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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2011年6月

2011年6月10日 (金)

豪州産の大器ランリョウオー

先週の競馬で最も印象に残ったレースは、重賞を除けば土曜東京10Rの湘南S(1600万下・芝1600m)です。好位を追走したランリョウオー(1番人気)は直線で前が壁になり、出しどころを探して馬群のなかでうろうろすること十数秒。ようやく残り1ハロンでバラけた瞬間、ケタ違いの瞬発力で抜け出してきました。イメージ的にはウオッカの安田記念に近いですね。
http://www.jra.go.jp/JRADB/asx/2011/05/201103050510h.asx

前走の紫野特別(1000万下・芝1800m)の勝ちっぷりを見れば、クラスがひとつふたつ違う馬であるのは明らかだったと思います。今回は多頭数の内枠を引き、馬群を捌いてこられるのかという課題があったのですが、能力水準が違っており楽々とクリアしました。

ランリョウオーはオーストラリア生まれの外国産馬。南半球で誕生したので北半球の馬よりも半年ほど生まれが遅く、現在4歳ではありますが実質的には3歳半です。父はオーストラリアの名種牡馬 Redoute's Choice。母はオーストラリアでG1を2勝した名牝 Hollow Bullet(ヴィクトリアオークス、アローフィールドスタッドS)。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007110121/

血統表を見ていただければ分かるように、母は日本ダービー馬タヤスツヨシの子です。同馬がシャトル種牡馬としてオーストラリアで供用された際、現地の交配によって誕生しました。

ランリョウオーには Redoute's Choice とサンデーサイレンスの組み合わせがありますが、いまのところ両者の関係は良好で、この組み合わせを持つ馬は連対率29.3%、単勝回収率154%と優秀です。

Redoute's Choice とサンデーサイレンスの関係については、3月8日のエントリー「サンデーと Redoute's Choice は好相性」で一度触れたことがあります。Halo と Sir Ivor のニックスの効果があるのではないかと思います。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/03/redoutes-choice-e493.html

社台グループは世界各地から大量の良血牝馬を輸入し、サンデー系種牡馬と交配させています。相性のいい血、そうでもない血、いろいろあると思いますが、Redoute's Choice はよさそうな感触がありますね。ランリョウオーは今年中に重賞を勝つ器でしょう。

2011年6月 9日 (木)

英オークスは Dancing Rain

英ダービーの前日、6月3日に行われた英オークス(G1・芝12f10yds)は、7番人気の伏兵 Dancing Rain が逃げ切りました。うまくペースを落としたムルタ騎手の好騎乗でした。したがって、良馬場(Good)にしては2分41秒73と時計がかかりました。
http://www.youtube.com/watch?v=1lGAhmMG5MM

「Danehill Dancer×Indian Ridge」という部分だけを見ればマイラー、もしくはスプリンターといってもおかしくありません。しかし、母 Rain Flower は英ダービー馬ドクターデヴィアスの4分の3妹です。
http://www.pedigreequery.com/dancing+rain3

             ┌ Ahonoora
           ┌○┘
Rain Flower ―――――┤
           └ Rose of Jericho

           ┌ Ahonoora
ドクターデヴィアス ―┤
           └ Rose of Jericho

最近“ドクターデヴァイス化粧品”というブランドをよく耳にするのですが、これはやはり馬の名前から採られたものでしょうか?

92年に英ダービーを勝った際は驚きました。ケンタッキーダービー→英ダービーというローテーションがまずありえませんでしたし、スプリンターの Ahonoora 産駒であるのも信じがたいことでした。母方に Alleged、Northern Dancer、Sicambre というスタミナ豊かな血が並んでいるので、そちらが強く出たということなのでしょう。

ドクターデヴィアスの半弟シンコウキング(父 Fairy King)は高松宮記念(G1・芝1200m)の優勝馬。Northern Dancer 2×3で、気性的に難しいところのある馬だったので短いところが合っていました。

Dancing Rain は、マイラー型種牡馬の Danehill Dancer と、ドクターデヴィアスの4分の3妹との間に誕生しました。スローペースに落とせば逃げ切ってもおかしくないかな、という印象です。

最近の英オークスは父にスピードタイプを持つ馬が台頭しています。昨年は Intikhab の子(Snow Fairy)が、一昨年は Pivotal の子(Sariska)が勝ちました。どちらも父だけを見ると買いづらいタイプですが、母方からスタミナを補っています。

