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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年11月

2010年11月30日 (火)

ディープインパクト産駒の格上がり戦

11月28日のエントリー「土曜日の2歳戦いろいろ」のコメント欄に、ぎむれっと様から「ディープの仔って、なかなか2勝目あげれませんね、新馬戦でパフォーマンス見せてクラス上がると2着までのパターンが多いような気がします」というご意見を賜りました。

ジャパンCが終わったあと、府中駅近くの居酒屋で、石川ワタルさんご夫妻、宇田川淳さん、村田利之さんなど総勢十数名で宴会をしたのですが、奇遇なことにその席でも「ディープインパクト産駒って、すごく勝ってる割に2勝馬が少ないですよね、栗山さんどう思われますか」と訊かれました。

みなさんが疑問に思われていることなのだなぁと実感しました。正しい答えなのかどうかは分かりませんし、あくまでも仮説ですが、現時点における私の考えを述べたいと思います。

11月末までにディープインパクトが挙げた勝利数は33。勝ち上がりは31頭で、うち2勝馬は2頭です(ディープサウンド、ドナウブルー)。京王杯2歳S(G2)でリアルインパクトが2着となっているのでOP馬は計3頭です。

サンデーサイレンスが新種牡馬だった94年は、23頭が30勝を挙げました。2勝以上は7頭です。重賞2着馬を含めるとOP馬は計9頭。時代背景が異なることを考慮しても驚異的な数字です。

ディープインパクト産駒を見ていてちょっと異様だなぁと思うのは、新馬戦における圧倒的な強さです。長いあいだ競馬を見てきましたが、これほど新馬戦で勝ち上がる種牡馬は記憶にありません。またディープ、またまたディープ……といった感じで、そこそこ人気に推された馬ならほとんどが勝ち上がってしまうという印象です。

94年のサンデーサイレンス、2歳戦で過去最高の勝ち星(54勝)を記録した04年のサンデーサイレンス、そして今年のディープインパクトの新馬戦勝率を比較してみます。94年当時は折り返しの新馬戦があったので、それを除いた新馬初戦のみ対象です。

94年 サンデーサイレンス 21.9%
04年 サンデーサイレンス 20.4%
10年 ディープインパクト 31.3%

今年のディープインパクト産駒がどれほど新馬戦に強いかご理解いただけると思います。サンデーにめぼしいライバルがいなかった94年、全盛期を迎えた04年ですら、今年のディープインパクトには敵いません。

ディープインパクト産駒がデビュー戦に強いのは、能力の高さはもちろんですが、気のいいタイプが多く、競走に対して前向きであることが大きいと思います。それに加えて、デビューさせる各厩舎も、ディープインパクト産駒ということで多少意識が違うのか、新馬戦からキッチリ仕上げてきます。どれも高馬だけに“下手な仕上げでは出せない”という気持ちがあるのかもしれません。トーセンレーヴが万全を期してデビューを再三延期しているのはその典型でしょう。

新馬戦向きのディープインパクト産駒が、いきなり目一杯に仕上げられれば、それは強いと思います。ただ、上がり目は乏しく、馬によっては反動もあるでしょう。2戦目にもうひとつパフォーマンスが伸びないのはこのあたりに原因があるのではないかと考えています。

ですから、藤沢厩舎や角居厩舎のような、馬を作りすぎずにゆっくり仕上げる調整法が、ディープインパクト産駒には合っているのではないかと個人的には考えています。ポンポンと勝ち上がるので手が掛からないように見えて、じつは、大成させるためにはほかの種牡馬の子よりも我慢と忍耐が必要なのかもしれません。

優れた資質を持っていることは明らかだと思うので、やがてどんどんOP馬が誕生していくでしょう。

2010年11月29日 (月)

ジャパンCはローズキングダム

異様に長引いた審議は、松田博資調教師が裁決室に呼ばれたことで、「これは……」という空気になりました。その後しばらく経って裁決室の扉が開き、職員が出てきて着順掲示板の数字に修正が加えられました。

