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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年4月

2010年4月30日 (金)

ドイツ血統と Sadler's Wells

土曜日の青葉賞(G2)には、ドイツ血統を持つ2頭の外国産馬が出走します。ミッションモードとリリエンタールです。並べてみるとその共通性は一目瞭然、2代目に Sadler's Wells と Monsun があります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007110047/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007110046/

            ┌ Sadler's Wells
          ┌○┘
ミッションモード ―┤ ┌ Monsun
          └○┘

            ┌ Sadler's Wells
          ┌○┘
リリエンタール ――┤ ┌ Monsun
          └○┘

Sadler's Wells は、ここ20年ほどヨーロッパのクラシックディスタンスに君臨する大種牡馬。Monsun は、昨今の“ジャーマン・インヴェイジョン”とでもいうべき現象の中心的存在です。

4月22日のエントリーで次のように述べました。

「主要競馬国の血統は、昔の時代に比べてクロスオーバー化が進み、国ごとの個性といったものが消失しつつあります。そうした時代にあって、ドイツ型馬産によって育まれた血統が、貴重な異系――つまりは活力源――として引っ張りだこになるのは自然な成り行きです。サドラーズウェルズと結びつけばその味を引き立て、サンデーサイレンスと結びつけばその味を引き立てます。そうした万能調味料のような役割を果たしてるからこそ、ドイツ血統は世界的な成功を収めているのではないかと思います。」

Sadler's Wells とドイツ血統の相性は抜群です。

ドイツ血統の母から誕生した女傑 Urban Sea(凱旋門賞)は、Sadler's Wells との交配で Galileo(英ダービー、愛ダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)を産みました。
http://www.pedigreequery.com/galileo4

Monsun は、Sacarina という牝馬との間に、Samum(独ダービー、バーデン大賞)、Salve Regina(独オークス)、Schiaparelli(独ダービー、オイロパ賞ほか)という3きょうだいを誕生させていますが、Sacarina の父はオールドヴィック、すなわち Sadler's Wells の息子です。
http://www.pedigreequery.com/samum

独ダービー馬は、06年(Schiaparelli)、07年(Adlerflug)、08年(Kamsin)と3年連続で Sadler's Wells とドイツ血統の融合から誕生しています。
http://www.pedigreequery.com/schiaparelli4
http://www.pedigreequery.com/adlerflug2
http://www.pedigreequery.com/kamsin2

このほか、Hurricane Run(凱旋門賞、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、愛ダービー)、Fame and Glory(愛ダービー、クリテリウムドサンクルー)、Night Magic(独オークス)、Creachadoir(ロッキンジS)、Lateral(グランクリテリウム)といったG1ホースがこのパターンに当てはまります。
http://www.pedigreequery.com/hurricane+run
http://www.pedigreequery.com/fame+and+glory
http://www.pedigreequery.com/night+magic3
http://www.pedigreequery.com/creachadoir
http://www.pedigreequery.com/lateral2

日本のレッドディザイア(秋華賞、アルマクトゥームチャレンジラウンド3)とジョーカプチーノ(NHKマイルC、ファルコンS)も忘れることはできません。いずれもドイツ血統を含むマンハッタンカフェを父に持ち、母方に Sadler's Wells が入ります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006102929/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006100529/

Sadler's Wells もドイツ血統も、基本的にヨーロッパの深い芝を得意とするだけに、これをそのまま日本に持ってきても、出番は道悪だったり、良馬場では鋭さ負けしたりといった特徴が表れてしまうでしょう。

レッドディザイアとジョーカプチーノには、瞬発力に秀でたサンデーサイレンスと、堅い芝に強い Caerleon が入ります。こうしたプラスαがあれば日本でも十分に戦うことができます。ミッションモードとリリエンタールに関していえば、上記のようなジャパナイズがやや足りないかな……という気がします。

2010年4月29日 (木)

ケンタッキーダービー大本命馬 Eskendereya が出走回避

これはガッカリです。左前肢に異状が生じたとのこと。ヴィクトワールピサがダービーを回避するようなものですね。

ファウンテンオブユースS(G2・ダ9f)を8・1/2馬身差、ウッドメモリアルS(G1・ダ9f)を9・3/4馬身差で圧勝していたので、もし出走していれば一本かぶりの人気を背負うはずでした。ウッドメモリアルSの勝ち馬といえば、昨年の I Want Revenge も直前の出走取消で本番に出られなかったことを思い出します。

本命視されながら故障によりケンタッキーダービーに出られなかった馬は、どういうわけか種牡馬として成功する確率が高いように思います。たとえば Turn-to。その息子の Hail to Reason と Sir Gaylord などもそうです。このほか Graustark や Hoist the Flag や A.P.Indy なども。このうち A.P.Indy は競走に復帰して米年度代表馬となりました。将来、Eskendereya が成功種牡馬となる確率は高い?
http://www.pedigreequery.com/eskendereya

2010年4月28日 (水)

バブルガムフェロー死亡

史上初めて3歳時に天皇賞・秋(G1)を制したバブルガムフェロー(父サンデーサイレンス)が26日に死亡しました。17歳。肺炎が回復しなかったとのことです。

サンデーサイレンスは、Northern Dancer と同じように、高い競走能力を持った産駒が種牡馬としても成功する、というケースが比較的多いように思うのですが、バブルガムフェローの種牡馬成績はイマイチでした。スピード、瞬発力といった資質を伝えることができませんでした。半兄にあたる Candy Stripes(父 Blushing Groom)は、米年度代表馬 Invasor や米芝牡馬チャンピオン Leroidesanimaux を送り出すなど種牡馬として成功しました。それだけにバブルガムフェローの不振は謎です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1993109219/

ただ、シャトル種牡馬として渡ったオーストラリアでは3頭の重賞勝ち馬を送り出しています。なかでも Rockabubble はNZブラッドストックブリーダーズS(G1・芝1600m)を制しました。オセアニア血統とフィットする馬だったのかもしれません。
http://www.pedigreequery.com/rockabubble

2010年4月27日 (火)

サクラハゴロモとガルダンサー

昨日のエントリーで採り上げたサクラバクシンオーは、かつてPOGで所有していた馬でした。どうして獲ったかというと、その母サクラハゴロモをPOGで所有していたからです。

サクラハゴロモがデビューしたのは1986年6月7日(土)。第1回札幌初日の新馬戦(ダ1000m)でした。圧倒的な1番人気に推されたものの結果は2着。わざわざ学校をサボッて後楽園場外まで応援に駆けつけた筆者(当時高校3年)は肩を落として帰途につきました。

翌日曜日、もう1頭のPOG所有馬ガルダンサーが新馬戦(ダ1200m)に出走したのですが、残念ながらこちらも断然人気で2着。うまくいかないものだなぁ……と嘆息した記憶があります。

結局、サクラハゴロモは約1年半の競走生活で16戦して2勝を挙げるにとどまりました。が、繁殖牝馬としてはアンバーシャダイの全妹という良血を活かし、サクラバクシンオーを送り出して成功しました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1984104366/

初戦で惜敗したガルダンサーは、折り返しの新馬戦(ダ1200m)を大差勝ちし、勢いに乗って札幌3歳S(G3・ダ1200m)を制覇しました。当時、札幌競馬場には芝コースがなかったためレースはダート戦でした。このときの2着馬はゴールドシチー(阪神3歳S、皐月賞2着、菊花賞2着)です。

ガルダンサーは、母オディオラがめったに見られないような配合をしており、この点からも気に入っていた馬でした。2代母ヒヤママンナはヤシママンナ≒ゴールドウェッディング1×3、母オディオラはフクニシキ≒ヤシマアポロ3×3。母の父リュウズキは皐月賞と有馬記念の勝ち馬です。古き良き昭和の香りが漂う血統ですね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1984104303/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1978101970/

その後、ウインターS(G3・ダ2200m)2着、札幌記念(G3・ダ2000m)3着などの成績を挙げてガルダンサーは地方競馬へ転出し、流浪の競走生活に入りました。

北関東では、当地の有馬記念に相当するとちぎ大賞典(ダ2600m)を制覇。年の瀬の忙しい時期でしたが宇都宮競馬場まで応援に行ったことを覚えています。その8日後に昭和が終わったので、ライブで見た昭和最後の競馬がこのとちぎ大賞典でした。優勝レイを掛けられて拍手を浴びるガルダンサーは、その数日前に有馬記念を制したオグリキャップに劣らぬ堂々たる威風を放っていました。その背中で手を挙げた福田三郎騎手は、2000勝以上を挙げた北関東きっての名ジョッキーでしたが、数年後、調教中の落馬事故によって半身不随となっています。

