凱旋門賞に挑んだヨーロッパ以外の外国馬(後)
海外遠征において、本番前に前哨戦を走ることは、馬場や環境に慣れる効果があります。その一方で、滞在が長くなると体調維持が難しくなり、調子が落ちることもあります。馬の個性、滞在場所の環境、スタッフの手腕などが関わってくる問題なので、一概にどちらがいいとはいえません。
ただ、凱旋門賞が行われるロンシャン競馬場は、ひと雨降るとヨーロッパ独特の非常に重い馬場となり、しかもコース設定がトリッキーです。さらにメンバーはきわめてハイレベル。ぶっつけというのはなかなか結果が出にくいですね。秋のパリはよく雨が降ります。エルコンドルパサーが出走した99年、ロンシャンの馬場を実際に歩いてみたのですが、濡れた長い芝が足に絡みついてくるような感触で、この馬場をこなすのは容易ではないと感じました。
昨日掲載した表を見ると、アルゼンチンやブラジルなど、日本と同じように時計が速く、馬場のアップダウンが比較的少ない南米の国々は、まったく結果が出ていないことがわかります。どの馬も故国では年度代表馬クラスの名馬ですが、競馬になっていません。
5位以内に入線した馬を書き出してみます。
56年 Career Boy(米) 4着
77年 Balmerino (新) 2着
84年 Strawberry Road (豪) 5着
99年 エルコンドルパサー(日)2着
06年 ディープインパクト(日)失格(3位入線)
このうち、ぶっつけだったのは、Career Boy とディープインパクトの2頭。Balmerino、Strawberry Road、エルコンドルパサーの3頭は、本番前にヨーロッパで競馬を使っていました。
Career Boy(米)は、ヨーロッパの深い芝もバリヤー式のスタートも初経験でしたが、よく頑張りました。ただ、勝ち馬の Ribot からは8馬身以上離されています。
http://www.pedigreequery.com/career+boy
ディープインパクト(日)は、ヨーロッパ以外からぶっつけで挑んだ外国馬のなかで最も健闘した馬です。失格となったのは残念でした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2002100816/
Balmerino(新)は、故国ニュージーランドからオーストラリア、アメリカを経て77年夏にイギリスのジョン・ダンロップ厩舎に入り、グッドウッドのステークスを5馬身差で勝って本番に臨みました。2着という成績はヨーロッパ以外の外国馬ではエルコンドルパサーと並ぶ最高着順です。
http://www.pedigreequery.com/balmerino
Strawberry Road(豪)は、8月末と9月始めにドイツで2戦し、本番に駒を進めました。5着と健闘したあと、ワシントンDC国際、ブリーダーズCターフと使って、ジャパンCに来日したのですからタフな馬です。
http://www.pedigreequery.com/strawberry+road
エルコンドルパサー(日)についてはあらためて書くまでもありません。春からヨーロッパへ渡るという長期的な計画によって見事結果を出しました。ただ、この長期遠征は、オーナーの個人的なコネクションによって、預け先の現地厩舎との間にあらかじめパイプが存在していました。何のツテもなくいきなり長期遠征しようとしても難しいでしょう。また、経済的な負担も多大なものになるので、並の覚悟では無理だと思います。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1995108742/
ヨーロッパ以外でデビューした外国馬は、凱旋門賞で凡走するのが当たり前。5着以内に入れば大善戦といえます。傑出したスーパースターがいない今年は多くの馬にチャンスがあります。日本馬2頭が新たな歴史を作ることを期待したいと思います。
欧州調教馬以外は勝てない、という点で一つだけ引っ掛かることがあります。
一番大きな要素は騎手ではないでしょうか。
エルコンもディープも、蛯名騎手と武豊騎手で挑んだ訳です。日本人としてKYなのを承知で申し上げますが、やはりロンシャン経験に長けた現地の一流騎手に一日の長があるのではないでしょうか。
ディープが凱旋門賞で追い出しにかかった時の、解説者岡部元騎手の『まだまだ…!』の声が今も残っています。一団で隙間なく進み、あのフォルスストレートから直線へと入るロンシャンはかなりの難コースだと言えます。
ここでのキャリアの差は大きいと思います。
もちろん武豊、蛯名両騎手の夢であり、陣営の挑戦ですから、外野のファン=素人が口を挟むなぞ言語道断でしょうが、この点を含めての『欧州調教馬以外』というくくりではないのかなあと思います。
もちろん武豊騎手も蛯名騎手も大ファンですし、ピサもフェスタも日本代表に恥じない名馬です。力一杯応援します。ただ、歴史に挑戦するにはハードルを徐々に上げていくことも必要なのかなあ…と思います。
追伸 栗原正光さんのブログ、ご紹介ありがとうございました。毎日少しずつ読み込んでいます。
投稿: ダンディ“ゲッツ”さっさん | 2010年9月29日 (水) 12:33
現地の一流騎手がお手馬を捨ててまで乗りたい、と思わせる日本馬がいつか現れてほしいですね。海外遠征で大事なのは、馬の能力・適性と、スタッフの経験と、現地のコネクションだと思います。騎手の問題はコネクションの部分なので日頃の交流が重要なのではないでしょうか。
栗原さんのメルマガ(地方競馬ファン)のバックナンバーもオススメです。1号ごとに栗原さんのコラムが載っていて楽しめますよ。
http://www.mag2.com/m/0000199504.html
投稿: 栗山求 | 2010年9月29日 (水) 18:30
栗山さん、わざわざありがとうございます!
めちゃめちゃ面白いじゃないですか!
同時に、これだけ全国津々浦々目配りをされてたんだ…と、今更ながら感じ入る次第です。
地方競馬が中央競馬に負けてるところ。平日開催もそうですが、圧倒的なメディアの露出、情報量の差。
『取っつきやすさ』『きっかけ』の点。この部分は完敗です。ライトファンを取り込み、レギュラーにしていく仕組みの最初の部分で負けてます。
栗原さんのなさったことは、かなりの部分で中央のそれを凌駕してらっしゃいます。そして競馬を、馬を、携わる人を本当に愛してらしたのだと思います。
で、私に出来ること。
中央、地方を問わず、競馬を応援していくこと、これくらいしかありません。
さしあたって、週末の凱旋門賞と明日の園田競馬を力一杯応援します!
栗原さんに出逢えたこと。栗山さんに感謝します。ありがとうございました。
投稿: ダンディ“ゲッツ”さっさん | 2010年9月29日 (水) 20:47
栗原さんがお書きになったことは、すべてご自分で体験し、感じたことなので圧倒的に面白いんですよね。よほど深く競馬と関わっていなければあれだけ語り続けることはできません。まさに唯一無二の存在です。栗原さんがブログとメルマガに書かれたことは、わが国の競馬にとって貴重な財産だと思います。
投稿: 栗山求 | 2010年9月30日 (木) 02:33