取材記者に囲まれたブエナビスタの松田博資調教師は、顔を紅潮させながら「だいたい今まででも、降着なんて、あんなんでなるわけがない!」。裁決委員に対しては「こんなくだらない奴さ、もう辞めさせりゃいいんだよ、ホンマに!」と目を怒らせながらブチまけました。

一方、繰り上げ1着となったローズキングダムの橋口弘次郎調教師は「ジャッジが遅すぎる。自信がないんじゃないの? たしかに勝ちにはなったけど複雑ですね。後味が悪いわ」と、ニコリともせず、まるで降着になった側のような暗いトーンで語りました。

降着の是非についてはいろいろ見方はあるとは思いますが、個人的には妥当だったかなと思います。
http://jra.jp/JRADB/asx/2010/05/201005050810p.asx

2着に降着になったとはいえ、○ブエナビスタ(1番人気)はスタートを切ってすぐ前の馬に接触して落馬寸前の不利があり、それを立て直して差し切ったわけですから強いの一語です。思い起こせば父スペシャルウィークも、99年の有馬記念でハナ差2着に負けていたにもかかわらず、騎手が勝ったと思い込んでウイニングランをしてしまったことがあります。こんなところで父娘が似てしまうとは……。
http://www.youtube.com/watch?v=FPhyyAN5ppE
http://www.youtube.com/watch?v=LcAX0YkPDA4

繰り上がり優勝を果たした△ローズキングダム(4番人気)は、正直、こんなに強い馬だとは思いませんでした。ちょっと見くびっていましたね。キングカメハメハ産駒はやはり東京コースで信頼できます。3歳馬のジャパンC勝利は01年のジャングルポケット以来9年ぶりです。

3着の▲ヴィクトワールピサ(8番人気)は完全に人気の盲点となっていました。ギュイヨン騎手は枠順の利を活かした最高の乗り方をしたと思います(ゴール前で粗相はありましたが)。角居勝彦調教師は「レースの後、ジョッキーからは若干距離が長いと言われました。このあとはオーナーと相談になりますが、距離が長いというならドバイを選択肢に入れて考えたいと思います」(ラジオNIKKEI競馬実況web)と語っているので、有馬記念には出ない可能性も……。

◎ナカヤマフェスタ(2番人気)は14着。凱旋門賞の激走のダメージが尾を引いていたということでしょう。パドックでは冬毛が目立ち、前走ほどの威圧感が感じられませんでした。先週咳をしていたという報道があったのですが、あるいはそのあたりの影響もあったのかもしれません。

東京競馬場ではお昼休みに七冠馬シンボリルドルフがお目見えしました。とても29歳とは思えない若々しい馬体。シンザンの長寿記録(35歳3ヵ月11日)を抜けるのではないでしょうか。85年のジャパンCは私も競馬場で観戦していました。あれから25年。同じ場所で再会できて感激しました。

2010年11月28日 (日)

土曜日の2歳戦いろいろ

■京都2歳S(OP・芝2000m)は伏兵マーベラスカイザー(8番人気)が競り勝ちました。前々走の札幌2歳S(G3)は大外回しの距離損+4コーナーの不利があり、前走の萩S(OP)では3着争いに絡んでいたので、そこそこの力はあると思っていましたが、このメンバーに入って勝てる馬とは思っていませんでした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008100961/

2コーナーあたりから出入りの激しいレースとなり、各馬の動きを見ていると、ラップに表れない細かな流れの変化がいくつかあったように思います。どの馬もスムーズさを欠く不思議なレースでした。それだけにキャリアの浅い馬には厳しく、マーベラスカイザーの豊富なキャリアが活きたのかもしれません。2分01秒6というタイムはまずまず優秀です。

レッドセインツ(4番人気)から買っていたのですが5着。出たり入ったりの流れに翻弄されました。休み明けでもあったのでこれぐらいでしょうか。

■京都5R新馬戦(ダ1200m)の落馬は衝撃的でした。直線で後続を引き離して確勝態勢に入ったディナーラッシュ(2番人気)が、突如、何を思ったか内ラチを飛び越えようとし、四位洋文騎手がラチの向こう側にダイブ。馬がコースに跳ね返ってきたところに後続馬群が突っ込んできて多重衝突となり、シゲルヤクイン(7番人気)に騎乗していた藤岡康太騎手が落馬。
http://www.youtube.com/watch?v=DqccxOamAv8