北関東のあとは上山、さらに九州の中津へと流れ、ここで9歳まで走って競走生活を終えました。通算70戦14勝。その後の消息は不明です。ガルダンサーの競走生活の晩年には、すでにサクラハゴロモの子サクラバクシンオーが気鋭のスプリンターとして頭角を現していました。競馬好きの高校生だった筆者は競馬業界に身を置いていました。

スピードは次代に血を繋げる一方、丈夫さが取り柄の古い在来血統は走るだけ走って地方競馬の片隅で朽ち果てていく。サクラハゴロモ親子とガルダンサーを同時にウオッチしていると、少しだけ切ない気分になったものです。

2010年4月26日 (月)

橘Sはエーシンダックマン

日曜日に京都競馬場で行われた橘S(3歳OP・芝1400m)は、9番人気のエーシンダックマンが逃げ切りました。予想はヌケだったので完敗です。

父がサクラバクシンオーで、2代母がヴィデオピアノということは、エイシンツルギザン(ニュージーランドT、NHKマイルC2着)と4分の3同血の関係にあります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007101286/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2000100002/

           ┌サクラバクシンオー
エーシンダックマン ―┤
           └○┐
             └ヴィデオピアノ

           ┌サクラバクシンオー
エイシンツルギザン ―┤
           └ヴィデオピアノ

ヴィデオピアノには Nijinsky が含まれています。サクラバクシンオーは Nijinsky と相性がよく、これまでにショウナンカンプ、シーイズトウショウ、メジロマイヤー、ブルーショットガン、サンダルフォン、エイシンツルギザン、デンシャミチといった重賞勝ち馬がこのパターンから誕生しています。Nijinsky を持つ場合と持たない場合の同産駒を、連対率から比較してみると以下のようになります。

■Nijinsky を持つバクシンオー産駒
全連対率 19.7%
芝連対率 20.2%
ダ連対率 19.1%

■Nijinsky を持たないバクシンオー産駒
全連対率 17.6%
芝連対率 18.6%
ダ連対率 16.4%

母系に Nijinsky が入ると芝・ダートともに成績が上昇します。サクラバクシンオーは Nijinsky のほかに、Hyperion の強い影響下にあるチャイナロックのような血とも好相性を示しています。バクシンオーが軽いスピード血統なので、重しとなるような図太い血がフィットするのでしょう。エイシンツルギザンに比べ、エーシンダックマンは Nijinsky が1代遠ざかってしまい、影響力が薄くなってしまうのですが、そのぶん、母の父に Nureyev 系のスピニングワールドが入ります。Nureyev は Hyperion 4×4です。

ムキになりがちな性格だけに、1400mへの距離延長が心配でしたが、うまく走ることができました。前が止まらない開幕週の馬場の恩恵もあったかもしれません。次走の注目馬は大きな不利がありながら5着に突っ込んできたケイアイルーラーでしょうか。まともなら勝ち負けに加わっていたと思います。

2010年4月25日 (日)

フローラSはサンテミリオン

最後の直線でアグネスワルツを交わすのに手こずったのは、序盤に外枠から脚を使って好位を取りにいったことが微妙に影響したのかもしれません。このメンバー相手に連を外す可能性は低いだろうと思っていましたが、予想どおりの完勝でした。1月25日のエントリーでサンテミリオンの血統について解説しておりますのでご参照ください。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/01/post-91a2.html

逃げ粘ったアグネスワルツも強い馬です。レコード勝ちした2戦目の未勝利戦、ワイルドラズベリーを寄せ付けなかった3戦目の白菊賞を見るかぎり、世代トップクラスの潜在能力の持ち主であることは疑いようがありません。問題は休み明けと距離だったわけですが、パドックの気配は良好で、配合的に2000mまではこなすだろうという見立てでした。

予想は◎▲△で3連単6830円的中。

1、2着馬の父はいずれもゼンノロブロイです。同馬はアメリカ血統過多といったところがあるので、同じようにアメリカ血統で固めた牝馬と交配すると、ダート向きになったり大物感を欠いていたりで、あまりいい産駒が出てきていないように見えます。逆にヨーロッパ血統の強い牝馬と交配すると、足りないものを補完するためか、芝中距離で大物感を見せる産駒が見られます。ゼンノロブロイ産駒のトップクラスはだいたいこのパターンです。

基本的に“ヨーロッパ血統の強い繁殖牝馬がいい”といっても、現実的に100%ヨーロッパ血統、というのはなかなかいるものではないので、アメリカ血統も当然入ってきます。その場合、Buckpasser や Never Bend や Better Self といった La Troienne 血脈は悪くない印象です。サンテミリオンとアグネスワルツの母の父はそれぞれラストタイクーン、ヘクタープロテクターですが、この2頭は3代以内に Buckpasser と Never Bend を持っています。こういう血がワンポイントでも入ると好印象です。
http://www.pedigreequery.com/last+tycoon
http://www.pedigreequery.com/hector+protector

『競馬王のPOG本 2010~2011』(5月発売予定)の「栗山ノート」では、ゼンノロブロイ産駒の好配合馬を5頭選びました。ヨーロッパ血統の重要性についてはこれまで散々述べてきたとおりですが、今年はこのほか、La Troienne 血脈にも目配りをしながら馬を選んでみました。走ってほしいものです。

2010年4月24日 (土)

福島牝馬Sはレジネッタ

スランプの期間が長かったので桜花賞の勝ち馬であることを忘れかけていました。過去20年間の桜花賞馬を、次の勝利までのインターバルが長かった順に並べると以下のようになります。

1位 キストゥヘヴン(2年5ヵ月)
2位 ダンスインザムード(2年1ヵ月)
3位 レジネッタ(2年0ヵ月)

キストゥヘヴンやダンスインザムードに比べてスランプの度合いが酷かっただけに、よく復活したなぁというのが感想です。

今回は中山牝馬Sに出走した馬が11頭も出ていました。同レースの2~6着はクビ、クビ、ハナ、クビ、ハナという僅差。そのなかで唯一前走よりも斤量が軽くなっていたのがレジネッタでした。このあたりをもう少し重視すべきでしたか……。1着レジネッタ、2着ブラボーデイジーとも、父がフレンチデピュティ系で、母の父はサンデーサイレンス。終わってみれば似たような血統のワンツーフィニッシュでした。

         ┌フレンチデピュティ
レジネッタ ―――┤ ┌サンデーサイレンス
         └○┘

           ┌フレンチデピュティ
         ┌○┘
ブラボーデイジー ┤ ┌サンデーサイレンス
         └○┘

予想は△△で外れ。◎を打ったレジネッタは10着。土曜日の福島芝コースは外枠馬の好走が目立ったような気がします。あるいは1番枠がアダとなったのかもしれません。日曜日は外枠馬に注意すべきかも?

日曜22時30分から『馬券師倶楽部2』再放送

『馬券師倶楽部2』の「栗山求(前編)」です。CS放送の“MONDO21”で観ることができます。よろしかったらどうぞ。

2010年4月23日 (金)

山野浩一「血統理念のルネッサンス」

昨日のエントリーで紹介した「ドイツ・ダービーの父系」は、1993年に『週刊競馬通信』に連載したものです。なぜ書こうと思い立ったかというと、山野浩一氏が80年代半ばに『優駿』に連載した「血統理念のルネッサンス――レットゲン牧場における系統繁殖の研究」に触発されたからです。同作には、深い知識と洞察にささえられた思考が、氏独特の直線的な文体のなかで展開されており、読了後に不思議な感慨を覚えます。

80年代に発表された血統関連の連載のなかで、私が傑作だと思うものは以下の3つです。

●笠雄二郎「血統あれやこれや」(『週刊競馬通信』)
●門井佐登宣「競馬三国志」(『週刊競馬ブック』)
●山野浩一「血統理念のルネッサンス」(『優駿』)

いずれも雑誌に掲載されたまま再録されていません。嘆かわしいかぎりです。雑誌の連載、という形にとらわれなければフェデリコ天塩氏の『馬事研究』(第1号、第2号)も当然含めなければならないでしょう。

山野氏はドイツ型馬産を最上のものとして礼賛しているわけではありません。「私にもアメリカ型馬産よりも、ドイツ型馬産が優れているとは言い切れない。特に競馬というものの発展はコマーシャリズムなくしてあり得ないと思う。私のドイツ式系統繁殖の提唱はあくまでも生産のバランス上のものだ。」と述べています。

もちろん、ドイツ型馬産について述べているわけですから、そこに高い価値を認めていることはいうまでもありません。ドイツとアメリカの馬産を比較する際、山野氏は音楽や映画を例に採ります。かなり長いのですが引用します。

