弥生賞はサダムパテック
弥生賞は過去6年、1番人気馬が〔5・1・0・0〕という成績。実力馬がしっかり力を示すレースです。今回は何が1番人気になるのか週始めには分からないくらいの混戦でしたが、最終的に最も多くの支持を集めた◎ピサノパテックが快勝。実力が一枚上でした。
http://www.youtube.com/watch?v=evo3LekIo3Q
『ブラッドバイアス・血統馬券プロジェクト』『ウマニティ』に提供した予想は◎△で馬単3130円、◎△▲で3連単18840円的中。予想文を転載します。
「◎サダムパテックは『フジキセキ×エリシオ』という組み合わせ。父がフジキセキで母方にミスタープロスペクターが入るパターンは成功方程式のひとつ。カネヒキリ、エイジアンウインズ、コイウタをはじめ多くの活躍馬が出ている。この基本ラインに、重厚なエリシオとホイストザフラッグが入って底力が添えられている。フジキセキ産駒でクラシックを狙うとしたらこういうタイプだろう、と思わされる好配合馬。脚長の体型なので基本的にはコーナーが緩く直線の長いコースに向いているが、前走の朝日杯フューチュリティSよりも距離が2ハロン延び、流れが落ち着きそうなので条件は大幅に好転する。溜めて切れるこの馬の出番だ。」
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102652/
前走の朝日杯フューチュリティS(G1・芝1600m)は4着。コース設定、スタートの出遅れ、その後のレース運びに持ち味が殺され、力を出し切れなかった敗戦でした。予想文にも書いたとおり今回は大幅に条件が好転するので順当な勝利だったと思います。本番を見据えての仕上げで身体には余裕がありました。上積みもあるはずです。
ただ、予想文にも書いたとおり、脚を溜めて発揮する瞬発力が最大の持ち味なので、トライアルタイプ、という可能性も若干ながらあります。一般的な傾向として、少頭数のトライアルはペースが緩く、多頭数の本番はペースが上がります。スローペースの今回は上がり34秒2という切れ味でねじ伏せましたが、脚を溜められなかった朝日杯で脆さを見せたように、ペースが上がった本番で案外……というシーンも多少は想定しておくべきかもしれません。エリシオと Hoist the Flag の底力に期待です。
2着△プレイ(7番人気)は先団でうまく立ち回りました。強いメンバー相手に善戦してきており弱い馬ではありません。混戦の年は先に行ける馬を軽視してはならない、というのは鉄則です。
3着▲デボネア(5番人気)は距離ロスなくインを回った佐藤哲三騎手が上手かったですね。アグネスタキオン産駒ですが、母ヴェルヴェットクイーンは「Singspiel×シャーディー×Relkino」という持続型の血統。ハイペースへの耐久力はあると思います。大穴候補として本番でもちょっとおもしろい存在です。
しんがり11着に沈んだ○ターゲットマシン(2番人気)は、ゲート入りをさんざん渋り、レースでもハミを噛んで行ってしまいました。明らかに平常心を欠いていましたね。参考外の一戦でしょう。ホープフルSのディープサウンド、シンザン記念のドナウブルー、フェアリーSのイングリッドなど、ディープインパクト産駒は気性面の自爆によって人気を裏切るシーンをたびたび目にします。優等生が突然キレるようなもので、兆候が探りづらいだけに難しいところです。
ターゲットマシンの自滅は、イングリッドやディープサウンドにも通じるところがあって、残念でした。
今回シャドーロールを外したのが裏目に出た面もあると思いますが、それより気になったのは、笠さんのメルマガで「キ甲が抜けてない」と指摘されていた点です。
競馬ブック誌のフォトパドックで確認(ウェブサイトでも見られます)してみたのですが、まるで2歳馬のようなキ甲で、ちょっとびっくりしました。
気なったので他のディープ産駒のキ甲も確認したところ、かなりはっきりした傾向が見られました。
それは、キ甲の抜けが全体的に遅れているということです。
きさらぎ賞のトーセンラーや共同通信杯のディープサウンドは7分程度、ダノンバラードは、6分がせいぜいだと思います。おなじく共同通信杯のサトノオーは比較的進んでいて8分くらいでしょうか。