瞬間的にマヤノグレイシーのデビュー戦の落馬を思い出しました。安藤勝己騎手は内ラチを飛び越えて落馬し、3箇所を骨折する大怪我。今回、人馬ともに大きな怪我がなかったのは奇跡的です。

■京都3R未勝利戦(芝1600m)をハッピーグラス(4番人気)が、京都6R新馬戦(芝1600m)をナリタキングロード(2番人気)が勝ち上がり、ディープインパクト産駒は今シーズン32勝目。94年にサンデーサイレンスが樹立した新種牡馬の2歳戦勝利数記録「30勝」を16年ぶりに更新しました。

現在、31頭が勝ち上がっているのですが、新種牡馬の2歳戦勝ち上がり世界記録は39頭なので、あと9頭勝ち上がれば新記録となります。28日の競馬を含めて残り9日間ありますから1日1頭のペースでOK。十分可能でしょう。

2010年11月27日 (土)

ジャパンCの外国招待馬

節目の30回目ということで、今年はJRAが頑張って出走馬を8頭も集めてきました。03年(9頭)以来の大量出走です。

1頭ずつ簡単にコメントしてみたいと思います。

■1番 ヴォワライシ Voila Ici(伊・牡5歳)
http://www.pedigreequery.com/voila+ici
父 Daylami はBCターフ、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、英チャンピオンSをはじめG1を勝ちまくった名馬ですが、種牡馬としては期待外れの成績です。昨年のジャパンC4着馬コンデュイットは、父が Daylami の半弟 Dalakhani、母の父が Sadler's Wells ですから、Daylami×Barathea(その父 Sadler's Wells)の本馬と配合構成がよく似ています。コンデュイットでさえ4着ですから、それよりはるかに実績が劣るこの馬では……。

■3番 ダンディーノ Dandino(英・牡3歳)
http://www.pedigreequery.com/dandino2
父 Dansili はデインヒル系の2400mタイプでは最も成功している種牡馬で、ハービンジャー(キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)、Rail Link(凱旋門賞)などを出しています。本馬は重賞勝ちのない3歳馬ですから明らかに格下。母の父がジェネラスでは高速馬場への対応力にも疑問です。

■5番 モアズウェルズ Mores Wells(仏・牡6歳)
http://www.pedigreequery.com/mores+wells
母は芝16ハロンのクイーンズヴァーズ(英G3)の勝ち馬。これに日本では実績のない Sadler's Wells が父ですから、Shirley Heights とのニックスがあるといっても、日本の馬場に対応できるような軽快なスピードは期待できません。6歳秋ですから上がり目もないでしょう。

■9番 ティモス Timos(仏・牡5歳)
http://www.pedigreequery.com/timos
ドイツ血統と Sadler's Wells の相性の良さについては当ブログでも何度か記してきました。本馬は2代父が Sadler's Wells、母の父が Surumu。このパターンは Hurricane Run(凱旋門賞、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、愛ダービー)と同じです。ただ、地元フランスでナカヤマフェスタ、ヴィウトワールピサに先着できなかったこの馬が、アウェーで逆転するという計算は成り立ちません。

■12番 ジョシュアツリー Joshua Tree(愛・牡3歳)
http://www.pedigreequery.com/joshua+tree3
父 Montjeu は軽快なスピードに欠けるため、日本ではサトノコクオーのように芝よりもダート向きの産駒が目立ちます。母方に Shirley Heights が入る Montjeu 産駒なので、Fame and Glory(愛ダービー、コロネーション、他)と似ています。ただ、血統的に日本向きではないので、空き巣のカナダG1を勝った程度の実力では厳しいでしょう。