2着 Wonder of Wonders(2番人気)は4頭出しのオブライエン軍団の1頭。「Kingmambo×Sadler's Wells」というニックス配合(エルコンドルパサー、Virginia Waters、Divine Proportions、Henrythenavigator など成功例多数)に加え、母が Galileo の全妹(つまり Wonder of Wonders は Urban Sea の孫)という超良血。競走馬としても繁殖牝馬としても楽しみな存在です。
http://www.pedigreequery.com/wonder+of+wonders

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2011年6月 8日 (水)

亀谷敬正著『血統ビーム 種牡馬ファイル』

亀谷敬正さんの新著『血統ビーム 種牡馬ファイル』(白夜書房)が発売されました。「オリジナルファイルも作成できる新感覚データブック」「正しいデータで分析すれば血統は最高の馬券ツールになる!」というキャッチがついています。種牡馬ごとの詳細なデータがカラーで分かりやすく、要点を絞ってまとめられており、馬券の買いどころが一目瞭然。巻末にはコース別の種牡馬ランキングも掲載されており、至れり尽くせりの内容です。亀谷流のオリジナリティにあふれています。1600円。

仏ダービーは Reliable Man

仏ダービー(G1・芝2100m)は6月5日、重馬場(soft)のシャンティイ競馬場で行われました。勝った Reliable Man は4月12日にデビューしたばかり。過去25年間で2歳戦を使わずに仏ダービーを制した馬はこれで6頭目ですが、キャリア3戦目はナトルーン(87年)と並んで最短、デビュー55日目はナトルーンの32日目に次いで2番目の記録。フランス版フサイチコンコルド、といったところでしょうか。

内ラチ沿いの最後方近くを追走し、最後の直線で馬群を縫って大外に持ち出し、差し切りました。先行馬が潰れるペースであったとはいえ、キャリアの浅い馬がこのような競馬をするのですから評価できると思います。ここ数年の仏ダービー馬はやや冴えなかったのですが、Reliable Man はちょっと違うかも、という期待を抱かせます。戦績はこれで3戦全勝。ジェラルド・モッセ騎手は15年ぶり3回目の仏ダービー制覇。
http://www.youtube.com/watch?v=V6x6Wawldds

父 Dalakhani、2代父 Darshaan はいずれも仏ダービー馬。したがって今回、3代連続で仏ダービー制覇を成し遂げたことになります。いずれもアラン・ド・ロワイエ=デュプレ調教師の管理馬です。2代母 Fair Salinia は英オークス(G1)など3つのG1を制した名牝ですから、なかなかの良血ですね。
http://www.pedigreequery.com/reliable+man

ちなみに、3代父 Shirley Heights、4代父 Mill Reef は英ダービー馬なので、5代連続のダービー父系でもあります。

Mill Reef(英ダービー)
  ↓
Shirley Heights(英ダービー)
  ↓
Darshaan(仏ダービー)
  ↓
Dalakhani(仏ダービー)
  ↓
Reliable Man(仏ダービー)

2代父 Darshaan はアガ・カーン四世殿下のオーナーブリーディングホース。仏ダービーを制したとき2着だったのは Sadler's Wells です。殿下は Darshaan がことのほかお気に入りで、「わたしが好む多くの美点を持った馬である」と評価し、01年に死亡するまで所有する繁殖牝馬に毎年数多く交配させました。重厚でありながら瞬発力もあるという血です。最近の日本の活躍馬ではダノンシャンティに含まれています。
http://www.pedigreequery.com/darshaan

Darshaan の最高傑作は Dalakhani。凱旋門賞、仏ダービーなど9戦8勝の成績を残し、03年のカルティエ賞年度代表馬に選ばれました。
http://www.pedigreequery.com/dalakhani

昨日のエントリーで Sadler's Wells と Darshaan のニックスについて触れましたが、Dalakhani 産駒もこのパターンはよく走っており、これまでに送り出した4頭のG1馬のうち、Reliable Man を含む3頭が Sadler's Wells を母の父に持っています。そのうちの1頭、コンデュイット(BCターフ2回、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)は日本に輸入され、10年からビッグレッドファームで種付けを行っています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2005190006/

