菊花賞はビッグウィーク
前走の神戸新聞杯(G2・芝2400m)は、ローズキングダムとエイシンフラッシュに切れ負けして3着でした。1、2着馬の上がり3ハロンはは33秒3。バゴ産駒のビッグウィークにこんな脚はありません。
特殊な上がり勝負だった神戸新聞杯とは違い、菊花賞(G1・芝3000m)は別物のレースになることが予想されたので、凱旋門賞を勝った父バゴのスタミナが活きる流れになればあるいは……と考え、今回は4番手評価(△)。切れ味勝負を回避するために早めの競馬を心がけた川田騎手の好騎乗が光りました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007100208/
2代母タニノブーケはデイリー杯3歳S(G2・芝1400m)の勝ち馬。小柄で切れ味のある馬でした。繁殖牝馬としては成功し、タニノボレロ(新潟記念)、タニノクリエイト(神戸新聞杯)を出しており、ビッグウィークの母タニノジャドールはこの2頭の半妹にあたります。
タニノブーケ(f.1982.ノーザンディクテイター)
タニノボレロ(c.1988.トレボロ)新潟記念(G3)
タニノクリエイト(c.1992.クリエイター)神戸新聞杯(G2)
タニノジャドール(f.1998.サンデーサイレンス)
ビッグウィーク(c.2007.バゴ)菊花賞(G1)
サンデーサイレンスの血は偉大というほかありません。今回の菊花賞は非サンデー系のワン・ツー・フィニッシュでしたが、母の父はいずれもサンデーサイレンス。母方に潜っても絶大な威力を発揮します。
日本に種牡馬として導入された凱旋門賞馬は13頭を数えますが、種牡馬としてまずまず成功したといえるのはセントクレスピン、ダンシングブレーヴ、トニービンぐらいで、あとは日本向きとはいえない鈍重なタイプがほとんどです。ビッグウィークの父バゴにもややそういった面が見られます。
バゴの父 Nashwan は現役時代に英2000ギニー(G1・芝8f)と英ダービー(G1・芝12f)の二冠を制覇。名騎手として名高いウィリー・カーソンが引退した際、騎乗した馬のなかでベストホースに挙げたほどの名馬でした。種牡馬としてはスタミナ型で、決め手もイマイチ。息子のバゴにもこうした特徴が伝わっているように思います。とはいえ、初年度産駒からビッグウィーク(菊花賞)とオウケンサクラ(フラワーC)を出したのですからたいしたものです。当たれば飛距離は出る、というキャラクターですね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2001190004/
バゴの父 Nashwan はディープインパクトの近親で、母 Moonlight's Box は Kingmambo と逆配合(Nureyev×Mr.Prospector)。血統構成的にややおもしろい布石があるので、遠い先の話になりますが、バゴの血を抱えた繁殖牝馬はそれらの血と組み合わせることでいい馬を出せるかもしれません。
今回の菊花賞は△コスモラピュタ(11番人気)が大逃げを打ちました。もう少し強い逃げ馬なら逃げ切っているペースです。1コーナーから2周目3コーナーまでの5ハロンで、13秒台のラップを4回刻んでいます。不思議なことに、1周目のゴール板前では5馬身のリードだったのが、ラップが落ちたこの区間で10馬身以上の大逃げとなっています。
先頭はこの5ハロンを65秒で走りました。直前の降雨を考慮に入れたとしても遅いペースです。そして、後続馬群はここで引き離されたわけですから、もっと遅いペースだったわけです。ビッグウィークはここで3番手から2番手に上昇しました。位置取りの勝利といえるでしょう。
ニホンピロムーテー(福永洋一)の菊花賞、テツノカチドキ(佐々木竹見)の二度目の東京大賞典、ライスシャワー(的場均)の二度目の天皇賞・春などのように、長丁場で道中のペースが遅いと見るや、レース途中から果敢に動いてハナに立ち、そのまま逃げ切るといった冒険的な騎乗を以前は目にすることがありました(ニホンピロムーテーはリアルタイムで見ていませんが)。チャレンジングスピリットが感じられる競馬はいつだって感動しますし、興行的なコンテンツとしても優れていると思います。たとえ馬券が外れても「いい競馬を見せてもらった」と満足できるからです。要するに“カネを取れる競馬”ですね。
ペースを読める騎手がいなくなったのか、あるいは現代の競馬ではそもそもその類の冒険は成立しないのか、馬乗りに関して素人の私には分かりません。ただ、3000mのレースで上がり33秒台後半~34秒台前半の馬たちが枕を並べて討ち死にしているのを見ると、違和感を感じずにはいられません。「動くに動けない」「先に動いたら負け」という言葉はよく耳にしますが、動かずに負けてしまったら元も子もないと思うのですが。