■15番 フィフティープルーフ Fifty Proof(加・セン4歳)
http://www.pedigreequery.com/fifty+proof
父 Whiskey Wisdom は、Skip Away が勝った97年のBCクラシックに5戦全勝の成績を引っ提げて挑戦したものの4着(3位入線も降着)。このレースを最後に引退し、カナダで供用されました。サンライズプリンス(ニュージーランドT)の母メインリーは Whiskey Wisdom の全妹です。低レベルだったカナディアン国際Sで5着ですから力が足りないでしょう。

■17番 マリヌス Marinous(仏・牡4歳)
http://www.pedigreequery.com/marinous
父 Numerous はジェイドロバリーの全弟にあたるマイラー型種牡馬。母の父 Panoramic の「Rainbow Quest×Roberto」というスタミナによって中長距離への対応力を獲得しました。「ジェイドロバリー×オペラハウス」のマームードイモンが長距離を苦にしないのと同じです。Nijinsky と Blushing Groom のニックスを持つなど全体的な配合も悪くなく、凱旋門賞6着という成績も良好なので、外国招待馬のなかでは最先着する可能性が高いと思います。ただ、馬券になるかというと微妙ですね。

■18番 シリュスデゼーグル Cirrus Des Aigles(仏・セン4歳)
http://www.pedigreequery.com/cirrus+des+aigles
父 Even Top は英2000ギニーの2着馬。種牡馬としてはまったくの無名です。昨年はコンセイユドパリ賞(仏G2・芝2400m)を勝って臨んだ香港ヴァーズ(G1・芝2400m)で5着。今年はコンセイユドパリ賞2着のあとここに臨んできました。香港ヴァースで5着程度の実力では厳しいでしょう。日本の馬場はこなすと思いますが、決め手のない馬なので上位進出は望み薄です。

【結論】
今年の日本勢の層の厚さは過去最高レベル。それに対し、外国招待馬は頭数こそ多いもののレベルはイマイチ。苦戦必至でしょう。マリヌスが大駆けしたときに掲示板に載れるかどうか、といったところですね。

2010年11月26日 (金)

サクラユタカオー死亡(後)

社台ファームは70年代の Princely Gift ブームに背を向け、もちろんテスコボーイ、トウショウボーイとも無縁でした。しかし、トウショウボーイの代表産駒である三冠馬ミスターシービーを社台スタリオンステーションに導入したのに続き、サクラユタカオーの獲得にも乗り出しました。こちらの交渉は失敗するのですが、静内スタリオンステーションに繋養されたサクラユタカオーのもとへ毎年繁殖牝馬を送り込み、「サクラユタカオー×ノーザンテースト」という90年代を代表するニックスによって、サクラバクシンオー、ダイナマイトダディ、トゥナンテ、エアジハード(2代母の父がノーザンテースト)といった活躍馬を生産しました。この配合は他牧場でも成功し、サクラキャンドル、システィーナなどが誕生しています。

シルクロードS(G3)2着など重賞戦線で頑張っているショウナンカザンは、サクラバクシンオー≒ダイナマイトダディ2×2。リスクの高いこのような配合でもしっかり走ってしまうのですから、サクラユタカオーとノーザンテーストの組み合わせはいいものを伝えているのだなぁと実感します。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2005101404/

代表産駒のサクラバクシンオーは2年連続でスプリンターズS(G1・芝1200m)を制しました。1400m以下では12戦11勝、芝1400mで日本史上初めて1分20秒の壁を破った馬でもあります。種牡馬としても成功し、日本競馬にスピード革命をもたらしたテスコボーイのサイアーラインを繋げることに成功しています。また、もう1頭の代表産駒であるエアジハード(安田記念、マイルチャンピオンシップ)は、ショウワモダン(安田記念)の父となりました。

テスコボーイが送り出した牡馬のうち、最も優れていたのはトウショウボーイとサクラユタカオー。トウショウボーイは代表産駒ミスターシービーが失敗したのが大きく、サイアーラインはほぼ絶滅しています。一方、サクラユタカオーはサクラバクシンオーとエアジハードを残しました。