Reliable Man と英ダービー馬 Pour Moi は血統構成がよく似ています。

          ┌ Darshaan
        ┌○┘
Reliable Man ―┤ ┌ Sadler's Well
        └○┘

          ┌ Sadler's Well
        ┌○┘
Pour Moi ―――┤ ┌ Darshaan
        └○┘

今後もこのパターンから一流馬が出てくることでしょう。

父 Darshaan、2代父 Dalakhani はアガ・カーン四世殿下のオーナーブリーディングホースでしたが、Reliable Man は違います。じつは今回の仏ダービーで1番人気に推されていたのは、殿下が所有する Baraan という馬でした。父は Dalakhani。スタートで出遅れてポツンと最後方に置かれるという最悪の競馬ながら、最後は3着まで追い込みました。
http://www.pedigreequery.com/baraan

寵愛した Darshaan の系統が3代連続で仏ダービーを制覇したのは、おそらく殿下にとっても誇らしいことだったと思います。ご自身の所有馬で成し遂げられればなおよかった、といったところでしょう。

早め先頭で2着に粘った Bubble Chic は、社台スタリオンステーションに繋養されているチチカステナンゴの子。9戦1勝(2着7回)と、どうにも詰めの甘い馬です。
http://www.pedigreequery.com/bubble+chic

今回の仏ダービーは1~3着が Nasrullah 系でした。Northern Dancer 系が圧倒的に強いヨーロッパではかなり珍しいことだと思います。

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2011年6月 7日 (火)

英ダービーは Pour Moi

欧州ギニー戦線では Galileo 旋風が吹き荒れ、とくに「Galileo×デインヒル」という組み合わせから3頭の勝ち馬が誕生しました。5月26日のエントリー「活躍馬が続出する『Galileo×デインヒル』」に記したとおりです。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/05/galileo-d5ba.html

6月4日の英ダービー(G1・芝12f10yds)、その翌日の仏ダービー(G1・芝2100m)が終わってみると、今度は Sadler's Wells と Darshaan の組み合わせが結果を出しました。今年のクラシック戦線はなぜか似たような配合が頑張る傾向が見られます。

英ダービーを最後方から差し切った Pour Moi(2番人気)はフランス調教馬。英ダービーをフランス調教馬が制するという例は、半世紀ほど前の50~60年代はそう珍しいことではなく、有名なところでは Sea Bird、Relko、ガルカドールなどがそうでした。ただ、このところは久しく絶えており、今回の勝利は76年のエンペリー以来じつに35年ぶりの快挙でした。手綱を取ったバルザローナ騎手は19歳の新鋭です。
http://www.youtube.com/watch?v=s2FAcL6iLMQ

父 Montjeu にとっては、Motivator(05年)、Authorized(07年)に続く3頭目の英ダービー馬。同じ Sadler's Wells 系のライバル Galileo は、マイルのギニー戦線でも成果を挙げていますが、Montjeu はほぼダービー専用。2400mでは安定して強い種牡馬です。すでに愛ダービー馬を3頭送り出しているので、これでイギリスとアイルランドを合わせて6頭目のダービー馬となります。

【英ダービー】
Motivator(05年)
Authorized(07年)
Pour Moi(11年)

【愛ダービー】
Hurricane Run(05年)
Frozen Fire(08年)
Fame and Glory(09年)

Sadler's Wells と Darshaan の組み合わせは定番のニックス。Sadler's Wells 産駒だけでも、High Chaparral、Islington、Milan、Ebadiyla、Yesterday、Greek Dance、Septimus など多くのG1馬が誕生しています。ですから、Pour Moi の配合を見た瞬間、まず最初に“またか”という感想が浮かんできました。
http://www.pedigreequery.com/pour+moi4

Montjeu は2400m向きの重厚なタイプなので、日本の馬場への適性はイマイチです。道悪が上手く、スピードと決め手を欠き、なかにはダートに活路を見出すものもいます。

惜しかったのは女王陛下の愛馬 Carlton House(1番人気)。この中間、脚部にアクシデントが発生し、ようやく出走に漕ぎつけたという状態。それで僅差の3着ですから強いと思います。ヴィクトワールピサと配合構成が似ているので好きなタイプです。このあとの巻き返しに期待です。
http://www.pedigreequery.com/carlton+house2
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007102923/

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      血 統 屋 http://www.miesque.com/
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2011年6月 6日 (月)

安田記念はリアルインパクト

「常識は、敵だ」という皐月賞のCMコピーが脳裏に甦りました。3歳馬がここで勝つという発想はなかったですね~。参りました。リアルインパクト(9番人気)は奇策を弄したわけではなく、真っ向勝負で堂々と勝ったのですから文句のつけようがありません。
http://www.youtube.com/watch?v=0mHpPzalyDc