「よくドイツはGNPや輸出競争で日本と争う国だし、それでいて日本のように財産の備蓄も食料の自給力もない国ではなく、いわば日本型とヨーロッパ型の両面で富める国といえるのに、どうしてアメリカのように競馬が繁栄しないのかという人がいるが、同じようにドイツの音楽の才能を動員すればいくらでもミリオンセラーぐらいできるということがいえる。現実にドイツ音楽の底辺から育ったビートルズやアバのような超大物タレントはアメリカからは出ることはなく、いわば技能としては大きな差があることは事実であろう。だが、こういう問題は単に技能や経済の問題ではなく、要するに音楽や競馬に何を求めるかという人間のアイデンティティの問題なのである。いかにグスタフ・マーラーが美しい旋律を作るからといって、マウント・バーニーのようにやれといっても無理な話で、多くのドイツ人は自分の音楽を作って金を儲けようとは思っても、金が儲かるように音楽を作るということは出来ない。アメリカへ渡ったバルトークは食うや食わずの生活をしながら、プロデューサーの差し出す巨額の金を突き返すわけである。まして食うに困らない人なら誰がそんなことをするだろう。アメリカのような商業的繁栄にはアメリカンドリームという虚構が必要なのであり、経済面と精神面の貧しさがなければならない。フリッツ・ラングにスピルバーグのような映画は作れないし、シュトックハウゼンにYMOのような曲が作れるわけではない。だがハリウッドの監督たちはラングの映画技法を学ぶか、ラングから学んだ人から学ぶかしているだろうし、YMOはシュトックハウゼンなくして存在しえない。たとえドイツのものが至上のものであっても、繁栄するかどうかとなるとまた別問題なのである。ただいえることは、もし我々が学ぶということをするとするならば、やはりスピルバーグよりもラングを学んだ方が良いし、YMOよりもシュトックハウゼンを学んだ方が良く、馬産に関してもアメリカよりはドイツに学んだ方が良いだろう。」

この意見が合っているか間違っているかといったことは瑣事にすぎません。この鮮やかな独断こそが山野節であり、最大の読ませどころです。それを記すことが評論家のなすべき仕事なのだろう、と思います。

2010年4月22日 (木)

勢力を拡大するドイツ血統

皐月賞2着のヒルノダムール、3着のエイシンフラッシュにはドイツ血統が含まれています。ヨーロッパにおけるドイツ血統は、ブームを超えてすでに定着した感がありますが、日本ではマンハッタンカフェとビワハイジが両輪となってこれから勢力を増していきそうです。3歳世代にはほかに、リリエンタール(水仙賞)やミッションモード(葉牡丹賞)といったドイツ血統の影響を受けた外国産馬が活躍中。今後、ドイツ血統の導入は確実に増加していくはずです。

日本におけるドイツ血統といえば、昔はホッカイダイヤとスタイヴァザントが代表的存在で、前者はホッカイペガサス(ダイヤモンドS、ステイヤーズS)を、後者はブラウンビートル(新潟記念)を出しましたが、いずれも種牡馬として成功したとはいえません。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000bee/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000cea/

初期のジャパンCには、パゲーノ、トンボス、カイザーシュテルンといった西ドイツ代表馬が参戦したものの、いずれも見せ場なく後方に敗れています。
http://www.pedigreequery.com/pageno
http://www.pedigreequery.com/tombos
http://www.pedigreequery.com/kaiserstern

こうした状況があったため、当時、ドイツ血統に抱いていたイメージは、「スタミナはあるが重く、道悪が上手でスピードに乏しい」というものでした。この見立ては間違ってはいなかったと思います。エイシンフラッシュが皐月賞で3着に突っ込んできたのは、渋り気味の馬場状態の恩恵を受けた部分もあったでしょう。

ただ、ドイツ血統の特徴がそれだけでしかないなら、現在のような世界的な成功はありえません。ドイツ型馬産とは、ひと言でいえば牝系を重視した系統繁殖です。閉鎖的な環境で似たような血を重ねた結果、ほかのどの国とも違った独自のサラブレッドが育まれました。主流血統とは無縁の異質な血が凝縮されているため、どんな血統とも和合性があり、新鮮な活力をもたらすというメリットがあります。

主要競馬国の血統は、昔の時代に比べてクロスオーバー化が進み、国ごとの個性といったものが消失しつつあります。そうした時代にあって、ドイツ型馬産によって育まれた血統が、貴重な異系――つまりは活力源――として引っ張りだこになるのは自然な成り行きです。サドラーズウェルズと結びつけばその味を引き立て、サンデーサイレンスと結びつけばその味を引き立てます。そうした万能調味料のような役割を果たしてるからこそ、ドイツ血統は世界的な成功を収めているのではないかと思います。

現代における最も重要なドイツ血統は、1974年に誕生した Surumu でしょう。「スタミナはあるが重く、道悪が上手でスピードに乏しい」といった旧来のイメージから脱した、現代性を帯びたドイツ血統です。スピードがあり、堅い馬場も苦にしません。Surumu の2代母 Suncourt はテスコボーイの母でもあります。Monsun は、母の父にSurumu があってこそ世界的な成功を収めることができたのだと思います。
http://www.pedigreequery.com/monsun

ドイツ血統については、『栗山求 Official Website』の「Works」に収められた「ドイツ・ダービーの父系」をご参照ください。エイシンフラッシュの母の父 Platini についても触れています。
http://www.miesque.com/

2010年4月21日 (水)

マカニビスティー敗れる

南関東のクラシック第一冠・羽田盃(大井競馬場・ダ1800m)は、単勝1.2倍の断然人気に推されたマカニビスティーが2着に敗れました。着差はハナ。

中団追走から3~4コーナーで大外をマクり、4コーナーでは早くも先頭。この勢いで直線は独走するかに見えたのですが、直線半ばで脚いろが鈍り、外から猛追したシーズザゴールド(2番人気)にハナ差先着を許しました。

どう乗っても勝てるという慢心があったのでしょうか、ちょっといただけない騎乗でしたね。ラジオNIKKEIの「競馬実況web」に掲載された戸崎騎手のコメントは以下のとおり。

「馬の調子は良かったんです。ただ仕掛けが早かったし、2コーナーから長くいい脚を使って3~4コーナーかなり外を回ってますから。今日の敗因は騎手が平常心で乗れなかったことでしょう。」
http://keiba.radionikkei.jp/keiba/news/entry-183339.html

自ら騎乗ミスと認めているようです。マカニビスティーはもう1勝しないことには中央に戻れないので、東京ダービーでは頑張ってほしいものです。

勝ったシーズザゴールドはこれが重賞初制覇。トライアルの京浜盃は2着でした。「スキャターザゴールド×Manila」という血統です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007100003/

2代母ピュアオブハートが凄い配合で、ほとんどエルコンドルパサーですね。自身に競走歴はなく、子は走らなかったのですが、孫の代で花開きました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a0065ae/

2010年4月20日 (火)

Busted の影響が強いヴィクトワールピサ

先日、『競馬王』の企画で亀谷敬正氏と対談したときに、彼がおもしろいことを発言していました。5月号から引用します。

「ヴィクトワールピサは僕の知人がオーナーに購入を奨めたんですが、その人がヴィクトワールピサはバステッドとそっくりだと言ってましたよ」

じつは昨年夏、セレクトセールの取材に行った際、亀谷氏と一緒にその方と食事をする機会に恵まれました。この世界では引く手あまたの目利きで、数語交わしただけで本物と感じさせる見識をお持ちの方でした。

その方が「ヴィクトワールピサはバステッドとそっくり」と言ったと聞いて、帰宅してから Busted の立ち姿とヴィクトワールピサの馬体を見比べてみたところ、たしかに瓜二つでした。Busted のほうがやや腰高で顔が大きいのですが、脚が長くいかにもステイヤーらしい体型は薄気味悪いほど似ています。半兄のアサクサデンエン、スウィフトカレントとは明らかに違います。

ヴィクトワールピサの血統表を見ると、Busted の父 Crepello(英ダービー、英2000ギニー)をクロスで持っています(6×5)。また、Busted の母 Sans Le Sou は、ネオユニヴァースの3代母 Boulevard と血統構成がよく似ているので、Boulevard≒Sans Le Sou 4×5と表現できます。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007102923/
http://www.pedigreequery.com/boulevard
http://www.pedigreequery.com/sans+le+sou

          ┌ Fair Trial
        ┌○┘
      ┌○┤ ┌ Portlaw
Boulevard ―┤ └○┘
      │ ┌ Wild Risk
      └○┘