日本産馬のレベルが世界水準に達していなかった時代は、相対的に能力が高い外国産種牡馬が次々と導入され、そのたびに日本国内の血統は更新され、ランキングの上位はそれらに独占される状況でした。内国産の系統は、代を経るごとに能力を上げていかなければ、外から入ってくる種牡馬群に対抗できません。輸入種牡馬のレベルは日本経済の発展と歩調を合わせるように、60年代、70年代、80年代、90年代と上がっていったからです。輸入種牡馬のレベル上昇に敗れ去った内国産ラインはどんどん淘汰されていき、ほとんど残りませんでした。

そうした厳しい時代を生き抜き、約40年にわたって日本に根付いているテスコボーイ系は素晴らしいとしかいいようがありません。サクラユタカオーはその発展に大きく寄与した名種牡馬でした。合掌。

2010年11月25日 (木)

サクラユタカオー死亡(前)

いまから24年前、1986年に行われた第6回ジャパンCで、サクラユタカオーは1番人気に推されました。この年の秋、同馬は競走馬としてのピークを迎えており、毎日王冠(G2・芝1800m)を1分46秒0、続く天皇賞・秋(G1・芝2000m)も1分58秒3と、2戦連続で日本レコードを樹立していました。

530キロに達する雄大で均整の取れた馬体、輝くような明るい栗毛、温和な気性。いかにも良家のボンボンといった風情がありました。天皇賞を制した夜、NHKのスポーツニュースに小島太騎手が中継で出演し、インタビューを受けたという記憶があります。それぐらいスターホースとしての扱いを受けていました。

しかし、期待を背負ったジャパンC(G1・芝2400m)は6着。距離の壁はいかんともしがたいものがありました。

誤解を恐れずにいえば、種牡馬としての可能性という意味では、この結果はポジティヴなものだったと思います。種牡馬というものは、特長のないオールラウンダーよりも、伝えるものがはっきりしている馬のほうが成功すると思います。それがスピードであれば申し分ありません。サクラユタカオーの持ち味は中距離におけるズバ抜けたスピード。2400mでタレたことでこの一芸が際立った、というとらえ方もできるでしょう。

半兄サクラシンゲキ(重賞4勝)、甥にサクラスターオー(皐月賞、菊花賞)がいる良血で、3代母スターロッチは有馬記念とオークスを制した名牝です。日本における最良の在来牝系のひとつといえるでしょう。

これに Nasrullah 3×4というスピード豊かなクロスを施した配合は、シンプルで狙いがはっきりしています。母方にネヴァービートを持つテスコボーイ産駒といえば“黄金の馬”ハギノカムイオー。これも速い馬でした(Nasrullah 3×5・5)。このほか、Jury≒Precipitation 4×5という相似な血のクロスもあるので、配合の完成度は高いと思います。(続く)
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1982101222/

        ┌ Hurry On
Jury ―――――┤ ┌ Bachelor's Double
        └○┤
          └○┐ ┌ Desmond
            └○┘

        ┌ Hurry On
Precipitation ―┤ ┌ Bachelor's Double
        └○┤
          └○┐ ┌ Desmond
            └○┘

2010年11月24日 (水)

先週の2歳戦(後)

土曜東京5Rの新馬戦(芝1800m)を勝ち上がった▲コウヨウレジェンド(4番人気)は、重賞を勝ったアサヒライジングの全弟です。姉の主戦ジョッキーでもあった柴田善臣騎手が手綱を取ったので、先行抜け出しという戦法に迷いはなく、それがぴったり嵌りました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008101842/

アサヒライジングは個人的に非常に好きな馬で、オークスや秋華賞では◎を打った記憶があります。重賞勝ちはクイーンC(G3)しかありませんが、アメリカンオークス(G1)、秋華賞(G1)、ヴィクトリアマイル(G1)でそれぞれ2着となりました。

その配合については、7月11日のエントリー「ジェッタ牝系とヒンドスタン」で触れておりますので、ぜひご覧くださいませ。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/07/post-015d.html