安田記念がG1に生まれ変わった84年以降、しばらくは3歳馬に出走権が与えられていませんでした。96年に門戸が開放され、昨年まで4頭が挑戦して〔0・0・1・3〕という成績。重賞未勝利のリアルインパクトとは違い、いずれも重賞勝ちの戦績がありました。

96年 ゼネラリスト    14着
97年 スピードワールド  3着
00年 イーグルカフェ   13着
04年 メイショウボーラー 11着

3着に食い込んだスピードワールドは Woodman 産駒の外国産馬。いまだに早熟馬の代名詞として名前が挙がることもあります。2歳時からその能力を含めて古馬のような雰囲気を漂わせていた馬でした。3着といっても3番人気に推されていたので意外性はありませんでした。アメリカ産馬は総じて早い時期に完成します。

米ニューヨーク州のベルモント競馬場で毎年5月末に行われるメトロポリタンH(G1・ダート8f)には、3歳馬も出走することができます。過去50年間で3歳馬が6頭優勝しています。

69年 Arts and Letters
82年 Conquistador Cielo
87年 Gulch
92年 Dixie Brass
94年 Holy Bull
96年 Honour and Glory

ハンデはいずれも50~51キロ。古馬の一流どころが出てくればだいたい56キロぐらいは背負わされるので、安田記念に比べれば3歳馬が若干有利といえるかもしれません。

イギリスでは距離によって3歳と古馬の重量差が異なります。6~7月のG1では、6ハロン戦は3キロ差、8ハロン戦は4キロ差、10~12ハロンは5.5キロ差です。安田記念(芝1600m)の3歳と古馬の重量差は4キロですから、イギリスに習ったのかもしれません。ちなみに宝塚記念(芝2200m)は5キロ差です。

イギリスで7月上旬に行われるファルマスS(G1・芝8f)や7月下旬に行われるサセックスS(G1・芝8f)では、3歳馬がしょっちゅう勝っています。安田記念が6月上旬に行われているといっても、イギリスの例に倣うなら、3歳馬には注意を払うべきでしたね。狭い範囲の常識にとらわれて失敗しました。リアルインパクトの勝利をきっかけに、来年以降、NHKマイルC→安田記念という進路をとる馬が増えると思います。“3歳馬VS古馬”という新しい対抗軸ができればレースはさらに盛り上がるでしょう。

リアルインパクトはディープインパクト産駒。昨年暮れの朝日杯フューチュリティS(G1・芝1600m)で本命を打った馬でした。3歳春に古馬混合マイルG1を勝ったのは、母トキオリアリティーのアシストが大きいと思います。母は「Meadowlake×In Reality」という組み合わせのアメリカ産馬で、距離面に限界のある芝・ダート兼用のスプリンターでした。アメリカ産馬が早い時期に完成するというのは前述のとおりで、また、ディープインパクトは基本的にスプリンター血統と相性が良好です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103244/

母の父 Meadowlake はデビュー戦(ダート6f)で後続を22馬身引き離して勝ち、「Secretariat の再来」と騒がれたスピード馬で、続くアーリントンワシントンフューチュリティ(米G1・ダート6.5f)も9馬身差で圧勝、通算3戦全勝で引退しました。Blue Moon≒Nothirdchance 2×3が配合上のキーポイントです。
http://www.pedigreequery.com/meadowlake

        ┌○┐ ┌ High Time
        │ └○┤ ┌ Man o'War
Blue Moon ―――┤   └○┘
        │ ┌ Blue Larkspur
        └○┤ ┌ Sir Gallahad
          └○┘

          ┌ Blue Larkspur
        ┌○┤ ┌ Man o'War
        │ └○┤ ┌ High Time
Nothirdchance ―┤   └○┘
        │ ┌ Sir Gallahad
        └○┘

Meadowlake の代表産駒はG1を6勝した名牝 Meadow Star。トキオリアリティーと Meadow Star は配合構成が酷似しています。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1994109536/
http://www.pedigreequery.com/meadow+star

           ┌ Meadowlake
トキオリアリティー ―┤ ┌ In Reality
           └○┤   ┌ My Babu
             │ ┌○┘
             └○┘

