【宝塚記念・オマケの消去法】

 夏至の日は暑かった。32℃。カンペキにビール日和だった。もちろん競馬王アフター競馬評論家の鬼野谷(おにのや)が黙っているわけがない。

「ソースはウスター♪タバコはキャスター♪長嶋はミスター♪宝塚はブエナビスタ♪ ちわーっす!一杯どうすか。白夜のヨーロッパじゃ夏至の日は夜っぴて酒をあびるそうっすよ」

「ここは日本…」と思う抵抗もむなしくノドはすでに危険水域だ。真夏日の夏至に真っ赤なシャツであらわれた鬼野谷に引き連れられて、高田馬場の某居酒屋でビールを午前0時過ぎまでグビグビあおることとなった。

「どうすか、この店。1600万すかね」

最近、なんにでも競馬のクラス分けで評価しまくる鬼野谷。自分が未勝利クラスなのを忘れているようだ。

「今度の宝塚、やっぱ女傑ブエナビスタに勝ってもらいたいすよね。もうこれで20戦目ですからね。一個でも多くG1を獲って歴代のジョケツ!に名を連ねてほしいっす。そうそうケツっていえば、ケツを閉じてじゃなくて、陰門を縫って踏ん張れるようにした牝馬の騸馬ってのがアメリカじゃけっこういるらしいっすよ。ケッケッ、傑作、穴窄、ほら、ジョッキのケツあげてもう一杯どっすか」

純朴そうなウエイトレスを目でなぶり、下品な薄ら笑いを浮かべて舌なめずりする鬼野谷。酒好きだが、すぐデキあがってエロネタにいくのが難だ。

「ところで鬼野谷、初代女傑ってなんだと思う?」

「そりゃ、クリフジっすよ。うちの爺さんがウオッカより強いって言ってますよ」

鬼野谷の爺さん卯三郎がいうクリフジ、血統名は年藤というが、S18年、ダービー・オークス・菊花賞の変則三冠馬となり、11戦無敗で引退した名牝だ。とくに、ダービーでは一回転してスタートを切る離れ業で6馬身差のレコード圧勝劇。今も忘れられないシーンだという。

「そのクリフジの仔がね、こないだダービーを勝ったんすよ。血が続いていたんすね」

今年の6月、園田で行われた兵庫ダービー、1着賞金800万円。そこでクリフジを7代母に持つオオエライジンという馬が無傷の7連勝、しかも7馬身差という途方もない強い勝ち方をした。オグリ再来か。当然のごとく中央進出の声が高まっている。

「でもね、ブエナビスタってクリフジよりも凄いんじゃなぁ~って爺さん一泡吹かせたいんすよ。宝塚を勝って、秋にジャパンカップで降着の汚名をすすぎ、有馬でシャンシャン、なんてメイドの土産話にどうすか?」

「縁起でもない。アキバの土産じゃないぞ!」

その鬼野谷、ブエナビスタにどうしても勝ってもらいたい最強データがこれだ。

前年の有馬記念連対馬の宝塚記念成績は、グレード制開始のS59年以降[7-2-4-9]。このうち、(a)5歳以下・(b)連対率5割以上・(c)前走着順掲示板確保の5着以内・(d)3カ月以上休養なし・(e)2走内に斤量59㎏以上の酷量を背負っていた場合そこで敗退なし、以上(a)(e)すべてをクリアしていた馬は[7-1-0-0]。負けた1頭は、去年のブエナビスタで、海外遠征帰りで減っていた体重を立派に仕上げすぎてプラス12㎏増がこたえたためだという。これを除くと、H3年メジロライアン・H6年ビワハヤヒデ・H8年マヤノトップガン・H9年マーベラスサンデー・H11年グラスワンダー・H13年メイショウドトウ・H18年ディープインパクトと7頭が勝っている。

「でもね、うちの爺さん、耳が遠くてね、ブエナビスタっていうと、何っ?ボインなブスだ? 違う、ブ・エ・ナ・ビ・ス・タ! 何っ?ええオンナですた?って聞き返してくるんすよ」

「隔世エロ血統らしいじゃないか」

「そんな~。でも、女傑ってフランス語でなんて言うか知ってる? héroïneってスペルでね、エロインって読むんすよ。ええ女はエロいんすよ」

「……」

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