母アサヒマーキュリーは「ミナガワマンナ×ボンモー×タマナー」。配合を眺めているだけで頭がクラクラしてきます。アサヒライジングの半姉にアサヒヴィーナス(父コマンダーインチーフ)という馬がいて、これも応援していたのですが、タップダンスシチーが圧勝したジャパンCの当日、ベゴニア賞の直線で前肢を折って死んでしまいました。ちょうど7年前ですか。あれはかわいそうでした……。

日曜日の2歳戦で注目したいのは、京都2Rの未勝利戦(ダ1800m)を勝ち上がったボレアス、京都6Rの新馬戦(芝1800m)を勝ち上がったアドマイヤコリン。

京都2R未勝利戦(ダ1800m)のボレアスは、これまでにデビューしたディープインパクト産駒のなかで、最も父に似たレースぶりだったと思います。スタートで安めを売って、勝負どころで大外からマクり、直線で楽々と引き離す。まるっきり親父と同じだなぁ~と、レースを見ながら思わずニヤッとしてしまいました。勝負服まで同じです。
http://www.youtube.com/watch?v=vJhYehBJ334

2代母クロカミは重賞2勝馬。Caerleon 産駒ではあるのですが、母の父 Desert Wine が強く主張しているようで、産駒はどれもこれも決め手のないダート馬ばかり。母クロウキャニオンもそうでしたね。半兄キラウエア(父キングカメハメハ)もダート馬なので、本馬もこの路線がいいでしょう。

京都6R新馬戦(芝1800m)の○アドマイヤコリン(1番人気)は逃げ切り勝ち。ディープインパクト産駒は本馬を含めて過去に6頭が逃げているのですが、すべて勝っているというデータがあります。母シルクプリマドンナはオークス馬。土曜日に京都の新馬戦を勝ち上がったリトルダーリン(父ディープインパクト)も、母エリモエクセルはオークス馬でした。先週は「ディープインパクト×オークス馬」が2頭新馬勝ちを果たしたことになります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103173/

牡馬ながら馬体重は420キロしかありません。母シルクプリマドンナはデビューから引退までに馬体重を28キロ増やしたので、この馬もまだ成長の余地があるでしょう。

母シルクプリマドンナは「ブライアンズタイム×Northern Dancer」ですから四冠馬ナリタブライアンと同じ。底力はあるものの重くて硬いという血統です。こういう繁殖牝馬に芝向きの軽快さを与えて走らせるのは難儀なのですが、ディープインパクトはそれをやってのけるのですからやはり優秀ですね。ただ、母の父は Roberto 系のブライアンズタイムですから決め手には乏しく、逃げの手に出たのは正解だったと思います。

父ディープインパクト、母の父ブライアンズタイムはいずれも Admiral Drake≒Roman が構成要素のひとつなので、その脈絡の効果も多少はあったかもしれません。内回りコースやローカルの小回りコースでさらに良さが活きるタイプだと思います。皐月賞で穴を開けるとしたらこのタイプでしょう。

2010年11月23日 (火)

先週の2歳戦(前)

ディープインパクト産駒が先週5勝を挙げ、初年度産駒の2歳戦勝利数記録である30勝(94年サンデーサイレンス)に並びました。今年はあと5週あるので相当な上積みが期待できそうです。おそらく45~50勝ぐらいは行くだろうと予想します。ちなみに、04年にサンデーサイレンスが2歳戦の最高記録である54勝を挙げたとき、同じ時期に34勝を挙げていました。これよりはやや遅いペースです。

サンデーサイレンスの初年度産駒は67頭。ディープインパクトの152頭に比べると半分以下です。ただ、30勝到達時点の出走回数を比べてみると、サンデーサイレンスの107走に対しディープインパクトは114走と、大きな差はありません。中身は濃いですね。

トップクラスの種牡馬が30勝に到達するまでにどれぐらいの出走回数を要したか比べてみます。

サンデーサイレンス 107走
ディープインパクト 114走 ←←←
アグネスタキオン  181走
クロフネ      186走
サクラバクシンオー 216走
ジャングルポケット 265走
ゼンノロブロイ   267走
シンボリクリスエス 280走
キングカメハメハ  284走
フジキセキ     288走
ネオユニヴァース  332走
スペシャルウィーク 355走
マンハッタンカフェ 357走