           ┌ Meadowlake
Meadow Star ―――――┤ ┌ In Reality
           └○┤
             └○┐ ┌ My Babu
               └○┘

トキオリアリティーは現役時代に3勝し、準OPまで出世しました。繁殖牝馬としてはリアルインパクトのほかにアイルラヴァゲイン(オーシャンS)を出しています。この好成績は Meadow Star と配合構成が似ているという部分が影響しているのではないかと思います。

スタミナ色が強かったエルコンドルパサーを相手にしても、アイルラヴァゲインのようなスプリント職人を産むのですから、トキオリアリティーは頑固なスピードを伝えています。このような繁殖牝馬を相手にマイルG1の勝ち馬を出したディープインパクトは、しっかりとしたスタミナを伝えることのできる種牡馬だと思います。ディープインパクト自身はスタミナに不安のない中距離血統で、ディープインパクト産駒の買いどころは基本的にマイル以上――というのはこれまでたびたび主張してきたところです。オークスとダービーで討ち死にしたのは主に馬場状態の影響であって、距離適性の問題ではないと思います。

リアルインパクト自身は、Nothirdchance≒Blue Moon 5×4・5。母の父 Meadowlake が持つクロスを継続しています。このあたりの血脈構成については2月13日のエントリー「クイーンCはホエールキャプチャ」でも触れておりますのでご覧ください。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2011/02/post-6544.html

Meadowlake 牝馬はサンデー系と掛け合わせるとこのクロスが生じますが、アメリカ血統と相性のいいディープインパクトの場合、とくに効果が大きかったということでしょう。ディープインパクトは今後、中・長距離のビッグレースで活躍する馬をたくさん出すでしょうし、マルセリーナとリアルインパクトによってマイル戦でもまったく問題ないところを示しました。奥の深い種牡馬です。

○ストロングリターン(5番人気)は2着。石橋脩騎手の追いっぷりが凄かったですね。勝ち馬にクビ差まで迫ったのですから負けたのは勝負のアヤ。大健闘といえる内容でした。完全に本格化しています。前にも記したとおり元POG所有馬なのでこのところの活躍は嬉しいかぎり。

▲アパパネ(1番人気)は6着と掲示板を外しました。単勝2.2倍というオッズはちょっとかわいそうな気もしました。蛯名騎手は目に見えない疲れを敗因に挙げています。

◎ダノンヨーヨー(2番人気)は出遅れ。スタートでリズムが狂ってしまいレースになりませんでした。

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2011年6月 5日 (日)

ユニコーンSはアイアムアクトレス

強さは認めつつも1400向きとみてバッサリと切ったアイアムアクトレス(3番人気)。逆にこちらがバッサリやられてしまいました。ここまで強いとは……という感想しかありません。
http://www.youtube.com/watch?v=kHSVRR-ate4

この条件を勝たれてもなお主張したいのですが、やはりこの馬は1400のほうが持ち味が活きると思います。あと1ハロンの我慢ができたのは実力でしょう。距離をこなしたことで今後の選択肢がグンと広がります。ひょっとしたらダート2100mの関東オークスも視野に入っているかもしれません。牡馬相手にマイルでこのパフォーマンスですから、牝馬同士なら2100mでもいけるのではないかという気がします。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102746/

アイアムアクトレスについては当ブログでもたびたび触れてきました。それらの一部を再録したいと思います。

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【2011年2月1日/未勝利戦(ダ1400m)回顧】
母アイアムザウィナーは、オーナーの堀紘一氏が故大川慶次郎氏と一緒にアメリカのセリへ行って買ってきた馬です。20年ほど前、堀氏がフジテレビの『平成教育委員会』に出演された際、控え室で番組収録を待っていると、大川氏から「馬を買ってみませんか」と誘われたそうです。これが競馬の世界に入るきっかけでした。その後、堀氏のご長男は吉田照哉氏のご長女と結婚されたので、結果的に見ると大川氏の働きかけは非常に大きなものでした。

大川氏と一緒に買ってきたアイアムザウィナーは、競走馬として重賞入着を果たし、繁殖牝馬としても重賞勝ち馬を送り出しました。非常に優秀です。「Danzig 系×Mr.Prospector」ですからコンスタントにスピードを伝える一方、やや一本調子なところがあるので、芝向きの瞬発力に秀でたアグネスタキオンとの配合でも、ダートでは抜群に強く、芝でも1400mあたりがベストになります。

