ディープインパクト産駒の格上がり戦
11月28日のエントリー「土曜日の2歳戦いろいろ」のコメント欄に、ぎむれっと様から「ディープの仔って、なかなか2勝目あげれませんね、新馬戦でパフォーマンス見せてクラス上がると2着までのパターンが多いような気がします」というご意見を賜りました。
ジャパンCが終わったあと、府中駅近くの居酒屋で、石川ワタルさんご夫妻、宇田川淳さん、村田利之さんなど総勢十数名で宴会をしたのですが、奇遇なことにその席でも「ディープインパクト産駒って、すごく勝ってる割に2勝馬が少ないですよね、栗山さんどう思われますか」と訊かれました。
みなさんが疑問に思われていることなのだなぁと実感しました。正しい答えなのかどうかは分かりませんし、あくまでも仮説ですが、現時点における私の考えを述べたいと思います。
11月末までにディープインパクトが挙げた勝利数は33。勝ち上がりは31頭で、うち2勝馬は2頭です(ディープサウンド、ドナウブルー)。京王杯2歳S(G2)でリアルインパクトが2着となっているのでOP馬は計3頭です。
サンデーサイレンスが新種牡馬だった94年は、23頭が30勝を挙げました。2勝以上は7頭です。重賞2着馬を含めるとOP馬は計9頭。時代背景が異なることを考慮しても驚異的な数字です。
ディープインパクト産駒を見ていてちょっと異様だなぁと思うのは、新馬戦における圧倒的な強さです。長いあいだ競馬を見てきましたが、これほど新馬戦で勝ち上がる種牡馬は記憶にありません。またディープ、またまたディープ……といった感じで、そこそこ人気に推された馬ならほとんどが勝ち上がってしまうという印象です。
94年のサンデーサイレンス、2歳戦で過去最高の勝ち星(54勝)を記録した04年のサンデーサイレンス、そして今年のディープインパクトの新馬戦勝率を比較してみます。94年当時は折り返しの新馬戦があったので、それを除いた新馬初戦のみ対象です。
94年 サンデーサイレンス 21.9%
04年 サンデーサイレンス 20.4%
10年 ディープインパクト 31.3%
今年のディープインパクト産駒がどれほど新馬戦に強いかご理解いただけると思います。サンデーにめぼしいライバルがいなかった94年、全盛期を迎えた04年ですら、今年のディープインパクトには敵いません。
ディープインパクト産駒がデビュー戦に強いのは、能力の高さはもちろんですが、気のいいタイプが多く、競走に対して前向きであることが大きいと思います。それに加えて、デビューさせる各厩舎も、ディープインパクト産駒ということで多少意識が違うのか、新馬戦からキッチリ仕上げてきます。どれも高馬だけに“下手な仕上げでは出せない”という気持ちがあるのかもしれません。トーセンレーヴが万全を期してデビューを再三延期しているのはその典型でしょう。
新馬戦向きのディープインパクト産駒が、いきなり目一杯に仕上げられれば、それは強いと思います。ただ、上がり目は乏しく、馬によっては反動もあるでしょう。2戦目にもうひとつパフォーマンスが伸びないのはこのあたりに原因があるのではないかと考えています。
ですから、藤沢厩舎や角居厩舎のような、馬を作りすぎずにゆっくり仕上げる調整法が、ディープインパクト産駒には合っているのではないかと個人的には考えています。ポンポンと勝ち上がるので手が掛からないように見えて、じつは、大成させるためにはほかの種牡馬の子よりも我慢と忍耐が必要なのかもしれません。
優れた資質を持っていることは明らかだと思うので、やがてどんどんOP馬が誕生していくでしょう。