        ┌ Wild Risk
      ┌○┘ ┌ Fair Trial
Sans Le Sou ┤ ┌○┘
      └○┤ ┌ Portlaw
        └○┘

つまりヴィクトワールピサは、Busted の父母(Crepello と Sans Le Sou)をしっかり強化した配合だからこそ、馬体にその特徴がよく表れているのではないかという気がします。

そして、それぞれの対応する血(父方の Crepello と Boulevard)がいずれもネオユニヴァースの母ポインテッドパスに含まれているので、同じサンデー系であっても兄スウィフトカレントとは性質が異なるのでしょう。

Busted は、2~3歳時はごく平凡な競走馬に過ぎなかったのですが、4歳を迎えて本格化し、コロネーションS(芝10f)、エクリプスS(芝10f)、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12f)、アンリフォワ賞(芝2200m)と4連勝。英年度代表馬に選ばれました。Bustino、Mtoto、Erins Isle などを送り出した近年のイギリスを代表するステイヤー血統で、日本ではホクトボーイ(天皇賞)の母の父、ディープインパクトの2代母の父にこの血を見ることができます。

ヴィクトワールピサは Busted を強化しているので、2400mに距離が延びることについては心配いらないでしょう。

2010年4月19日 (月)

皐月賞はヴィクトワールピサ

ヴィクトワールピサが通ったコースは、セイウンワンダーの朝日杯フューチュリティSとほぼ同じでした。ためらいなくあそこを突けるのは岩田騎手だけでしょう。皐月賞の歴史をひもとけばハードバージ(77年)のコース取りにもちょっと似ています。同馬の手綱を取っていたのは福永洋一騎手。天才的な閃きと抜群の制御能力を併せ持っていなければあの芸当は無理です。

馬の力はワンランク上でした。心技体すべて揃った“強さ”を感じます。このタイプは容易に崩れません。予想は◎○で本線的中。『web競馬王』に掲載した予想を転載します。

「◎ヴィクトワールピサは『ネオユニヴァース×マキアヴェリアン』という組み合わせで、スウィフトカレント(小倉記念、天皇賞・秋-2着)の4分の3弟、アサクサデンエン(安田記念)の半弟にあたる。母ホワイトウォーターアフェアは、ロジユニヴァース(日本ダービーなど重賞4勝)の母アコースティクスと同じく『マキアヴェリアンとロレンザッチオ』を併せ持っている。したがって、同じネオユニヴァースを父に持つヴィクトワールピサとロジユニヴァースは配合構成がよく似ている。日曜日の馬場状態が読みづらいところだが、稍重ぐらいと想定すれば能力発揮の妨げとはならない。前走の弥生賞は、窮屈なインで泥をかぶりながらじっと我慢するという強い精神力を証明するレースでもあった。ゴチャつきやすい多頭数のクラシックにおいてこれは大きな武器となる。軸馬として最も信頼性が高い。」
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007102923/

デビュー前からその配合に惚れ込んでいたので、『POGの達人(赤本)』の「オススメ10頭」でも指名していました。はっきりした集計は出ていませんが、09-10シーズンの栗山求はおそらく第2位だと思います。皐月賞を含めて重賞を3勝した馬を持ちながらトップを取れなかったのは、優勝した競馬総合チャンネル編集部がローズキングダム、リルダヴァル、リディル、テイラーバートン、ステラリード、ヴィクトリーマーチといった馬を擁していたからです。

聞くところによると、競馬総合チャンネル編集部は配合を重視した馬選びをしているとのこと。つまり、09-10シーズンは“配合派”のワンツーフィニッシュでした。『netkeiba』の「ワタシのオススメ10頭」では、私と望田潤さんの2人だけがヴィクトワールピサを指名していました。配合派の勝利は気分がいいですね。

2010年4月18日 (日)

Hyperion 生誕80周年

20世紀のイギリスを代表する名種牡馬の1頭 Hyperion は、1930年4月18日に誕生しました。本日はちょうど生誕80周年目にあたります。スタミナ、底力といったクラシック向きの資質を伝え、その血は世界中のサラブレッドに広く行き渡っています。
http://www.pedigreequery.com/hyperion

今年の皐月賞出走馬のなかで Hyperion を持たない馬は1頭もいません。詳しく調べてはいないのですが、年度代表馬クラスで Hyperion を持たない馬は Mineshaft(1999年生)が最後だったと記憶しています。
http://www.pedigreequery.com/mineshaft

ちなみに、Nasrullah は今年の3月2日が生誕70周年だったのですが、ブログに書くのを忘れていました。来年は Northern Dancer、Raise a Native、シンザン、Anilin が生誕50周年を迎えます。

2010年4月17日 (土)

マイラーズCはリーチザクラウン

昨年2月のきさらぎ賞以来の勝ち星です。2000m未満の芝を走ったのはそれ以来のこと。結果的にずいぶん遠回りをしてしまいました。予想は◎△△で3連単46440円的中。『web競馬王』に掲載した予想を転載します。

「◎リーチザクラウンは『スペシャルウィーク×シアトルスルー』という組み合わせ。セクレタリアト、ミスタープロスペクター、シアトルスルーと、アメリカの名血を代々重ねているため、一本調子ながらパワー十分で、力のいる馬場もこなす。直線の長い外回りコースなら小細工不要で伸び伸びと走れるのでレースはしやすい。ここは久々のチャンス。」
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006102923/

折り合いに難のある馬なので速い流れが合ってますね。リラックスして走れる大外枠も良かったと思います。長い距離のレースではどことなく浮いた感じが否めなかったのですが、今回はぴったり嵌っていました。このメンバーに入れば地力も上だったように感じます。2400mをこなす肉体的能力を持った馬ではありますが、精神的なベストディスタンスは1600~1800mあたりでしょう。

2010年4月16日 (金)

大外枠の逃げ馬

皐月賞の枠順が決まり、スプリングSを逃げ切ったアリゼオが大外枠となりました。逃げ馬が大外、というのは通常不利だと思います。ただ、中山芝2000mは最初の直線が長いので不利にはなりません。

以前、大西直宏騎手を取材したとき、おもしろいお話をうかがいました。サニーブライアンで逃げ切った97年の皐月賞は、枠順が発表される前、大外枠が当たることを念じていたというのです。

サニーブライアンはスタートが速くなく、二の脚もそれほどではないため、内枠に入ると外から被されてしまう危険性があります。遅い馬でも確実に先頭に立つには、外枠から出て思い切り手綱をしごいて加速し、内側に切れ込んでいって馬群に蓋をするしかない、と考えていたそうです。大西騎手は念願叶って大外枠を引き当て、組み立てたプランどおりの騎乗をして単勝5180円の大穴をあけました。
http://www.youtube.com/watch?v=yxeTEfaAGeI

アリゼオの横山典弘騎手は、今回の大外枠をとくに不利とは考えていないと思います。おそらくハナに立てるでしょう。いちばん警戒しているのは勝負どころで外からマクられることです。そうなってしまえばレースは終了してしまうので、おそらく早めのタイミングでロングスパートに入るはずです。

好位勢がアリゼオを追いかけてとらえられるかどうか。とらえたとしてゴールまで脚がもつかどうか。坂で脚いろが鈍った場合には後方待機組が大外一気、という展開も考えられます。今年は、長くいい脚をつかえるタイプが良さそうな気がします。

レースを左右する大きなポイントは馬場コンディションです。前が残りやすい馬場なのか、差しが届く馬場なのか、土曜日の競馬を見て判断したいですね。

2010年4月15日 (木)

皐月賞とリーディングサイアー

皐月賞出走予定馬を父別に分類、カウントすると以下のようになります。

マンハッタンカフェ……5頭
ネオユニヴァース………2頭
アグネスタキオン………1頭
アドマイヤドン………… 〃
キングカメハメハ……… 〃
ジャングルポケット…… 〃
シンボリクリスエス…… 〃
スペシャルウィーク…… 〃
ニューイングランド…… 〃
ブライアンズタイム…… 〃
メイショウドトウ……… 〃
Giant's Causeway……… 〃
King's Best …………… 〃

とりあえず牡馬クラシック戦線はマンハッタンカフェの圧勝です(だからといってタイトルを獲れるとは限りませんが)。5頭の内訳は、ゲシュタルト、ヒルノダムール、ハンソデバンド、サンディエゴシチー、ガルボ。

このうちゲシュタルト、ハンソデバンド、サンディエゴシチーの3頭は、『競馬王のPOG本 2009~2010』の「栗山ノート」で、“マンハッタンカフェのA級配合馬”としてピックアップした5頭(131頭から選抜)に含まれます。5月発売予定の『競馬王のPOG本 2010~2011』では再び「栗山ノート」をやる予定です。