【2011年5月24日/昇竜S(ダ1400m)回顧】
アイアムカミノマゴ(阪神牝馬S)の全妹にあたる良血で、女優の川島なお美さんが名付け親。昨年暮れのデビュー戦(芝1600m)はのちの桜花賞馬マルセリーナの2着でした。心なしか当時に比べてフットワークがダート向きになっているような気がします。これでダートは3戦全勝。
(中略)。
「Danzig 系×Mr.Prospector」という母方はパワー満点ですが、そこはアグネスタキオン産駒ですから、1分22秒8という芝並みの超高速決着に向いたといえるでしょう。

昇竜Sはもともと中京競馬場で行われていましたが、改修工事の影響で昨年、今年と京都競馬場で行われています。距離も1700mから1400mに短縮。このレースには牡馬の骨っぽいところも出てくるわけですから、牝馬が勝つのは珍しく、アイアムアクトレスがレース史上2頭目となります。前回勝った牝馬は09年のラヴェリータ。周知のとおり同馬はその後重賞を勝ちまくっています。アイアムアクトレスの前途も明るいでしょう。

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アグネスタキオン産駒が東京ダ1600mに良績を残しているのは事実です。わたしの本命は同産駒の◎アストロロジー(7番人気)。しかし、前半から追走がやっとで後方のまま14着と大敗。初ダートとはいえもう少し頑張れると思ったのですが……。

安田記念の前日オッズはアパパネが1番人気。2000年以降このレースで連対した牝馬はウオッカとスイープトウショウのみ。いずれも牡馬のトップクラスを相手にG1を勝った経験があります(レース後も含めて)。アパパネがそのクラスの女傑なのか今回が試金石です。

2011年6月 4日 (土)

Dr.Fager と In Reality のニックス(3)

Fappiano 的な遺伝子を受け継ぐ種牡馬は Fappiano 系だけではありません。Storm Cat 系の Forestry もそうです。プリークネスS(米G1・ダート9.5f)を勝った Shackleford の父です。日本ではエーシンエフダンズ(オーシャンS-2着)が代表格で、パワー型の短距離馬を多く出しています。

Forestry は産駒が出始めのころはきわめて評価が高く、つい5年前まで種付料は10万ドルを超えていました。このところ成績が停滞気味のため評価を落としており、今年は12500ドルでした。Shackleford の活躍が人気復活の契機となれば……といったところです。

Forestry が最も輝いていた時期は06年あたりでしょうか。米フロリダのファシグティプトンコールダーセールで、Forestry を父に持つ2歳牡馬がなんと1600万ドル(当時の邦貨で約18億円)で落札されました。クールモアとゴドルフィンの二大勢力が真っ向から競り合い、最終的にクールモアが手に入れました。公開調教で1ハロン9秒8という恐るべきタイムをマークしたことが直接的な材料でしたが、配合的な裏付けもバイヤーの心理に影響を与えたのではないかと思います。

この馬、のちに The Green Monkey と名付けられる2歳牡馬は、ニックスの関係にある Dr.Fager と In Reality を4・4×3という形で持っています。父 Forestry はこのニックスを Dr.Fager によって継続しているのですが、父の2代母 Surgery は Fappiano と血統構成がよく似ているので、Surgery≒Fappiano 3×3でもあります。
http://www.pedigreequery.com/the+green+monkey

      ┌ Dr.Fager
Surgery ――┤
      └ Bold Sequence(≒Gold Digger)

      ┌○┐
      │ └ Gold Digger(≒Bold Sequence)
Fappiano ―┤ ┌ Dr.Fager
      └○┘

            ┌ Nasrullah
          ┌○┘
※ Bold Sequence ―┤
  (≒Gold Digger) └ Sequence

            ┌ Nasrullah
          ┌○┘
※ Gold Digger ――┤
 (≒Bold Sequence) └ Sequence

このあたりの配合的妙味については、競り合ったクールモアとゴドルフィンは当然知っていたはずです。いかに資金力があろうと、ただ単に馬鹿っ速い時計を出した2歳馬に18億円も出すはずがありません。種牡馬としての価値が織り込まれていなければ採算がとれません。

