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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年12月31日 (金)

Hyperion とウォルター・オルストン(3)

次に、Hampton は、Bay Ronald、Ayrshire などの父、Polymelus、Persimmon などの母の父です。重要なのは Tristan と相似な血であることです。
http://www.pedigreequery.com/hampton
http://www.pedigreequery.com/tristan

       ┌ Newminster
     ┌○┘ ┌ Rataplan(=Stockwell)
Hampton ―┤ ┌○┘ ┌ Liverpool
     └○┤ ┌○┘
       └○┤
         └ Queen Mary

       ┌ Newminster
     ┌○┘
Tristan ―┤ ┌ Stockwell(=Rataplan)
     └○┤   ┌ Liverpool
       │ ┌○┘
       └○┤
         └ Queen Mary

Tristan と構成がよく似た Friar's Balsam とも相似な血の関係となります。

先に Selene の配合的核心について、「Tristan≒Friar's Balsam 3×4」をそのひとつとして挙げました。つまり、父方に Hampton を持つ種牡馬を掛け合わせると、「Hampton≒Tristan≒Friar's Balsam」というトライアングルが完成するわけです(4×4・5)。

Selene が遺した偉大な3頭の種牡馬、Sickle、Pharamond、Hyperion は、いずれもこのトライアングルを持っています(ちなみに Pharos、Fairway は Lady Langden≒Thrift≒Blinkhoolie 5×5・5)。もちろん、ウォルター・オルストンほどの男がこれに気付かなかったはずがありません。

Selene はこのほかに、Hunter's Moon(父 Hurry On)という牡馬を産んでいます。この馬は南米アルゼンチンに渡って名種牡馬となったのですが、父 Hurry On には Hampton こそないものの、それとよく似た Dinah という血を持っているため、「Dinah≒Tristan≒Friar's Balsam 4×4・5」という相似な血のクロスが生じます。狙っているとしか思えません。じっさい、そうだったのだと思います。
http://www.pedigreequery.com/hunters+moon
http://www.pedigreequery.com/dinah

1933年7月22日、ウォルター・オルストンはイギリスのニューマーケットにある自宅で死去しました。79歳。『クラシック馬の追求』(ケン・マクリーン著・山本一生訳/競馬通信社)には彼の臨終についてこう書かれています。

「ウォルター・オルストンは Hyperion のイギリス・ダービー制覇をベッド脇のラジオで聞いていたが、それから1ヵ月後、帰らぬ人となる。彼の死亡通知は、その生涯の仕事についてこう要約している。
『ブリーダーと配合の問題で意見が対立した場合、彼は決して抽象的な理論を弄そうとはせず、厳密な事実に基づいて、しかも誰にでも分かる言葉で議論した。彼の成し遂げた仕事こそ、ダービー卿のスタンリー・ハウス・スタッドの輝かしい馬たちである。世界でこれほど素晴らしい馬を生産した牧場は、今までに存在しない』
 ウォルター・オルストンは終生喘息の発作に悩まされ続け、最後はニューマーケットのファルマスにある自宅で、スタッド・ブックと手書きの配合表に囲まれて息を引き取った。家の書斎には本棚が所狭しと並べられ、サラブレッドの競走と生産に関して出版された書物がぎっしりと詰まっていた。オルストンは結婚することもなく、偉大な競走馬の生産に心血を注ぎ、自分の知り得たことに満足せず、最後までチャンピオンを生み出す新しいニックを探し求めてさらなる研究を積み重ねた。ダービー卿やジョージ・ラムトンは言うに及ばず、国内からばかりでなく全世界のブリーダーの尊敬を集めたが、それは人々が、ウォルター・オルストンは生産というものの何たるかを知っているプロフェッショナルだと認めていたからである。」

名馬の血統表は配合の教科書です。たとえ19世紀のものであっても、血統の中身が入れ替わるだけで、名馬を生みだしたパターンは不変です。そのパターンは現代においても古びることはありません。ですから、過去の名馬の血統について考えることは、配合を学ぶために大きな意味があります。

偉大な配合家が凝らした意匠に人知れず気付いたとき、時を超えて、一枚の血統表を通じ、その配合家とじかに対話をしたような気分になります。まさに至福の瞬間といえます。そうした配合的意匠は、誰かに気付かれるのを待ちながら、メッセージボトルのように時間のなかを漂流しています。それを拾い上げることが血統研究家の役割です。

                *

1年間ご愛読誠にありがとうございました。よいお年を!

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コメント

一年間、楽しく勉強になるブログをありがとうございました。かつ、私なぞの拙いコメントへの回答も頂いて、感謝します。

今までとは違った競馬の楽しみに出会えました。

エントリで言えば、マンハッタンカフェの項に感動しました。
また、地方競馬への目配りもなさっていたのが嬉しかったし、メルボルン二世こと栗原さんと出会えたことも栗山さんのエントリがきっかけでした。

感謝します。
どうぞよいお年をお迎え下さい。

感謝の言葉を述べなければならないのはこちらのほうです。どう考えてもニーズがなさそうな血統趣味の文章を、辛抱強く読んでくださった方々にはおひとりずつ「ありがとうございました」と述べたい気持ちでいっぱいです。そして、ゲッツさんにはたびたび楽しいご投稿をいただき、大いに励まされました。心から感謝します。また来年もよろしくお願いいたします。よいお年を!

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