マンハッタンカフェは、昨年の皐月賞でも最も多くの産駒をスターティングゲートに送り込みました(3頭)。一昨年のトップはアグネスタキオンでした(3頭)。

サンデーサイレンスが13年間維持してきたリーディングサイアーの座を明け渡した08年以降、数頭の種牡馬が覇権を争う乱世となっていますが、08、09年と連続して、皐月賞に最も多くの産駒を送り込んだ種牡馬がリーディングサイアーとなっています(08年アグネスタキオン、09年マンハッタンカフェ)。その種牡馬の勢いをダイレクトに反映するのが“皐月賞出走頭数”なのでしょう。

現時点のリーディングサイアーはキングカメハメハ。先週の桜花賞をアパパネが制し、独走状態となっています。皐月賞前に収得賞金が10億円を突破しているのですから往年のサンデーサイレンス級です。マンハッタンカフェは第6位。古馬戦線にレッドディザイアが復帰するので、これからどう巻き返していくのか注目したいと思います。

2010年4月14日 (水)

マルゼンスキーと Storm Cat

先週土曜日のひめさゆり賞(3歳500万下・福島芝1800m)を勝ったバイタルスタイルは、またしても「母系に Storm Cat を持つスペシャルウィーク産駒」でした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007101001/

昨春刊行の『負けないPOG入門』(競馬王新書)では、「POG向きのスペシャルウィーク産駒の配合としてまず挙げたいのは、母系にストームキャットを持つもの。」(44頁)と記しました。それぐらい明らかなニックスです。

現3歳世代のスペシャルウィーク産駒をみると、収得賞金900万円以上(2勝、または1勝+重賞2着)の9頭のうち、半数以上の5頭(ラナンキュラス、タガノエリザベート、モズ、ガンマーバースト、バイタルスマイル)がこの配合から誕生しています。「母系に Storm Cat を持つスペシャルウィーク産駒」と、「Storm Cat を持たないスペシャルウィーク産駒」を1走あたりの賞金で比較すると、前者が359万円、後者は139万円。じつに約2.6倍の差があります。どちらの配合パターンを選べば効率よく賞金を稼げるか一目瞭然です

なぜこの配合が走るのかというと、おそらく父に含まれるマルゼンスキーと、母系に入る Storm Cat がよく似た配合構成だからでしょう。スペシャルウィークと Storm Cat のニックスは、要するに「マルゼンスキーと Storm Cat のニックス」と言い換えることができます。

まず、両者の父 Nijinsky と Storm Bird は相似な血です。
http://www.pedigreequery.com/nijinsky2
http://www.pedigreequery.com/storm+bird

      ┌ Northern Dancer
Nijinsky ―┤ ┌ Bull Page
      └○┤        ┌ Gallant Fox
        └○┐ ┌ Omaha ┤
          └○┘    └ Flambino

      ┌ Northern Dancer
Storm Bird ┤   ┌ Bull Page  ┌ Gallant Fox
      │ ┌○┘ ┌ Flares ―┤
      └○┤ ┌○┘     └ Flambino
        └○┘

いずれも Northern Dancer を父に持ち、母の父が Bull Page 系で、母系の奥に Omaha=Flares という全きょうだいの血が入ります。

Nijinsky も Storm Bird も、カナダの大生産者E.P.テイラーが作りました。同じ牧場(ウインドフィールズファーム)で誕生した馬ですから血統が似ているのも当然でしょう。

ちなみに、この2頭に加えて、The Minstrel もほとんど似たような血統構成なので、Nijinsky、Storm Bird、The Minstrel の3頭は、血脈としてトライアングルを形成しています。例えが適当か分かりませんがアンライバルドとボーンキングとリンカーンのような関係です。血統表にこれらが複数ある場合は注意したほうがいいでしょう。
http://www.pedigreequery.com/the+minstrel

次に、マルゼンスキーの母シルと、Storm Cat の母 Terlingua の血統構成も似ています。
http://www.pedigreequery.com/shill
http://www.pedigreequery.com/terlingua

シルの父 Buckpasser と、Terlingua の2代母 Bolero Rose が相似な血(Tom Fool≒First Rose、War Admiral≒Eight Thirty)で、シルの母 Quill と、Terlingua の父 Secretariat がいずれも Princequillo を持っている、という関係です。表を作って逐一解説を始めると膨大な分量になってしまうので、今回は申し訳ありませんが細かな説明は省略させていただきます。興味のある方は以下のURLをご参照ください。
http://www.pedigreequery.com/tom+fool
http://www.pedigreequery.com/first+rose
http://www.pedigreequery.com/war+admiral
http://www.pedigreequery.com/eight+thirty

「マルゼンスキーと Storm Cat」が特別な関係であることを示すのは、スペシャルウィーク産駒だけではありません。

たとえば、Storm Cat 系の名種牡馬ヘネシー(Johannesburg などの父)は、シャトル種牡馬として2001年に1シーズンだけ日本で供用されました。その際、母系にマルゼンスキーを持つ馬はたった1頭しか誕生しませんでしたが、その馬、オースミヘネシーはシリウスS(G3)5着などの成績を残しました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2002102661/

母の父にマルゼンスキーを持つダービー馬ウイニングチケットは、JRAで1頭だけ重賞勝ち馬を送り出しました。その馬、ベルグチケットは母の父が Storm Cat です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1997102163/

ウイニングチケットの末弟サイボーグは、ダート短距離路線でOPまで出世しました。その父は種牡馬成績が芳しくなかったタバスコキャット。いうまでもなく Storm Cat の息子です。サイボーグはタバスコキャットの全産駒のなかで収得賞金第2位です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2002105269/

スペシャルウィークの今年の2歳世代にも、母系に Storm Cat を持つ馬は何頭かいます。ただ、昨年よりは少ない印象です。おもしろそうだと思ったのはピンクガーターの2008。一昨年のセレクトセールで800万円の値がつきました。お買い得だったような気がします。仕上がり早のスピードタイプで、2歳戦でガンガン走りそうな雰囲気があります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008103280/

2010年4月13日 (火)

『競馬王』5月号

先週発売になりました。さすがクラシックシーズンということで力の入りようが違います。今号は、巻頭の亀谷敬正氏との対談を始めいろいろな企画に出させていただきました。「POG羅針盤」では、配合からみたゼンノロブロイ産駒の選び方のコツを明らかにしています。ぜひ1冊お手元にどうぞ。

2010年4月12日 (月)

Zenyatta 16連勝、そして Personal Ensign の死

4月9日にオークローンパークで行われたアップルブラッサム招待H(G1・ダ9f)は、デビュー以来15戦全勝の Zenyatta が断然人気に応えました。強敵が次々と回避してどう考えても負けないだろうというメンバー構成。いつものように最後方追走から楽々とマクリを決めました。これで16戦全勝(G1は10勝目)。
http://www.youtube.com/watch?v=1I9_Tx9t7z0

その前日、80年代を代表する名牝 Personal Ensign がクレイボーンファームで死亡しました。26歳。キャリアの途中、骨折による約1年の休養(ボルトを5本埋め込む手術により治癒)を余儀なくされたものの、それを乗り越えて13戦全勝という大記録を達成した不屈の名牝です。

引退レースとなった88年のブリーダーズCディスタフ(G1)は、逃げ込みを図る Winning Colors(ケンタッキーダービー馬)、2番手で食い下がるグッバイヘイロー(キングヘイローの母)を大外からまとめて交わし、有終の美を飾りました。痺れるような名勝負でした。
http://www.youtube.com/watch?v=oILJ6IYoZso

Personal Ensign は、Personal Flag(G1を2勝し種牡馬としても成功)の全妹にあたる良血で、アルゼンチン牝系の出身という際だった血統的特徴があります。
http://www.pedigreequery.com/personal+ensign

2代母 Dorine はアルゼンチンの大レースを勝ちまくった名牝。「Aristophanes×Advocate」の組み合わせは同国の歴史的名馬 Forli(Nureyev の母の父、Sadler's Wells の2代母の父)と同じで、Riot≒Fair Trial 3×3がキーポイントのニックスです。
http://www.pedigreequery.com/dorine
http://www.pedigreequery.com/forli

        ┌ Phalaris
      ┌○┤ ┌ Chaucer
Riot ―――┤ └○┘
      └ Lady Juror

        ┌ Phalaris
      ┌○┤ ┌ Chaucer
Fair Trial ┤ └○┘
      └ Lady Juror

繁殖成績も傑出しており、My Flag(ブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ-米G1)、Our Emblem(ウォーエンブレムの父)、Miner's Mark(ジョッキークラブGC-米G1)、Traditionally(オークローンH-米G1)などを出しました。