サンデーサイレンスとディープインパクトだけが別次元で、他の種牡馬とは一線を画しています。

土曜日の2歳戦で注目したいのは、京都6R新馬戦(芝1600m)を勝ち上がったリトルダーリン、東京5R新馬戦(芝1800m)を勝ち上がったコウヨウレジェンド。

リトルダーリンは「栗山ノート」で指名した馬です。春ごろは馬体重が380キロぐらいしかないという話もあったので、これはちょっと厳しいのかな……と思っていたのですが、初戦は404キロでした。あと20キロぐらいは増えてほしいですね。『ブラッドバイアス・血統馬券プロジェクト』に提供した予想は以下のとおり。

「◎リトルダーリンは『ディープインパクト×ロドリゴデトリアーノ』という組み合わせ。母エリモエクセルはオークス(G1)など4つの重賞を制した名牝。母方にセックスアピール(ラトロワンヌの強い凝縮)やリヴァーマン(ローマンを内包)を持つ配合パターンは好ましい。馬体は小さいようだが素質は高いだろう。」

「栗山ノート」のディープインパクト産駒の項では、母方に Riverman を持つ馬を何頭か選びました。“Pocahontas≒River Lady”が生じ、それらに含まれる Roman がディープインパクトの構成要素のひとつの核なので、好結果が期待できるのではないかと考えたからです。今週、京都2歳Sに出走するレッドセインツなどもそうです。

予想文にも書きましたが、La Troienne の強い凝縮がある Sex Appeal のような血は、おそらくディープインパクトに合うでしょう。
http://www.pedigreequery.com/sex+appeal

ディープインパクトにアメリカ血統が合うことは産駒のデビュー前から主張してきました。そして、La Troienne を持っていないため、そのエッセンスを濃厚に含んだ血を新たに注入することは悪くないでしょう。ですから、Sex Appeal の息子たち(トライマイベスト、El Gran Senor)を含んだ馬も何頭か指名しました。まだサンプルが少ないので何ともいえない状況ですが、数年経てばだいたい傾向が明らかになると思います。

このパターンの1頭がレッドディアーナ(母ケイウーマン)。同馬はそれだけでなく、3代母が River Lady なので大きな期待を掛けていました。しかし、聞くところによると肺炎に罹ってしまったようで、残念ながらデビュー予定は白紙に。素晴らしい配合馬だけに残念です。(続く)
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008105563/

2010年11月22日 (月)

サトノオー圧勝

マイルチャンピオンシップは◎サプレザ(2番人気)で問題ないと思っていたのですが、スタートで2~3馬身の出遅れ。去年も出遅れていたのでこういう馬なのでしょう。ゴール前はクビ、ハナ、ハナと僅差の勝負だったので悔やまれます。

勝ったエーシンフォワード(13番人気)はノーマークでした。3月1日のエントリー「阪急杯はエーシンフォワード」で配合について褒めたことがあります。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/03/post-695e.html

ただ、1600mのG1では狙えません。そういう馬ではないと思い込んでいました。今回は岩田騎手の好騎乗が光ったと思います。あのコース取りは“岩田スペシャル”とでもいうべき彼の十八番です。

日曜日のレースで最も印象に残ったのは、G1レースではなく東京6Rの新馬戦(芝1400m)です。この日は東京競馬場で午前11時台と午後1時台の2回、JRA主催のイベントに出演する用事がありました。レースが行われたのは12時40分。ちょうど昼食どきで、8階の記者席で仕出し弁当を頬張りながら観戦していました。

そして、目撃したのがサトノオー(父ディープインパクト)の圧勝です。後続を引き離していくときに場内が沸きました。真横から見ると、前肢の爪先を地面と水平に伸ばしていくような、ちょっとルーラーシップを彷彿させる可動域の広い豪快なフットワークで、明らかに他馬と違う走りをしていました。
http://www.youtube.com/watch?v=-izwWmQONoQ

