セレクトセール2020取材日記① 野中香良

【コロナ禍でも購買意欲は衰えず】1日目

 7月13日、14日の2日にわたって行われたセレクトセール。5月の選定馬委員会が開かれた段階では、当初の日程通りに開催できるのかということもテーマに上がっていたようだが、3密対策が事細かく施されて滞りなくセールが行われた。終わってみれば、コロナ禍であっても馬主の購買意欲の高さをまざまざと見せつける結果になった。
 既に報道されている通り、2日間の販売総額は何と187億6200万円(以下、全て税抜き表記)を記録した。昨年19年の205億1600万円こそ下回る結果となったが、コロナ対策のため、座席数の削減や事前に登録した購買者と同伴者のみしか訪れることができないという物理的な制限があったことなどを考えると、馬主にはコロナ禍が関係ない人も多いということを裏付けることになった。
 特に13日に行われた1歳セッションでは過去の記録を上回る馬が2頭も出ている。1頭目は「フォエヴァーダーリングの2019」(牡、ディープインパクト)。ダノンの冠名でお馴染みのダノックスに4億円で落札され1歳セッションの過去最高価格を更新。ちなみに、この1歳セッションの過去の最高販売価格は11年ラストグルーヴ(牝、父ディープインパクト、母エアグルーヴ)と19年ザレストノーウェア(牡、父ディープインパクト、母ミュージカルウェイ)が記録した3億6000万円だった。ところが、その数時間後には「シーヴの2019」(牡、父ディープインパクト)が5億1000万円と驚愕の数字を叩き出している。1歳セッション最高価格となったこの「シーヴの2019」を落札したのはショウナンの冠名で知られる国本哲秀氏。国本氏は常日頃から「ダービーを獲れるような馬を所有したい」という願望を口にしているという。馬係の他に国本氏が所有し02年の高松宮記念を制覇したショウナンカンプを管理していた元調教師の大久保洋吉氏をアドバイザーとして迎え、「シーヴの2019は10億円でも下りるつもりはなかった」と惚れ込んだ様子。アドバイザーを務めた大久保洋元調教師も「(セールの)朝に改めてみた際にオーラを感じたし、オーナーの思いが通じるといいね」というような趣旨の発言を周囲に語っていたほど。
 他にも国本氏は2日間の最後に上場された「キラモサの20」(牡、父ロードカナロア)を1億4000万円で落札し、netkeibaを売却した資金で莫大な金額を手にしたのではという下衆の勘繰りを裏付ける結果となった(参照https://pdf.irpocket.com/C2121/yCGV/QWuQ/NEnM.pdf)。
 来場していた調教師からは「ピンポイントで安いと思われる馬もゼロではないけど、リザーブ価格より上がっている馬が目立つし全般的に高額なのは間違いない」という声が強かった。裏話として、コロナ禍の影響で4月頃から調教師も馬主も北海道の牧場の下見が例年よりは少なかったという。緊急事態制限が解除された6月中旬までは見学や訪問を控えていたため、数カ月間は実物を見ていない状況下での購買だったようだ。とある調教師は「そういった意味でも1歳セッションは活況でした。2月以降に見ていなかった馬や時期的にすべての馬を事前に下見できた訳ではないので……」。その状況下でも億超えの馬が出てしまうのがセレクトセールなのだ。
 また、1歳セールは事実上ディープインパクト産駒が最後の上場になる可能性が高かったというのも、「フォエヴァーダーリングの2019」、「シーヴの2019」の2頭の高額馬を生み出した理由だろう。初日の最後の総括で吉田勝己氏は結果について「無観客でも競馬が開催され、JRAの売り上げがそれなりに維持されていることで馬主の皆さんが安心した部分もあったと思う。また、そもそも結果は期待していなかったので、本当に驚きです」という趣旨の会見で締め括っていた。ただ、コロナ禍で馬主も世間体を気にしたのか、例年とは違う名義での落札なども多く見受けられた。

056kanteiフォエヴァーダーリング2019 セリ風景

114tachiシーヴ2019 立ち写真