Hyperion 没後50年(後)
Hyperion を生産したのは第17代ダービー伯爵のエドワード・スタンリー。しかし、実際に配合をデザインしたのは、彼の血統アドバイザーであるウォルター・オルストンです。
サラブレッドの器は配合(つまりDNA)によって決定されます。器が小さければいくらトレーニングしようが大きなレースには勝てません。ですから、優れたサラブレッドを生み出すためには、“繁殖牝馬にどの種牡馬を交配するか”という部分にこそ、最も多くの関心と知的労力を注がなければならないと思います。聡明なダービー伯爵はそのことを理解していました。血統研究家として名高いウォルター・オルストンを招聘し、彼の手腕に牧場の将来を委ねたのです。
オルストンが Hyperion をどのようにして作ったか、という具体的なプロセスについては、書き始めると長くなるので、来週あたりに概要を記したいと思います。感嘆すべきテクニックがそこには込められています。
http://www.pedigreequery.com/hyperion
Hyperion のサイアーラインは、60~70年代にかけて日本でも一定の勢力を誇り、メイズイ、カブトシロー、タケシバオー、タイテエム、ハイセイコー、グリーングラスといったビッグレースの勝ち馬が出ました。この系統の最後の名馬は98年に皐月賞と菊花賞の二冠を制したセイウンスカイ。これ以降、Hyperion 系のクラシック勝ち馬は出ていません。日本だけでなく世界的に見ても Hyperion 系は役割を終えた感があり、これから発展しそうなラインは見当たりません。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1995107393/
ただ、サイアーラインが衰退したからといって、血脈の価値が下がるわけではありません。昨日のエントリーでトニービンを例に挙げたように、Hyperion の影響力は現代においても非常に大きいものがあります。とくに Northern Dancer に含まれている点は見逃せません。Northern Dancer が小柄だったのは、同じく小柄だった Hyperion の影響もあるのでは……とも思います。
http://www.pedigreequery.com/northern+dancer
ここ20年間のヨーロッパで最も成功した種牡馬である Sadler's Wells とデインヒルは、いずれも Northern Dancer 系で、Hyperion クロスを持っています。クラシック向きのスタミナと底力、そして成長力を補おうとするとき、Hyperion ほど頼りになる血はありません。
http://www.pedigreequery.com/sadlers+wells
http://www.pedigreequery.com/danehill
Hyperion は偶然の産物ではなく、ウォルター・オルストンの深い血統研究から誕生した傑作です。育種とは何か、サラブレッドを改良するにはどうすればよいかという大きな命題に対し、当時のイギリス生産界が出した回答です。世界ナンバーワンだったイギリス競馬は、実践的な配合研究においても世界をリードする存在でした。Hyperion の血統表を眺めて得られる感動は、そうした豊かさに触れる感動でもあります。
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