これは!と思い、食べかけの弁当を放置してエレベーターに飛び乗り、地下の検量室前へと急ぎました。引き揚げてきた安藤勝己騎手、その場にいた藤沢和雄調教師は、“これぐらい当然だよ”と言わんばかりに拍子抜けするぐらい平静でした。ジョッキーはインタビューで「落ち着いて走ってくれれば兄姉と同じぐらいには」と、言葉を選びながら期待のほどを語っていました。

『ブラッドバイアス・血統馬券プロジェクト』に提供した予想を転載します。

「◎サトノオーは『ディープインパクト×トニービン』という組み合わせ。母エアトゥーレ(阪神牝馬S)、2代母スキーパラダイス(ムーランドロンシャン賞)、3代母スキーゴーグル(エイコーンS)という良血で、半姉アルティマトゥーレ(セントウルS、シルクロードS)、半兄キャプテントゥーレ(皐月賞など重賞4勝)と兄弟もトップクラスで活躍している。稽古でも動いており死角が見当たらない。」

赤本(『POGの達人』)のクロスレビューには次のように書きました。

「ディープインパクトのリファールクロスは基本的に嫌ってみたいスタンスだが、アルティマトゥーレ、キャプテントゥーレの下となれば意地になって逆らうのもどうか。G1はともかく重賞クラスには出世しても不思議はない。」
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102789/

母エアトゥーレはすでにスカーレットブーケ、ビワハイジ級。伝えているものがズバ抜けています。「ディープインパクト×トニービン」はこれで〔2・1・0・0〕という成績ですから走りますね。エアグルーヴの娘グルヴェイグへの期待が高まります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103099/

ディープインパクト(=オンファイア)が Raja Baba と好相性であるということは当ブログでたびたび触れてきました。また、“サンデーサイレンス、ウインドインハーヘア、ロイヤルスキー”のトライアングルは、ダノンパッション、リルダヴァル(いずれも父アグネスタキオン)と同じです。要するに軽い切れ味が特長なわけですが、サトノオーにはトニービンというしっかりしたヨーロッパ血脈が入るので、軽いだけの馬ではないでしょう。ベストは1600mで、2000mまでは守備範囲です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007100999/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007103142/

たしかに今回のメンバー構成は能力差が大きかったと思います。ただ、他馬がどんな能力であろうと、それは勝ち馬の責任ではなく、今回のパフォーマンスの価値が目減りすることもありません。

2010年11月21日 (日)

東京スポーツ杯2歳Sはサダムパテック

○サダムパテック(1番人気)が2着につけた“3馬身半”はレース史上最大着差。このメンバーのなかでは1頭だけ格が違いました。
http://www.youtube.com/watch?v=uzjQehavIQM

前2頭が引っ張る流れだったとはいえ、2ハロン目以降で最も遅いラップが12秒1。緩みのないペースでラスト3ハロンが33秒7なので、レース内容はなかなか濃かったと思います。

父がフジキセキで母方に Mr.Prospector が入るパターンは成功方程式のひとつ。カネヒキリ、エイジアンウインズ、コイウタをはじめ多くの活躍馬が出ています。Ribot 系の Hoist the Flag が入るのも底力の補強として好感が持てます。母の父エリシオはやや難しい血なので、POGでこの血が入った馬を指名するのは勇気がいるのですが、この馬の場合、スタミナや底力の供給源としてうまく嵌った感がありますね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008102652/

当レースはこれでサンデーサイレンスを含んだ馬が10年連続で勝ったことになります。将来性云々の話はとりあえず抜きにして、現時点における実力比較では、サダムパテックは昨年同時期のローズキングダムよりも強いと思います。朝日杯でも勝ち負けでしょう。

◎ダコール(6番人気)は5着。初戦とは打って変わって後方を追走し、4コーナー15番手から大外に回して追い込んできました。四位騎手曰く「今日は折り合いに専念していきました」(ラジオNIKKEI競馬実況web)。上がり33秒8で届かないわけですから位置取りが厳しかったですね。坂を上がってからの伸びが良かったので本質的には平坦向きかもしれません。

競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!