My Flag は繁殖牝馬としてブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ(G1)の勝ち馬 Storm Flag Flying を出しています。直牝系で3代連続ブリーダーズC優勝馬が現れるというのは空前絶後でしょう。
http://www.pedigreequery.com/storm+flag+flying

   Personal Ensign(f.1984.Private Account)
     My Flag(f.1993.Easy Goer)
       Storm Flag Flying(f.2000.Storm Cat)

Zenyatta は、将来、繁殖牝馬として Personal Ensign のような存在になれるでしょうか。おもしろいのは、この2頭は非常によく似た血統組成を抱えていることです。Personal Ensign の母 Grecian Banner と、Zenyatta の2代母 For the Flag は瓜二つです。
http://www.pedigreequery.com/zenyatta

        ┌ Hoist the Flag
Grecian Banner ┤ ┌ Aristophanes
        └○┤ ┌ Advocate
          └○┘

          ┌ Aristophanes
        ┌○┤ ┌ Advocate
For the Flag ―┤ └○┘
        │ ┌ Hoist the Flag
        └○┘

Zenyatta には、Personal Ensign の血を含んだ種牡馬をつけるとおもしろいかもしれません。

2010年4月11日 (日)

ロングスパートの桜花賞

スロー必至でサンデーサイレンスの瞬発力がモノをいうだろう、との見立てで予想をしたのですが、1~3着馬はサンデーと無縁の馬でした。サンデーの血を持つ馬が3着以内に入れなかったのは98年(1着ファレノプシス、2着ロンドンブリッジ、3着エアデジャヴー)以来12年ぶり。勝ったアパパネは△だったので予想は完敗でした。

直前に行われた古馬1000万条件(芝1800m)で1分44秒8が出たようにかなりの高速馬場。桜花賞の前半4ハロン47秒5は、馬場改修以後の桜花賞では最も遅く、ペースは明らかにスロー。ただし、切れ味勝負だったかといえばそうではなく、ラスト4ハロンが11秒4-11秒1-11秒1-12秒2ですからロングスパート型のラップでした。前半があまりにもスローだったためこうなったわけです。内伸びの馬場でもあったので、前につけた粘り強いタイプが好走しやすいレースでしたね。

勝ったアパパネについては、これまで一瞬の脚が武器という認識だったので、今回のレースでマイラーとしての高い総合能力を示したと思います。オークスよりもNHKマイルCに進んでほしいですね。2着オウケンサクラ、3着エーシンリターンズは粘り強さを活かしました。キングカメハメハ産駒が1、3、4着と上位を占めたのは、「前につけた粘り強いタイプが好走しやすい」という流れと無関係ではないと思います。

◎アプリコットフィズは、クイーンCからの直行、初の長距離輸送、それを意識した軽めの調整など、必ずしも万全とはいえない臨戦過程。それでもこのメンバーのなかでは上だと思ったのですが及びませんでした。今回は11秒1-11秒1の地点でなし崩しに脚を使わされた印象で、この馬としてはラストにピリッとした脚を使うような展開のほうが向いていたような気がします。

スムーズさを欠きながら4着に食い込んだショウリュウムーン、外を回されながら6着のシンメイフジは強い競馬をしたと思います。キングカメハメハ産駒でただ1頭掲示板を外したレディアルバローザは、デビュー戦以来7戦連続で馬体重が466キロ。こういう例はちょっと記憶にありません。

2010年4月10日 (土)

東西重賞でアグネスタキオン産駒V

ニュージーランドT(G2)は△サンライズプリンス(1番人気)が予想以上に強い競馬をしました。不利な大外枠で、距離短縮も好材料とはいえず、ここは条件的に厳しいかと思ったのですが、終始外を回っての楽勝。モノが違いました。1分32秒9も古馬準OP級なので優秀です。音無調教師によれば春の大目標はダービーとのこと。NHKマイルCに出ると体調維持が難しくなるので、結局はパスするのでは……と思います。

阪神牝馬S(G2)はアイアムカミノマゴがびっくりするほど楽に突き抜けました。芝1400mはスペシャリストを狙うのがセオリー。昨年のフィリーズレビュー(G2)2着、オーロC(OP)1着と、この距離では実績のある馬でした。しかし、5ヵ月ぶりということで手が出ませんでした。母が Danzig 系×Mr.Prospector という一本気のスピード血統なので、アグネスタキオン産駒ながら芝1400mへの適性が高いのでしょう。同産駒の芝1400mは、2歳戦を除けば連対率16.8%とあまりよくありません。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006102871/

アイアムカミノマゴは、サンデーサイレンスの孫だから「カミノマゴ」なのかなと思っていたのですが、昨年の春、『競馬王のPOG本』の取材で馬主の堀紘一さんにお話をうかがったところ、そうではないことが判明しました。

十数年前、堀紘一さんは、競馬評論家の大川慶次郎さんに誘われてバレッツトレーニングセールへ出かけました。その際、大川さんがアイアムザウィナーを選び、堀さんが購入しました。アイアムザウィナーは大川さんの子供のようなものだから、その仔は「競馬の神様の孫」、つまりカミノマゴとのことです。

2010年4月 9日 (金)

2ちゃんねるでネタにされました^^

「栗山さん、また立ってます」というメールが複数の方から。芸スポ速報+にまたスレッドが作られたとのこと。

【競馬/ブログ】栗山求「2chの芸スポ速報+にスレッドが立ちました」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1270736266/

ブログの読者が多少増えるかも!?と内心喜んでしまい、思わずチリ人様にお礼を述べてしまったのですが、ちょっとヘンでしたか……。これ以上ループになるとアレなので、スレを立てた有名人記者スカウトマン1号様にはお礼は述べません。スイマセン。

隠れた名種牡馬ショウナンカンプ

今年の桜花賞出走馬は、父に微妙に偏りが生じているように思います。キングカメハメハ4頭、ゼンノロブロイ3頭、スペシャルウィーク3頭。これだけで出走馬の過半数を占めます。

異彩を放っているのがショウナンカンプ。3枠5番モトヒメの父です。現役時代は美浦の大久保洋吉厩舎に所属し19戦8勝。高松宮記念(G1)、スワンS(G2)、阪急杯(G3)などを勝ちました。テスコボーイ系の末裔でもあります(テスコボーイ→サクラユタカオー→サクラバクシンオー→ショウナンカンプ)。

種牡馬成績は素晴らしいの一語。JRAでデビューした産駒はわずか20頭ながら、ショウナンカザン(シルクロードS2着)、ショウナンカッサイ(阪神ジュベナイルフィリーズ4着)、そしてこのモトヒメ(フィリーズレビュー6着)が出ています。産駒の連対率23.6%は、リーディングのトップクラスをも凌ぐ優秀な数字。単勝回収率191%、複勝回収率127%は、馬券的にも妙味があることを示しています。

しかし、欠点もあります。「受胎率の低さ」です。初年度に59頭の種付けをして産駒が17頭。この印象がよくなかったようで、徐々に数が減っていき、08年の種付け頭数はわずか6頭でした。ただ、ショウナンカッサイ効果があった09年は一挙に31頭に増加しています。

初年度の受胎率は29%でしたが、2年目以降は65%と大きく持ち直しているので、これから少しずつ種付け頭数は増えていくのではないかと思います。ちなみに、レックススタッドが公示した2010年の種付料は30万円(出産条件)。前年から10万円アップという強気の設定です。ショウナンカンプの高い潜在能力を考えれば、依然として割安ではないかという気がします。

ショウナンカザン、ショウナンカッサイ、モトヒメの配合は、いずれも一度見たら忘れられません。

ショウナンカザンはサクラバクシンオー≒ダイナマイトダディ2×2。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2005101404/

ショウナンカッサイはヤセイコーソ≒メジロフィーシャー3×3。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006101051/

モトヒメは母ケイシュウプライムが Sir Ivor=ロードリージ3×3。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007100092/

主流から外れた地味な構成の内国産種牡馬は、多重クロス、全きょうだいクロス、組み合わせのクロスといった派手な配合で成功するケースが多いように思います。そうした種牡馬は、全体が薄味で影響力に乏しいため、良血部分を思い切って強調(クロス)するような配合でなければ成功がおぼつかないのかもしれません。

2010年4月 8日 (木)

御神本騎手が7ヵ月ぶりに大井で騎乗

4月7日、大井競馬場で行われた東京スプリント(G3・ダ1200m)は、JRAのスーニが外から伸びて優勝しました。

この日の注目は、高知競馬所属の御神本訓史騎手がどんな騎乗をするかでした。かつて益田競馬の若き天才ジョッキーとして名を馳せ、益田廃止後は大井競馬に移籍。昨年9月に調整ルームから無断外出したことが発覚し、以来、南関東では乗れなくなりました。現在は2月から5月までの期間限定で高知競馬に所属しています。

