【ジャパンC・オマケの消去法】

 「変~身!」

「何やってんだ、いい年して」

早々と忘年会を済ませたアフター競馬評論家の鬼野谷が酔ってはしゃいでいる。

「フォーゼっすよ」

今年、仮面ライダー生誕40周年を記念して新たに仮面ライダーフォーゼが登場した。ライダー世代の鬼野谷には堪えられないらしい。1歳になったばかりの甥っ子を祝って、日本橋高島屋限定の仮面ライダー重箱おせちまで予約注文する始末だ。

「変身っていえば、昔、大井で馬が変身したっすよ」

とても素面じゃ聞いてられないが、どうやら本当のようだ。

1397日の大井競馬10レース『うお座特別』で、その出来事は起こった。

6歳のノーザンスカイという牡馬が競走除外となってしまったのだが、その理由が、「別の馬」だったからなのだ。前走5月の浦和競馬3着後に放牧に出され、戻ってきたら別の馬に変身?していたという。幸い、検量前の馬体チェックで事なきを得たが、そのまま走っていたら、と思うと珍事では済まされない。

「変~身!サラリン!」

「しつこいな、なんだい今度は」

「ジャパンカップにフランスから参戦してきたサラリンクスの変身ぶりに注目っす」

「でも、時計がケタ違いにひどいぞ」

「忘れたんすか、第一回のジャパンカップを。サラリンクスと同じカナダのウッドバイン競馬場での芝2400mの持ち時計が2.48.8っていうチョー遅だったフロストキングが、なんと20秒以上もの時計短縮で9番人気2着に粘ったんすよ」

「確かに、すんごい変身だった」

「今回は馬もそうだけど、サラリンクスの騎手スミヨンに注目っすよ」

今年30歳のクリストフ・スミヨン騎手。

日本では、昨年のジャパンカップでブエナビスタに騎乗し1着降着の汚点を残しているが、鬼野谷が言うには「立川談志ばりの奔放・毒舌」な騎手らしい。

「この裁定(自身の降着)は、世界に日本のジャッジがいかに下手かを知らしめるだろう」と毒づき、そのせいではないが、今年度は短期免許がもらえず、招待馬特例での騎乗となっている。

そんなスミヨン騎手。見習い時期には、名伯楽・故野平祐二氏に「とんでもない騎手になる」と言わしめた逸材で、デビュー4年目には一日5勝のフランス競馬タイ記録、21歳のときには、名調教師アンドレ・ファーブル(20年連続リーディングトレーナー)厩舎の主戦ジョッキーとなり、ロンシャン競馬場で一日にG1戦を3勝(1000ギニー・2000ギニー・リュパン賞)の快挙を成し遂げ、アスムッセン騎手以来15年ぶりの年間200勝越えと破竹の勢いだった。

だが、塞翁がヒノエウマの暴れ馬だった。

放埓な言動とムチの使用が災いして、ファーブル師から契約を解除され、馬主のアラブの王様アガカーン氏からも見放された。

障害競走や香港競馬に活路を見出して、まるで「都落ち」のような姿をさらしているが、どっこい、「天性の器量」が鈍っていたわけではない。

今秋のイギリス最高賞金レースG1チャンピオンSで見事1着をもぎとっている。

勝ち馬シリュスデゼーグルは、昨年のジャパンカップに参戦していた馬で、16番人気の9着だったが、スミヨン騎手で馬が変身した。

が、「言うことは言う」

姿勢だけは変わらなかった。

ラスト1ハロン、ムチ使用制限5回のところを6回叩いてしまい、騎乗停止のうえに賞金・騎乗料640万円没収の裁定が下された。

「たったムチ1回のオーバーでお金が全額没収なんておかしい」と愛用のムチを折るほどの激怒。

騎手会を巻き込んでの抗議にはさすがのBHA(英国競馬協会)もお手上げ、ラスト1ハロン5回以下のムチ制限は撤廃され、1回オーバーでの賞金没収も撤回された。

このアツい男が騎乗するサラリンクス、2走前のヴェルメーユ賞ではスタートで10馬身以上も出遅れての4着で度外視。前走では、1番人気のトレジャービーチ(英ダービー2着・愛ダービー1着・セクレタリアトS1着)を退けて4馬身差の10番人気での快勝とスミヨン騎手の腕が光った。

「日本の馬で変~身、はいないのかい」

「それが、いるんすよ」

「なんだい、なんだい」

「そう急かさないでくださいっすよ。トレイルブレイザーっす」

「えぇ~、それってアレだぞ、前3走内に条件戦使用歴あり、かつ連対外があった馬は[0-0-2-7]だぞ。前走が初重賞勝ちで、斤量2㎏以上増加は厳しいなぁ~」

「それがね」と言い出した鬼野谷。

過去10年、前4走内にG3以下の下級戦で連対を外したなんてがなく、前2走(年内に限る)とも日本戦を含むレース(牝馬限定戦除く)で連対していた5歳以下馬のうち、22002600m戦で2勝以上していた馬は、左芝(H14年中山は右芝)ゼロ勝や3カ月以上の休養馬を除き[2-2-3-0]

「どう? 3着ならありそうな気がしないっすか?」

「サラリンクスとのワイド馬券でもいいな」

「当たったら、もう一回ドンと忘年会すかね、アワビ付きの懐石もいいっすよ」

「酔っぱらいの介抱はたくさん。その手は桑名の焼き蛤」

「古っ! どっちが酔ってんすかね」

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