【朝日杯FS・オマケの消去法】
「見たかい?」
「何すか。家政婦のミタっすか?」
「月だよ、月。皆既月食をさ。先週の10日の夜だけど」
「10日っちゃ、土曜じゃないすか。忘年会の帰りってことは…」
「月に吠えてたろ!」
ツキとは無縁のアフター競馬評論家の鬼野谷。でも、月は見ているはずだ。浅草のドジョウ屋でマル鍋を囲んだ忘年会の帰り、東京スカイツリー上空に浮かんだきれいな月が、刻一刻と欠けていったのを見ているはずだが、泥酔して覚えちゃいない。
「月に吠えてた、つったって、朔太郎じゃあるまいし…」
「いや、吠えてた。馬券にツキをくれ!ってね」
「……、承知しました」と家政婦のミタまねで恥じ入る鬼野谷。
その鬼野谷が握りしめていた阪神JFムーン馬券、アドマイヤムーン産駒のファインチョイスは、逃げて直線失速⑪着に終わった。
が、ムーン馬券はまだ続く。
近代詩の巨星、萩原朔太郎の詩集『月に吠える』にこんなのがあると言い出した鬼野谷。
「冬って詩にさ、ふりつむ雪のうえにあらわれ、ってフレーズがあるんすよ」
「だから?」
「冬に萩と月と雪っていったら、スノードンすよ。朝日杯はコレっす」
イギリス最高峰のスノードン(標高1085m)にあやかって命名された同馬、父はアドマイヤムーン、そして前走は萩Sを勝っている。なるほど、萩と月と雪だが、こじつけにもほどがある。
「んなこと言ってると、宗家イザキシュゴロー先生に破門されるんじゃない?」
「でも、意外性の血統が魅力っすよ」
確かに、父アドマイヤムーンはドバイでいきなり勝ったり、ジャパンカップを5番人気の伏兵で制したり、スノードン自身も前走最低人気で単勝万馬券勝ちをおさめるなど、意外性では要注意の存在だ。
産駒の5番人気以下伏兵勝ちの出現数をみると、今年の2歳新種牡馬リーディング1位のダイワメジャーは27勝中4回、昨年ではディープインパクト41勝中1回となっているのに比べ、アドマイヤムーンは14勝中4回。意外性への期待値が上がる数字だ。
「なんだかワクワクしないっすか」
「だけど、言っちゃわるいけど、スノードンって、なんだかローカルな感じだね、西郷ドンって感じ。父と母から馬名をもらってスノームーンなんて付けたらしゃれてたのに」
「そっすかね。馬が犬になるよりいいんじゃないすか」
「なんだい、それ」
「徳川5代将軍の綱吉は、将軍に就く前は右馬頭って書いてウマノカミを名乗っていたんすけど、将軍になってからは、生類憐みの令で庶民をいじめ、犬公方、お犬様って嫌われていたんすからね」
「とんだ名将変更だね」
「?。改名っていえば、今回の朝日杯、昭和25年の第2回を制したトキノミノルって、デビューの時はパーフェクトって名前で走っていたんすよ」
「10戦無敗のダービー馬なんだから、そのままパーフェクトでもよかったのにね」
「そうすよね。でも、改名でもダメな馬もいたんすよ。マルマンライターって馬。デビューして⑩⑦⑧⑦着、これはいかんガス欠だってんで、マルマンガスライタに変えたんすけど、そのあとも中央では22戦して不完全燃焼、勝てずじまい」
「鬼野谷といい勝負じゃない」
「今回のスノードンでアッと言わせたいんすけどねぇ~」
OPの萩Sを勝った馬は、過去10年③⑬⑭①⑥着、H17年のフサイチリシャールが朝日杯を制した例がある。
しかし、スノードンのように前走1800m戦を使用していた馬は、グレード制導入のS59年以降、朝日杯で[10-7-7-59]と好走例が多いが、この連対をはたした17頭の共通項は、前3走内(キャリア2戦馬は前2走内)で着順掲示板を外したことがなかったこと。前走1800m戦を使っていた馬のうち、前3走内に着順掲示板を外す⑥着以下があった馬は[0-0-1-21]と連対例がない。
「同じアドマイヤムーン産駒なら、前走G2京王杯2歳S勝ちの太陽と月の仔レオアクティブのほうがいいんじゃないの」
「どうすかね。乗る電車が違ってるんじゃないすか」
「?」
「レース名を京王杯って改名する前、京成杯のときはその勝ち馬は[3-4-0-0]ってめっぽう相性が良かったのに、改名後は[2-1-0-7]。京成なら中山競馬場に行けるけど、京王なら東京競馬場に行っちゃいますよ。朝日杯は中山っすからね。それに、京王杯になってから勝った2頭は1分21秒台の時計で走っていたっす」
「レオアクティブは1分22秒1か」
「あと、前2走内に1600m未満の芝条件戦・未勝利戦で敗退歴があった馬は[0-0-1-18]っすからね」
「もう一頭のムーン産駒、激戦11分の2の抽選をかいくぐる強運をみせたハクサンムーンはどう」
「5馬身以上の圧勝がないキャリア1戦馬は[0-0-0-12]っすよ」
「なんだか、み~んなツキがなさそうだね」
「そうかも。朝日杯の行われる日曜日に出るのは下弦の月っすから
「?」
「いい加減にしろ、なんてね」
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