競馬王9月号チラ見せ企画 矢作芳人調教師インタビュー『2.5倍ルールの何が問題なのか?』

いつも競馬王をご愛読いただき、誠にありがとうございます。最新刊の競馬王9月号から、気になる記事・企画をチラ見せしていく当企画。今回は、矢作芳人調教師インタビュー『開成調教師の仕事』を特別に公開いたします。

9月号のテーマは在籍頭数制限に関するJRAのルール変更、いわゆる2.5倍ルールです。角居調教師が今年の1歳馬を一頭も預託しないこと自身のブログで発表するなど、様々な波紋を呼んでいる『2.5倍ルール』。調教助手当時からたびたびマスコミに登場して、JRA内部の問題点についてファンに教えてくれる存在だった矢作調教師に今回のルール変更について意見を伺ってみました。

取材・構成/横手礼一 写真/村田利之

矢作芳人調教師インタビュー『開成調教師の仕事』

ーー矢作先生は著書(『開成調教師』)の中で、調教師の仕事は「調教師の仕事の大半は仕入れ・入れ替え・レース選択」だと仰っています。今回の2.5倍ルールは、そのなかでもとくに、仕入れと入れ替えに大きな影響を与えると思うんですが。

「自ブロック制にしても2.5倍にしても、(中央)競馬会の施策によって、頑張っているつもりの人間がどんどん苦しめられていることは確かです。ただ、競馬会からいま第一に出てくる言葉は、とにかくダウンサイジングなんです。結果としてあまり良くない施策が出ることもあるんですが、根本には競馬を良くしよう、なんとかしようというという方向性は感じられます。

方向性はあるんだけれど、それがお役所体質で間違った方向に行ってしまっている。競馬会からこういう施策が出てくるのは理解できるんです。しかし、それを受けた調教師会の対応には不満を覚えます」

 補足すると、自ブロック制とは、昨秋から未勝利戦と500万下条件について、西から東へ、あるいは東から西へと、東西のブロックを越えたレース選択が(原則的に)できなくなったことを指す。「下級条件まで関西に持っていかれるのはたまらない」という美浦ブロックの救済が目的とも推測されるが、JRAによればあくまで「(JRAが負担する)トレセンから競馬場までの輸送費の削減」のための施策である。売り上げの減少が避けられない以上、経営規模の縮小はやむを得ない。ダウンサイジングが至上命題になるのは、なにもJRAに限った話ではない。

ーー調教師会は、あくまで日本調教師会なわけですよね。それの関東本部、関西本部がある。でも、一連の施策は、どうみても関東に肩入れしているように思われるんですが。

「そうですね。ここのところとくに、美浦有利な施策がどんどん通っています。それは競馬会から出てくるわけですが、調教師会もとくに反対もせずにそのまま受け入れてしまう。報告だけですよ、そうなりました、という」

ーー結果として、相互扶助的な側面が強くなっているように感じます。共存共栄を図る、というか。

「全体の中で弱者みたいな部分を助ける。共産主義的とでもいうのか、そういう傾向はありますね」

  矢作厩舎は現在リーディングを争っている。その意味では自分の権益を守るための発言とも思われかねない。だけど、言っておきたいのは、べつに矢作厩舎ははじめから現在の位置にいたわけではない、ということ。弱小厩舎のひとつから競争を勝ち抜いてきて、今の立場がある。それなのに、頑張ってきた結果がこれか? そういった理不尽を前にしての発言である。

「調教師会には頑張っている人間の足を引っ張るような雰囲気があって、あまり健全な姿とは言えません。でも、たとえば牧場は違います。いまは社台グループに寡占された状況ですが、基本的には自由競争ですよね。だから、僕らよりもよほど真っ当な、常識的な考えを持っているんです。たとえば2.5倍枠でも『オープン馬を在籍頭数制限の枠から外せ』と。

それを言っているのはべつに社台グループではないんですよ。日高の牧場から出ているんです。若手生産者とJRAとの会合で出ている発言なんです。JRAとしても、一番ほしいのはスター馬でしょう。われわれもスターを作るために頑張っているわけです。スターを作るべく努力してオープン馬に育て上げて、しかしそのオープン馬がいることによって新しい馬が入ってこられない、という大きな矛盾。だから、オープン馬だけは枠から外して、残りの総数を2.5倍にする。そうすれば、全体の頭数は抑えられるし、頑張っている人間も、ある程度報われる。そういう要求をしていますよ、牧場は。

だって、当然じゃないですか。牧場としても成績の良い厩舎に入ってもらいたいわけだから」

 7月26日現在、JRAには436頭のオープン馬がいる。そしてそのうちの303頭、7割近くが関西馬である。条件戦の数は東西のブロックで差はない。そのルールの中で勝ち上がってきた馬の数に、東西でこれだけの差があるのが現状だ。そして、オープンまで出世した馬は、重賞で勝ち負けになるごく一部を除いて、そこで「頭打ち」とい うことになってしまう。厩舎の経営に貢献してきたオープン馬たちが、頑張ったことによって厩舎の「邪魔者」になる、という逆説。これを前にした調教師の悩みについては、当事者でないわれわれには想像も及ばない。

「この前の月曜日(7月8日)、セレクトセールの初日に、馬主さんのテントに角居調教師とたまたま二人だけになったので、しばらくしゃべれたんですよ。冗談で『いいよね、角居ちゃん。今日は遊びだもんね、1歳馬は要らないし』って(笑)」……。

続きは、競馬王9月号掲載の矢作芳人調教師インタビュー『開成調教師の仕事』でお楽しみください。JRAへの提言だけでなく、グランプリボスのスプリンターズS出走の意図などを語っていただいております。

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