このセールの直後、ドバイで行われたUAEダービー(首G2・ダート1800m)を、Forestry 産駒の Discreet Cat が6馬身差で圧勝し、世界的な注目を集めます。同馬はその後、アメリカへ移籍し、シガーマイルH(米G1・ダート8f)、ジェロームBCH(米G1・ダート8f)などを勝ち、通算9戦6勝の成績を残しました。こちらはゴドルフィンの所有馬です。母方に In Reality を持つので、Dr.Fager と In Reality のニックスを持っています。
http://www.pedigreequery.com/discreet+cat

プリークネスSを勝った Shackleford は「Forestry×Unbridled」ですから、セールで1600万ドル(約18億円)の値がついた The Green Monkey と同じ組み合わせ。母系の奥にはもう1本 In Reality が入るので、Dr.Fager と In Reality を4・4×4で持っています。この点も The Green Monkey と似ています。
http://www.pedigreequery.com/shackleford

The Green Monkey は3戦未勝利で引退し、とんでもなく無駄な買い物だったと嗤われましたが、少なくとも配合的な方向性は間違っていなかったような気がします。Forestry 産駒にはこのほか、Etched(米重賞3勝)、Forest Grove(米G3勝ち)、Congressionalhonor(米G3勝ち)などがニックスを継続する配合で走っています。
http://www.pedigreequery.com/etched3
http://www.pedigreequery.com/forest+grove2
http://www.pedigreequery.com/congressionalhonor

いまのところ Shackleford については、たまたまラッキーパンチが入った程度の評価ですが、半姉にアラバマS(米G1)を勝った Lady Joanne(父 Orientate)がおり、そしてニックスを刺激した好配合ですから、思った以上に奥の深い馬かもしれません。(この項終わり)

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      血 統 屋 http://www.miesque.com/
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2011年6月 3日 (金)

土曜日に東京競馬場でイベント

土曜日の14時30分ごろから16時30分ごろまで、東京競馬場のセンターコートで「リアルタイム情報ステーション」に出演します。共演は須田鷹雄さん、阿部幸太郎さんです。よろしかったらお立ち寄りください。

Dr.Fager と In Reality のニックス(2)

稀代の快速馬 Dr.Fager は、引退後に種牡馬として成功し、米リーディングサイアーにも輝きましたが、1976年に腸捻転のため12歳の若さで死亡しました。その影響をもっともよく伝えた種牡馬は、直系の子供たちではなく、この血を母の父に持つ Fappiano でした。
http://www.pedigreequery.com/fappiano

Fappiano は、父 Mr.Prospector がまだフロリダで種付けを行っていた時代の産駒です。Dr.Fager の調教師であったジョン・ネルド氏の生産所有馬で、じっさいに誕生した場所は Dr.Fager と同じタータンファームです。現役時代はメトロポリタンH(米G1・ダート8f)など17戦10勝の成績を残しました。

種牡馬となった Fappiano は、In Reality を含んだ繁殖牝馬との間に、Unbridled、Tappiano、Rubiano、Serape、Cahill Road、Speakerphone、Jeano など、次々と一流馬を送り出しました。明らかなニックスです。日本に輸入されて京成杯勝った外国産馬エーピージェットは、Tappiano の全弟なのでこのパターンに当てはまります。同馬は引退後、アメリカに買い戻されてニューヨーク州で種牡馬となり、同州のリーディングサイアーになるなど小規模ながら成功を収めました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1989108560/

Fappiano は13歳で死亡しました。寿命が短かった点は Dr.Fager と似ています。代表産駒はケンタッキーダービー(米G1・ダート10f)とブリーダーズCクラシック(米G1・ダート10f)を制した Unbridled。生産したのは Dr.Fager のタータンファームで、所有したのはジェンター家です。同家は、タータンファームが解散した際、まだ離乳したばかりだった Unbridled を買い取り、所有することになりました。同家は In Reality を生産したことで知られています。

Unbridled は前述のとおり Dr.Fager と In Reality のニックスを持ちます。そして、Dr.Fager の母 Aspidistra を4×4で持つという美しい配合です。
http://www.pedigreequery.com/unbridled

Unbridled は種牡馬としても成功しました。牡馬の代表産駒エンパイアメーカー(ベルモントS、ウッドメモリアルS、フロリダダービー)と、牝馬の代表産駒 Banshee Breeze(CCAオークスなどG1を5勝)は、いずれも母方に In Reality を持ち、父の Dr.Fager と In Reality のニックスを継続しています。(続く)
http://www.pedigreequery.com/empire+maker
http://www.pedigreequery.com/banshee+breeze

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      血 統 屋 http://www.miesque.com/
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競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!