10年前の今日、天才クリス・アントレーが
80年代の富士S(OP・芝1800m)は、ジャパンCの前哨戦として位置づけられ、本番前に外国馬が足慣らしとして出走するオープン特別でした。88年のレースはアメリカ馬セーラムドライブが4馬身差の圧勝。鞍上のクリス・アントレーは、22歳の若さでありながら、ベテランとしか思えない完璧なテクニックを披露し、とくに華麗なステッキワークは強く印象に残りました。
19歳で年間469勝を挙げ全米ナンバーワンとなった天才で、87年には1日9勝、89年には64日間連続勝利というとんでもない大記録を作っています。ビッグレースの実績も豊富で、Strike the Gold でケンタッキーダービーを、カリズマティックでケンタッキーダービーとプリークネスSの二冠を制覇しました。
http://www.youtube.com/watch?v=6e68I3qI5pU
彼が突然死亡したのは2000年12月2日。ちょうど10年前の今日です。その前年、カリズマティックとのコンビで全米を沸かせたばかりのトップジョッキーの死ですから、CNNなどでも大きく報道されました。カリフォルニア州の自宅で遺体となって発見され、頭部に外傷があったことから、当初は何者かに殺害された可能性が高いと報じられたのですが、その後、事故死と結論づけられました。
彼のキャリアは薬物との闘いの歴史でもありました。事故死に至ったアクシデントもオーバードーズ(薬物過剰摂取)に起因するものです。亡くなる前年の99年8月、『週刊競馬ブック』誌に「天才クリス・アントレーの飛翔」(構成・文=合田伊都子)と題するインタビュー記事が掲載されました。ドラッグに関する箇所を引用します。
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――昔のことになりますが、ドラッグの問題で世間を騒がせたことがありますよね。
恥ずかしいことですが、そのとおりです。
――それはいつ頃の話なのですか。
確か18歳ぐらいで、ピムリコで乗っているときのことでした。友人たちが僕の家に集まって、コカインをやってたんです。最初誘われたときは「僕はいいよ」って言ってたのに、みんなが帰ったあと残されたコカインを見ているうちに好奇心が湧いちゃって。
――ドラッグをやった後はどうなります?
僕の場合は、完全に鬱状態になりました。何もかもいやになって、現実の世界からの逃避です。一回やると3日間馬にも乗らず行方をくらまして、それじゃいけないと何とか元に戻るといった状態。なのに、また、すぐに同じことを繰り返してしまって。
――ただ、その時期は、仕事の面では絶好調だったでしょ。決してドラッグを認めませんが、体重のコントロールとか、ストレスの発散とか、少なくとも何らかのメリットがあったとも考えられませんか。
いや、それは単なる言い訳です。実際に体重問題で苦しんでいるときは、どうしても気が弱くなって落ち込みがちになりますから、そんな時にコカインが元気の源をくれると、自分本位に考えてしまいます。今となっては遅いけど、ドラッグは僕のキャリアに傷をつけただけ。コカインをやって騎乗がうまくなったわけでもなければ、悪影響を受けたわけでもありません。ともかく、周りがみんなやってるからっていう、妙な安心感があったのだけは確かです。
――今はもちろんお世話になっていませんよね。
もう見るのもイヤです(笑)。
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死亡時の年齢は34歳。もし現在生きていたとしてもまだ44歳です。若いですね。Zenyatta の主戦ジョッキーを務めたマイク・スミスよりも年下です。
彼が跨がったベストホースはカリズマティック。引退後、アメリカで3年間供用されたあと日本に輸入され、ワンダーアキュート(武蔵野S、シリウスS)を出しました。今週のジャパンCダート(G1・ダ1800m)にも登録がありますが、賞金が足りず除外される公算大。来週土曜日のベテルギウスS(OP・ダ2000m)に回るものと思われます。
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