高知のポートジェネラル(8番人気)に騎乗した御神本騎手は、果敢にハナを奪い、残り70mぐらいまで先頭で粘っていたものの、惜しくも4着に敗れました。直線半ばでは逃げ切りかと思う瞬間がありました。健闘といえるでしょう。

直前の10R(フォーチュネイトはなみずき特別)では、高橋三郎厩舎のアポロプログラム(5番人気)で2着。益田から大井に移籍してきた御神本騎手を、さまざまな面でバックアップしてきた高橋三郎調教師は、彼のたび重なる背信行為によってメンツを潰されてしまったわけですが、こんな状況でも騎乗馬を用意し、チャンスを与えようとするのですからその温情に胸が熱くなります。期待に応えて2着に持ってきた御神本騎手の手腕もさすがです。

高知競馬との契約が終わってからについては、“ミスターピンク”内田利雄騎手のように全国を渡り歩く説、元の鞘に収まる説など、いろいろ囁かれています。もちろんどれも噂の域を出ません。まだ28歳と若く、腕もあるので、やる気になればどこからでも這い上がっていけるでしょう。

2010年4月 7日 (水)

2ちゃんねるの芸スポ速報+にスレッドが立ちました

「栗山さんのブログネタで2ちゃんねるの芸スポ速報+にスレが立っていますよ」と知人から報せがあったので、何事かと思って調べてみると、昨日のエントリー(「ノーザンテースト系最後の種牡馬」)をそのまま転載する形でスレッドが作られていました。
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1270554542/

一般受けしないネタを日々書いているという自覚があっただけにビックリです。スレを立ててくださったチリ人様ありがとうございました。

マカニビスティー、大井移籍初戦を大楽勝

当ブログでたびたび採り上げているマカニビスティー(牡3歳・父ゼンノロブロイ)。先月大井競馬に電撃移籍したあと、初めてのレースとなった4月5日のチューリップ特別(ダ1600m)で、単勝1.3倍の断然人気に応えて8馬身差の楽勝劇を演じました。ゴール前は手綱を抑える余裕があり、まだ七分程度の力しか出していない印象。もちろん、相手が楽だったということがあるわけですが、おそらくこれで三冠の第一弾・羽田盃(4月21日・ダ1800m)は1番人気でしょう。9年ぶりの南関東三冠へ向けて視界良好です。
http://www2.keiba.go.jp/KeibaWeb/TodayRaceInfo/RaceMarkTable?k_raceDate=2010%2f04%2f05&k_raceNo=10&k_babaCode=20

2010年4月 6日 (火)

ノーザンテースト系最後の種牡馬

JRAホームページにある最新の競走馬登録リストを眺めていると、「ハンベエクン」という名の2歳馬に目が留まりました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2008104167/

父ダイナマイトメール、というのは聞いたことがありません。JRAで走った形跡はなく、NARのサイトで調べてみるとダイナレターの子で、現役時代は浦和競馬で5戦4勝。すべて下級条件でのものなのでまったく無名です。

ノーザンテースト系は、アンバーシャダイ→メジロライアン→メジロブライトという主流ラインがすでに子を出していないので、近いうちに絶滅することは確定的です。種牡馬登録があってもアテ馬専用という馬もいて、結局、産駒を出しているのはダイナマイトメールだけ。つまり、同馬は実質的にノーザンテースト系最後の種牡馬ということになります。ダイナマイトメールには1歳馬の産駒が1頭います。これが現在確認できうる最後のノーザンテースト系競走馬です(まだなっていませんが)。

生産者の小野瀬晃司さんは、十勝総合振興局(旧・十勝支庁)の清水町で馬産を行っており、そうした地理的な制約があるせいか、繁殖牝馬につける種牡馬も独特です。ダイナマイトメールは小野瀬さんが生産・所有した馬なので、おそらくご自身の牧場に繋養しているのでしょう。かつてはダイゼンキング(父トウショウボーイ)やトドロキヒホウ(父ヴェンチア)を、最近ではマイネルプラチナム(父シルヴァーエンディング)を重用しています。

小野瀬さんが生産した馬でいまだに忘れられないのが「リトルジャスミンの1994」です。なんとトドロキヒホウ1×2!
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1994108801/

               ┌ トドロキヒホウ
リトルジャスミンの1994 ―┤ ┌ トドロキヒホウ
               └○┘

この配合の真意を知るために、15年ほど前に牧場にお電話をしたことがあります。小野瀬さんから返ってきた答えは「間違えてつけてしまいまして……」というものでした。

2010年4月 5日 (月)

プリモディーネの子が未勝利戦で勝利

先週、当ブログで故伊達秀和さんの愛馬だったプリモディーネについて採り上げました。すると、奇遇なことに、その息子ローカパーラが日曜日に未勝利戦(中山ダ1200m)を勝ち上がりました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007110058/

父は Seattle Slew 系の Vindication。母プリモディーネは、母系の奥にあるヨーロッパ血統の凝縮から芝適性を受け継ぎつつ、直接的には「アフリート×マルゼンスキー」というアメリカ血統の影響を受けているので、アメリカ血統の強い種牡馬をかけるとダート馬が出ます。ローカパーラはその典型です。

そういえば、4月3日のエントリー(「ナムラタイタン5連勝」)でもアフリートについて採り上げました。べつに意図したわけではないのですが、最近はなぜかアフリートの話題ばかりです。

プリモディーネ(父アフリート)は母系に Nijinsky と Buckpasser を持っているので、4月3日に記した「アフリート、Danzig、Buckpasser」のトライアングルにちょっと似ています。Nijinsky と Danzig の父はいずれも Northern Dancer です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1996101283/

2010年4月 4日 (日)

大阪杯とダービー卿チャレンジT

大阪杯の勝ち馬テイエムアンコール、ダービー卿チャレンジTの勝ち馬ショウワモダンはいずれも中山記念組(2、3着)でした。そのレースで1着だったトーセンクラウンは先週の日経賞で3着と頑張っています。

不良馬場の中山記念は、どう見ても良馬場の能力判定基準にはなりえないレース。だからこそ大波乱となったわけですが(13→12→5番人気で3連単は50万馬券)、上位勢がそのあと良馬場でしっかり結果を出しているのはおもしろいですね。

大阪杯の△テイエムアンコール(6番人気)は、人気薄だった前走の中山記念で◎を打った馬。しかし、良馬場のこのメンバー相手では重い印を打てませんでした。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2004101228/

父オペラハウスの優秀さにはあらためて感心します。ヨーロッパで種牡馬生活を送っていれば大成功したでしょうし、日本においても仮に社台グループの良血牝馬と交配できる環境にあったなら、トニービン級とまではいかずとも、それに近い成績は残せたような気がします。3着の◎ドリームジャーニー(1番人気)はベスト条件のここで敗れたのでは先が思いやられます。斤量面の問題だけでなく年齢的な衰えもあるのでは?

ダービー卿チャレンジTは△◎で馬連2860円、△◎△で3連複6160円的中。レースの上がりが34秒0では後ろの馬に出番はありません。勝った△ショウワモダン(7番人気)の父エアジハードは、サクラバクシンオーと同じくサクラユタカオーの後継種牡馬。アグネスラズベリ(函館スプリントS)、ナナヨーヒマワリ(マーチS)に次ぐ3頭目の重賞勝ち馬です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2004103318/

◎マイネルファルケ(4番人気)は2年連続の2着。『web競馬王』の予想文を転載します。

「◎マイネルファルケは『ムタファーウエク×パークリージェント』という組み合わせ。中山芝1600mでは過去5戦して〔2・3・0・0〕と連対パーフェクト。小回り&急坂コースに強いロベルト系らしい成績を残している。今週からBコースとなり前へ行った馬が有利。この条件の昨年も2着に粘っている。54キロだった昨年に比べて今年は57キロだが、そのぶん力もつけている。前走比1キロ減と枠順の差を考慮すればフィフスペトルを逆転できる。」

鞍上の石橋脩騎手は今年に入って重賞で〔2・2・0・7〕という成績。連対率は36%です。1~3番人気に一度も騎乗せずにこの結果は素晴らしいの一語です。

月曜18時30分から『馬券師倶楽部2』再放送

『馬券師倶楽部2』の「栗山求(後編)」です。CS放送の“MONDO21”で観ることができます。よろしかったらどうぞ。

2010年4月 3日 (土)

ナムラタイタン5連勝

コーラルS(OP・阪神ダ1400m)はナムラタイタンが勝ち、これで戦績を5戦全勝としました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006101408/