◎トウカイメロディ(2番人気)は6着。向正面から微妙に手応えが悪かったですね。このメンバー相手に横綱相撲で勝てるほどの力はまだありませんでした。
川田騎手の初GⅠが皐月賞でしたが、あの時もキャプテントゥーレでの積極的かつ勝負を掛けた騎乗が称賛される一方、脚を余した他の騎手には疑問符がつきました。どうしても馬券、予想の当たりハズレから批判が始まるので、本質的な議論にならない。このことこそが、毎度毎度繰り返される自ら勝ちに行かない、他力本願の騎乗がなくならない元凶だと思います。
競馬ブックのような専門誌でさえ、騎乗に真っ当な批判を記載すれば、騎手会からクレームがついたり取材拒否があるそうです。批判、批評はプロだから当たり前のことです。優勝劣敗は馬だけでなく、騎手や調教師もその対象でしょう。
スローペース症候群、折り合い信仰が揶揄されて久しいですが、他力本願に頼ることなく、自ら勝ちに行く騎乗をレースで、特にGⅠレースで見せて行かないと、ファンの流失は止まらないでしょう。
そのためには、真っ当な批評を公にすることが絶対に必要です。また、それを受け止める騎手の度量も問われます。
私はビッグウィークに◎を買う直前まで打ってました。前日の古都Sを見てて、やはり長距離は騎手と血統だろうと思って。ただ買う直前に天気が持ちそうだったためゲシュタルトに日和って大失敗でし
投稿: ダンディ“ゲッツ”さっさん | 2010年10月25日 (月) 09:42
チャレンジスピリット溢れる騎乗とは、どういうものなのでしょうか?
3コーナーで逃げ馬以外の17頭すべてが逃げ馬に襲いかかったら、素晴らしい競馬なのでしょうか?競馬は動物である馬に人間が乗って行う競技であり、思うようにならないからこそギャンブルとして成立するのでは。
天才騎手が下手をうつ展開を予想して買えなかった自分を棚にあげて、展開を読める騎手がいなくなったとは、評論家とは随分偉い人なんですね。10回のうち6回以上アウトになるイチローを非難する評論家がいますか?武豊や藤田や福永は自分が完璧だと宣言しているのでしょうか?彼等は優勝劣敗の世界にいます。勝てなくなれば天才も舞台から消え去るのみです。批判等しなくても買わなければいいだけです。何を根拠にこの馬を買うのかを発表し、当たれば大いに自慢し、外れればごめんなさい。それで充分です。後付けの解説なんて飲み屋でやって下さい。
投稿: スローペース | 2010年10月26日 (火) 02:01
>ダンディ“ゲッツ”さっさん様
昨年のエリザベス女王杯や、マイネルデスポットが2着に粘った菊花賞の後は、はっきりいってしばらく馬券を買うのが嫌になりました。もっとも、馬券を取った方はそうは思わなかったでしょうから、この種の話がポジショントークに傾きがちなのは否定しません(笑)。
ただ、そういう馬券を取れる方はごくごく一部でしょうし、上記のレースを見て多くの人は「ナニコレ」と思ったのではないかと思います。たとえば、繁盛している店でも商品価値の乏しいものを売り始めたらお客さんの足は遠のきますし、それを続けていたら経営が傾きます。私が危惧するのはそこです。
売り上げが落ちているときだからこそ、馬券が外れても「いい競馬を見せてもらった」と満足できるような質の高いレースが求められるのだと思います。今回のレースについてその解釈はさまざまでしょうが、一般論として、見ていてガッカリするようなレースが続けば、新規客は得られませんし、ゲッツさんがおっしゃるように「ファンの流失は止まらない」でしょうね。
投稿: 栗山求 | 2010年10月26日 (火) 05:56
>スローペース様
はじめまして。
私が定義する「チャレンジスピリット溢れる騎乗」とは、プロが培った経験と計算から生み出された、一般的なセオリーとは異なる意表を突いた騎乗のことです。ただの当てずっぽうな騎乗とは違います。
誤解していただきたくないのですが、今回のエントリーで私が述べたことは、特定の一個人を対象としたものではありません。そして、なぜそう考えるに至ったかは、数字を挙げて論証しています。私の◎はトウカイメロディであり、武豊騎手の馬券を買う買わないは関係ありません。また、プロのアスリートが優勝劣敗の世界にいるからといって、疑問を呈することすら許されないという言論封殺的なご意見は、私には理解できません。