現在放牧中のレッドセインツは、共同馬主の公式サイトに最新の画像がアップされていましたが、これは5分程度です。レッドセインツはローカルでデビューして、新潟2歳Sでも3着でしたが、仕上がり早ではあっても、早熟とは言えないようです。
チューリップ賞のケイティーズジェム(直線の失速は骨折だそうで残念です)も、早熟なイメージがあったのですが、キ甲の抜けは4分がいいところで、実際には全く未完成な馬だったことになります。
他の種牡馬の産駒たちと比較してみると、その差は歴然でした。
弥生賞組では、サダムパテック、オールアズワン、ウインバリアシオンは、すっかりキ甲が抜けています。ショウナンマイティは、まだ7分くらいでしょうか。デボネアは、遅れてきた有力馬の印象がありましたが、キ甲はほぼ抜けています。
共同通信杯組では、ナカヤマナイトもベルシャザールも、ほとんど抜けています。
きさらぎ賞のオルフェーヴルだけは、まだ5分程度で、かなりの伸びシロがありそうでした。
チューリップ賞では、レーヴディソールは、いくらか不完全で8~9分くらいでしょうか。
こうなると、ディープ自身はどうなのかということですが、皐月賞で6分、ダービーで7分というところで、完全にキ甲が抜けたのは秋になってからでした。
ディープ産駒は小柄で丈夫で仕上がり早と言われますが、それは表面的なもので、実際には父サンデーよりも成長曲線がかなり遅めということになります。
仕上がりと実際の成長のギャップは、他の種牡馬の産駒でもあるのでしょうが、ディープの場合はそのギャップがかなり大きいタイプということになりそうです。
そして、そのギャップの大きさが、ディープ産駒の一見すると不可解な現象の主な原因になっているのではないでしょうか。
例えば、デビュー戦で楽勝した馬が2戦目でガタッとなるケースの多くは、このギャップが原因だと思われます。
また、おとなしそうだった馬が突如暴走したりするケースも、本当の気性難というよりは、気性が幼いという場合が多いのかもしれません。
もちろん本物の気性難の馬もいるのでしょうが、そういう馬はいつでも煩くて、おとなしくしている時のほうが珍しいのではないでしょうか。
こうしたギャップの問題は、いずれノウハウが蓄積されて解決されると思いますが、しばらくはディープ産駒の謎の凡走が繰り返されるかもしれません。
今度のスプリングSにはディープ産駒が数多く出走するようなので、また雑誌などでキ甲をチェックしてみたいと思います。
投稿: toku | 2011年3月 7日 (月) 01:45
>toku 様
興味深い論考ありがとうございます。ディープインパクト産駒晩成説は、昨年11月30日のエントリー「ディープインパクト産駒の格上がり戦」におけるコメント欄で、toku 様とわたしの間でやりとりしたのが最初だったと思います。ディープインパクトの母方の血を見ると、Busted(4歳時に本格化したステイヤー)が入っており晩成傾向が見て取れます。
パドックに立つたびにディープインパクト産駒を注意深く観察してきましたが、見栄えのする堂々たる体躯は少なく、また、ただ単に小柄な馬体というのでもなく、全体的に未成熟でいたいけな感じすら漂うものが目に付きます。土日に出走したトーセンレーヴやターゲットマシンもわたしの目にはそう映りました。
2月16日のエントリー「菊花賞で買いたいダノンシャーク」のなかで、「今年の菊花賞はディープインパクト産駒のどれかが勝つだろうと考えている」と記したのは、3歳夏を越してからが本番ではないか、という晩成説がベースになっています。
未成熟な段階で馬に過度な負担をかけることは好ましいことではありません。したがって、ディープインパクト産駒は、3歳春に活躍するものと古馬になってから活躍するものとでは顔ぶれがガラリと違ってくる可能性もあるのでは……と考えています。toku 様のおっしゃる気性面との関係という観点は新しいですね。いろいろな推理や仮説が出てくるのは楽しいものです。これほど興味深い種牡馬は父サンデーサイレンス以来ではないかと思います。
投稿: 栗山求 | 2011年3月 7日 (月) 03:04