父サウスヴィグラスはラブミーチャンの父でもあり、このところ名前を目にする機会が増えたように感じます。母ネクストタイムは不出走馬ながら、ゴールデンジャック(サンスポ賞4歳牝馬特別など重賞2勝)、スターリングローズ(JBCスプリントなど重賞6勝)の姉妹と4分の3同血の関係にある良血です。

            ┌ アフリート
ネクストタイム ――――┤
(ナムラタイタンの母)  └○┐
              └ コマース

            ┌ アフリート
ゴールデンジャック ――┤
(=スターリングローズ) └ コマース

『競馬王のPOG本 2009~2010』の「栗山ノート」で、マンハッタンカフェ産駒の注目馬5頭のなかにハンソデバンド(共同通信杯)を入れたのは、その母クラウンアスリートがゴールデンジャック&スターリングローズの姉妹とよく似た配合構成だったことも理由のひとつです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2000105411/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1991105227/

            ┌ アフリート
            │   ┌ Danzig
クラウンアスリート ――┤ ┌○┘
(ハンソデバンドの母)  └○┤ ┌ Buckpasser
              └○┘

            ┌ アフリート
ゴールデンジャック ――┤ ┌ Danzig
(=スターリングローズ) └○┤ ┌ Buckpasser
              └○┘

すでにゴールデンジャックはサイドワインダーを出しており、競走馬のみならず繁殖牝馬としても能力を証明していました。

ナムラタイタンの母、ゴールデンジャック(=サイドワインダーの母)、スターリングローズ、ハンソデバンドの母。――これらはいずれも「アフリート、Danzig、Buckpasser」のトライアングルによって誕生しています。この関係は頭の隅に留めておいたほうがいいかもしれません。

2010年4月 2日 (金)

ファンタストの夢とプリモディーネ

ファンタストといえば現在はファンタストクラブのことを指しますが、その名称の元となったのは1978年の皐月賞馬ファンタスト(「夢みる人」の意)です。皐月賞制覇から3ヵ月後、滞在中の函館競馬場で腸捻転を発症し、短い生涯を閉じました。

父イエローゴッド、母ファラディバはオークス2着馬、2代母ソーダストリーム。典型的な“伊達血統”でした。Pharos=Fairway 5・5×3・5、Fair Trial 4×4、Hurry On 5×5、Buchan 5×5という鮮やかな父母相似配合で、笠雄二郎の『日本サラブレッド配合史』にも採り上げられているほどです。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a010208/

とくにソーダストリームと、イエローゴッドの母 Sally Deans は、いずれも3代以内に Fair Trial、Hurry On、Buchan を持ちます。偶然とは考えづらい共通点です。
http://www.pedigreequery.com/soda+stream
http://www.pedigreequery.com/sally+deans

              ┌ Hurry On
            ┌○┘
          ┌○┤ ┌ Buchan
ソーダストリーム ―┤ └○┘
          │ ┌ Fair Trial
          └○┘ 

            ┌ Fair Trial
          ┌○┘ ┌ Hurry On
Sally Deans ――――┤ ┌○┘
          └○┤ ┌ Buchan
            └○┘

伊達さんがお亡くなりになったいまとなっては想像でしかないのですが、イエローゴッドに目を付けて輸入した真の目的は、ソーダストリーム系と交配するためだったのではないか、という気がします。もしそうであれば、計画どおりに作ったファンタストが自身に初のクラシックタイトルをもたらした喜びはひとしおだったでしょう。「一番欲しかったのが、この皐月賞だったのです」と伊達さんは語っています。俗に「最も速い馬が勝つ」といわれる皐月賞は、スピードを第一義として生産を行ってきた伊達さんへの最大の勲章だったのではないでしょうか。

栄光からわずか3ヵ月後に訪れたファンタストの死は、現役クラシック馬の急逝というだけでなく、その血統的な価値からみても惜しまれるものでした。叔父のアローエクスプレスが初年度からテイタニヤ(桜花賞、オークス)を送り出し、種牡馬として大成功していたからです。

ファンタストの死とともに、この馬に関わる多くの人々の夢も墓石の下に葬られました。しかし、21年後、同じソーダストリーム系から出た1頭の牝馬が、ごくささやかながらその夢の一部を果たすことになります。

1999年の桜花賞馬プリモディーネです。

2代母イザベラは、「父イエローゴッド、2代母ソーダストリーム」という配合。ファンタストとほとんど同じ構造です。

        ┌ イエローゴッド
ファンタスト ―┤
        └○┐
          └ ソーダストリーム

        ┌ イエローゴッド
イザベラ ―――┤
        └○┐
          └ ソーダストリーム

イザベラにマルゼンスキーをかけて母モンパリが生まれ、それにアフリートをかけてプリモディーネが生まれました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1996101283/

もう少し図式化していえば、父母相似配合の傑作といえるイザベラ(≒ファンタスト)に、Northern Dancer 系→Mr.Prospector 系という順に主流血統を入れ、見事に現代競馬に対応してみせたのです。母モンパリは Nijinsky と Red God のニックスを持ち、プリモディーネ自身はアフリートと Nijinsky のニックスを持っていました。たんにイザベラ(≒ファンタスト)の血を引くだけでなく、配合全体もきわめて優秀なものだったのです。サンデー全盛期にありながらそれと無縁の血で世代の頂点に立ったのですから賞賛に値します。そして、これを作った伊達さんの手腕には感嘆するしかありません。

現在、プリモディーネはアメリカで繁殖生活を送っており、産駒は日本に輸入されて走っています。残念ながら成績は芳しくありません。日本で走らせるならサンデー系以上の種牡馬は世界のどこを探してもいないのでは、と思います。もし私が種牡馬を選ぶならマンハッタンカフェにするでしょう。
http://www.jbis.or.jp/topics/simulation/result/?sire=0000324971&broodmare=0000303071&x=63&y=21

2010年4月 1日 (木)

伊達秀和氏死去

血統派のオーナーとしても知られた伊達秀和氏が亡くなりました。81歳。昭和20年代に馬主となり、以来50年以上の長きにわたって第一線で活躍されました。主な所有馬は、アローエクスプレス、ファンタスト、ブロケード、パーシャンボーイ、プリモディーネなど。

中長距離が競馬の主役だった時代から「私はマイラー指向です」と公言し、スパニッシュイクスプレス、イエローゴッド、テュデナムといったスピード豊かな種牡馬や、名牝系の祖となったソーダストリームを輸入しました。

『競馬四季報』(77年秋号)に「アローエクスプレスとそのファミリー」という特集があるのですが、そのなかで伊達さんはご自身の血統観を語っています。いくつか抜粋してみます。

「私はよくいうんだけど、競走馬の場合、スタミナとスピードのうち、どちらを重視するかといったら、それは絶対スピードだと。スピードこそが競馬の基本だという考えを持ってますからね。」

「ファミリーというのは自らつくり出すものでね。どんな名血だってこつ然としてできるんではなくて、つくられるものである。最初から名血というのはないんだと。」

「種馬の選択っていうのも難しくてね、外国で走ったからといって日本で走るとは限らんし。やはりその国に合ったものを探さなきゃいかん訳ですよ。いい例がネヴァーセイダイでしょ。欧米じゃ、あの程度の種馬ならたいしたことないですが、だけど日本は別。ネヴァーセイダイの子というだけで走る。なにしろ、コントライト級の種馬から、テンポイントが出るんだから。みんな同じ系統の馬をワッと入れる割には、この系統的な相性というのに、意外に無関心なんだな。だから私は、外国の成績が良くても、日本に向かない系統は避けますね。」

伊達さんが輸入した馬の配合を見てまず感じるのは、その質の高さと品の良さです。そして、アガ・カーン血脈への傾倒の跡がうかがえます。ソーダストリームはアガ・カーンの牝系から出た馬ですし、その母 Pangani は Lady Josephine 3×5です。スパニッシュイクスプレスやイエローゴッドを購入したのは Nasrullah への信頼でしょう。馬選びの視線に、スピードを重んじる哲学が感じられます。
http://www.pedigreequery.com/pangani
http://www.pedigreequery.com/spanish+express
http://www.pedigreequery.com/yellow+god

スパニッシュイクスプレスとソーダストリームの間に誕生したアローエクスプレスは、伊達さんの血統理論の結晶といえるもので、現役時代に朝日杯3歳Sなど4つの重賞を制したほか、1980、81年にリーディングサイアー(中央+地方)となりました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000afe/

もし伊達さんが馬と関わっていなかったら、日本の競馬は現在と違ったものになっていたでしょう。ご冥福をお祈りします。

競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!