物事の見方は人によって違います。ですからギャンブルが成り立つのだと私は思います。スローペース様のご意見は賜りました。それは尊重いたします。ですが、私の意見はそうではないということです。私はこのブログを自分の責任において、誰からも金銭を得ることなく趣味で運営しております。どのような話題をどう書くかは私の自由であり、もしどうしても内容が気に入らないのでしたら、お読みにならなければいいだけだと思いますよ。
私もたまに競馬場近くの飲み屋におりますので、もし顔を見かけたら声をかけてください。お話につき合っていただけたら奢りますよ(笑)。
投稿: 栗山求 | 2010年10月26日 (火) 06:43
いつも私の拙いコメントにお答え頂き、感謝しています。
昨年のエリザベス女王杯以降、売上の下落が止まりません。日経新聞の野元記者のコラムで読んだ記憶があるのですが、売上が2兆5000億を下回るとヤバい=赤字に転落するとのシミュレーションがあるそうです。提供された商品に瑕疵があれば異議申し立てを行うことが出来るのは当然のことです。ただ現状では、まるで頑固な寿司屋のオヤジが『俺の握る寿司に文句があるんなら食ってもらわなくていいんだ!さっさと金払って出ていってくれ!』と、久しぶりにカウンターにお客さんが来てくれたのに怒鳴っている図にしか見えません。魚の仕入れなのか。値段の価値があるのか。職人さんの腕なのか。PR、宣伝なのか。どこかに問題があるか、すべてなのかも知れません。
レースが終わってから、お客さんが笑顔なのか。満足しているのか。レースを楽しそうに語らっているのか。
現場100回ではないですが、そこから始めないことには、下落に歯止めはかからないと憂慮しています。
天皇賞秋が、カタルシスの残るレースになることを期待します。
投稿: ダンディ“ゲッツ”さっさん | 2010年10月26日 (火) 11:17
騎手が展開を読めなくなった点は、私も共感です。
TVを観てて、2角の時点で前残りになると思いました。3角でも誰も動こうとしなくて、本当につまらない菊花賞でした。
昔の長距離戦は、騎手同士の駆け引きが見どころだったと思いますが、今の長距離戦には、中央・地方問わずに駆け引きが消えかかってるように思います。
投稿: キングトップラン | 2010年10月26日 (火) 22:42
いつも勉強させてもらってます。
長距離戦ですぐ思い出すのはユーセイトップランのダイヤモンドSです。
ダビスタから競馬に入りちょうど競馬場に通い出したころ、ダビスタでもないようなマクリに心奪われました。
その後、後藤騎手は音無調教師に怒られたみたいですが。。
素人が一概にいえませんが、馬券を超えていいもんみたなってレースをみたいものですよね。
投稿: ak | 2010年10月27日 (水) 01:05
>ダンディ“ゲッツ”さっさん様
拙いコメント、なんてとんでもないですよ。ズバッと正論だと思います。売り上げ減の底が見えない現状では、私を含めて業界全体がいままで以上に売り上げ増に結びつける努力をしなければ……と感じます。問題の原因は世界を覆う経済不況にもあるので、そう簡単なことではないのですが、とりあえず危機感だけでも共有しなければ何も始まらないと思います。賞金が下がるのは時間の問題でしょう。馬産地に回るお金が少なくなれば、いまでも苦しい馬産地は壊滅的な事態に至るかもしれません。問題は山積、前途は多難です。ただ、競馬の根本はレースであり、そこに魅力がなければいつの時代であってもお客さんはついてこないと思います。何が勝つにしても天皇賞・秋はスカッとするレースを期待したいですね。
投稿: 栗山求 | 2010年10月27日 (水) 01:49
>キングトップラン様
長距離戦は騎手の技量が如実に表れますから、“騎手買い”というのは最も原始的ながら非常に有効な戦略ではないかと思います。たとえば、昔のステイヤーズSでは、毎年、岡部幸雄騎手か柴田政人騎手の騎乗馬を中心に馬券を買っていました。これでおもしろいように当たったものです。今年の菊花賞に横山典弘騎手が乗っていたらどういう競馬をしただろうか、とふと考えてしまします。3000m以上のレースでズバ抜けて優れたペース判断をする騎手ですから。
投稿: 栗山求 | 2010年10月27日 (水) 02:16
>ak 様
いつもお読みいただきありがとうございます。ユーセイトップランの鬼マクリ、ありましたねぇ~! 中山の長距離戦ならああいうレースはたまに見かけますが、東京ではほとんどないので度肝を抜かれました。私もあのレースは大好きです。
馬券が外れたらもちろん悔しいですが、いいレースなら納得できるんですよね、自分の間違いを素直に認められるので。いいレースでしかも馬券が当たれば1週間鼻歌を歌って楽しく過ごせます(笑)。
投稿: 栗山求 | 2010年10月27日 (水) 02:31