「これ何と読む？」
残暑で頭がクラクラしているときに何だってんだ。ジージーと暑苦しく昭和の旧式ＦＡＸがうなる。送信者は、アフター競馬評論家の鬼野谷だ。
「『織紅里』、と書いて何と読むか。ヒントは、平成３年の１月13日です。分かったら、東池袋の立呑み屋ryu`s barまで。ジャクハイ飲んで待ってます」
池袋の場末、隣が墓地という寒々しい立地にあるryu`sbar。開店当初からの常連でかれこれ通い詰めて10年になるが、そこでジャックダニエルのハイボール、略してジャクハイ一杯300円を飲んで待っているらしい。
競馬ファンなら常識の問題を、さも新発見！みたいに飛びつくオッチョコチョイなところがある鬼野谷だが、答えを知らないふりをしてryu`sbarに出かけた。
駆けつけ三杯、というところをパーハイ(ＩＷハーパーのハイボール)一杯かっこんで、すでに呂律のまわらなくなりかけている鬼野谷に追いついた。
平成３年、１月13日。京都競馬場で名馬オグリキャップの引退式が行われた。翌々日の15日にはオグリキャップの古巣・笠松競馬場でも、開場以来最多の２万5000人余が詰めかけて引退式が行われた。
そして、その名馬の名にちなんで、生まれた子供にオグリと命名しようと『織紅里』の漢字をあてて読ませる名をつけた親があらわれたのだ。オグリフィーバーはまさにとどまるところを知らない勢いだった。
「オグリちゃん、順調に育っていたら、今年二十歳っすよね。あの人は今！なんて探してみたいっすよね。そうそう、当時はね、もうひとつサダムって名前がね、パリで申請されたんすけど、それはやっぱサダム・フセインの連想から市当局が命名を拒否したそうす。日本でなら『定』って書いて受理されたのに…。そういえば、去年、ある保険会社の調査で、男の子の名前は『大翔』が一位だったんすけど、馬のつく漢字名がベスト100に４つも入っているんすよ。『蒼馬』が50位にランク、そのあと『駿』・『悠馬』・『颯馬』ってね。オレも、名馬千里を走る、から『千馬』でもよかったかなぁ」
名前になにかとこだわる鬼野谷。映画『座頭市』の勝新太郎ファンだったという田舎の伯父さんに自分の名前を命名してもらい、「新太郎」と付けるところを、なまりがきつくて両親が勘違いして「千太郎」になってしまったのを今でも悔やんでいるが、「新」と「千」じゃ新鮮さが違うと嘆く。
「でも、万太郎じゃなくてよかっただろう？
「なんで？」
「キン肉万太郎っていじめられたかもよ」
「……。それよっか、今週はローズＳっすよ。オークス馬エリンちゃんに桜花賞馬セリーナちゃん、漢字ならどう当てますかね」
エリン、絵鈴、絵凛、絵林……、セリーナ、芹菜、瀬里奈じゃステーキになっちまうし……とぶつぶつ一人モードになっていく鬼野谷。
「でも、あれっすよね。女の子だけに体重が気になるっすよね。やっぱデブはだめっすよ、キツイっす」
ローズＳの開催がひと月繰り下げられたＨ８年以降、良・稍重で行われたオークス上位１～５着馬のうち、休養をはさんで直行でこのローズＳに出走してきた馬は34頭いて[5-4-2-23]。
連対をはたした９頭のうち、体重が10㎏以上増加で連対したのは３頭いるけど、16㎏以上の大幅増加馬は[0-1-0-7]と勝ち馬なしだという。
Ｈ８年 オークス２着ファイトガリバー ＋18㎏で２番人気７着
Ｈ12年 オークス１着チアズグレイス ＋18㎏で３番人気５着
Ｈ15年 オークス１着スティルインラブ ＋22㎏で1.9倍１番人気５着
Ｈ22年 オークス１着アパパネ ＋24㎏で2.1倍１番人気４着
と実績上位の人気馬がことごとく体重大幅増加で沈んでいる。
「エリンコートもマルセリーナも陣営が20㎏以上増えてたくましく成長しているとコメントしているっすよ。大丈夫っすかね」
「じゃ、何を狙うんだい？」
「条件馬っす」
「ここ６年、前走条件戦使用馬は連対していないけどな」
前走条件戦使用馬のうち芝のレースで勝ったことがある勝ち星３勝馬をマークしろ、と鬼野谷千太郎の目が光る。
該当馬は、実施時期がずれたＨ８年以降[2-2-4-9]。このうち、
(a)連対率が５割未満の馬は×
(b)キャリアがすでに８戦以上あって前走条件戦使用馬は上積みなく×
(c)3カ月以上の休養馬は×
(d)前2走内に芝のレース52㎏以下の軽量(ローズＳは定量54㎏)で敗退歴ある馬は×
以上の４項目をクリアしていた馬は[2-2-3-0]。
通算成績[3-2-1-1]、前走1000万クラス勝ちのリヴァーレに注目する手だという。
「そんで鬼野谷、リヴァーレって、どう漢字をあてる？
「美しく『凛瑪麗』っすかね」
「何スカシてんの！『利払え』って聞こえない？ もっと予想を当てて利を払えってさ」
「耳、痛いっす」
「そうだろ、白夜のミポリンをだましてばっかりだからな」
高橋学の「消去法シークレット・ファイル」の予想は、netkeiba.comをご覧下さい！