ・ダカ等で活躍するオフロード用の「4WD車」という表現が合うと思います。これらのように父系から遺伝される性質を「車体」として考え、あらゆる車体に似たような性能を持つ「エンジン」が搭載されていると仮定すれば、最もスピードの出やすいF1カーが上位の順位を独占するのは当然。すなわちSS産駒がリーディング首位を突っ走っていたのも納得いくわけです(多少、乱暴な理屈ではありますが)。
もちろん全ての種牡馬に当てはまるわけではなく、個々の遺伝子を伝達する能力には個体差があります。しかしリーディング上位にランクされる種牡馬には強い遺伝能力を有しているのは間違いなく、各競馬場・各レースの施行条件に照らし合わせて考えてみれば、競走馬ごとの適正条件が見えてくるのは至極当然のことのように思えます。