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くりやま もとむ Profile
大学在学中に競馬通信社入社。退社後、フリーライターとなり『競馬王』他で連載を抱える。緻密な血統分析に定評があり、とくに2・3歳戦ではその分析をもとにした予想で、無類の強さを発揮している。現在、週末予想と回顧コラムを「web競馬王」で公開中。渡邊隆オーナーの血統哲学を愛し、オーナーが所有したエルコンドルパサーの熱狂的ファンでもある。
栗山求 Official Website
http://www.miesque.com/

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2010年4月

2010年4月30日 (金)

ドイツ血統と Sadler's Wells

土曜日の青葉賞(G2)には、ドイツ血統を持つ2頭の外国産馬が出走します。ミッションモードとリリエンタールです。並べてみるとその共通性は一目瞭然、2代目に Sadler's Wells と Monsun があります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007110047/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007110046/

            ┌ Sadler's Wells
          ┌○┘
ミッションモード ―┤ ┌ Monsun
          └○┘

            ┌ Sadler's Wells
          ┌○┘
リリエンタール ――┤ ┌ Monsun
          └○┘

Sadler's Wells は、ここ20年ほどヨーロッパのクラシックディスタンスに君臨する大種牡馬。Monsun は、昨今の“ジャーマン・インヴェイジョン”とでもいうべき現象の中心的存在です。

4月22日のエントリーで次のように述べました。

「主要競馬国の血統は、昔の時代に比べてクロスオーバー化が進み、国ごとの個性といったものが消失しつつあります。そうした時代にあって、ドイツ型馬産によって育まれた血統が、貴重な異系――つまりは活力源――として引っ張りだこになるのは自然な成り行きです。サドラーズウェルズと結びつけばその味を引き立て、サンデーサイレンスと結びつけばその味を引き立てます。そうした万能調味料のような役割を果たしてるからこそ、ドイツ血統は世界的な成功を収めているのではないかと思います。」

Sadler's Wells とドイツ血統の相性は抜群です。

ドイツ血統の母から誕生した女傑 Urban Sea(凱旋門賞)は、Sadler's Wells との交配で Galileo(英ダービー、愛ダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)を産みました。
http://www.pedigreequery.com/galileo4

Monsun は、Sacarina という牝馬との間に、Samum(独ダービー、バーデン大賞)、Salve Regina(独オークス)、Schiaparelli(独ダービー、オイロパ賞ほか)という3きょうだいを誕生させていますが、Sacarina の父はオールドヴィック、すなわち Sadler's Wells の息子です。
http://www.pedigreequery.com/samum

独ダービー馬は、06年(Schiaparelli)、07年(Adlerflug)、08年(Kamsin)と3年連続で Sadler's Wells とドイツ血統の融合から誕生しています。
http://www.pedigreequery.com/schiaparelli4
http://www.pedigreequery.com/adlerflug2
http://www.pedigreequery.com/kamsin2

このほか、Hurricane Run(凱旋門賞、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、愛ダービー)、Fame and Glory(愛ダービー、クリテリウムドサンクルー)、Night Magic(独オークス)、Creachadoir(ロッキンジS)、Lateral(グランクリテリウム)といったG1ホースがこのパターンに当てはまります。
http://www.pedigreequery.com/hurricane+run
http://www.pedigreequery.com/fame+and+glory
http://www.pedigreequery.com/night+magic3
http://www.pedigreequery.com/creachadoir
http://www.pedigreequery.com/lateral2

日本のレッドディザイア(秋華賞、アルマクトゥームチャレンジラウンド3)とジョーカプチーノ(NHKマイルC、ファルコンS)も忘れることはできません。いずれもドイツ血統を含むマンハッタンカフェを父に持ち、母方に Sadler's Wells が入ります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006102929/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2006100529/

Sadler's Wells もドイツ血統も、基本的にヨーロッパの深い芝を得意とするだけに、これをそのまま日本に持ってきても、出番は道悪だったり、良馬場では鋭さ負けしたりといった特徴が表れてしまうでしょう。

レッドディザイアとジョーカプチーノには、瞬発力に秀でたサンデーサイレンスと、堅い芝に強い Caerleon が入ります。こうしたプラスαがあれば日本でも十分に戦うことができます。ミッションモードとリリエンタールに関していえば、上記のようなジャパナイズがやや足りないかな……という気がします。

2010年4月29日 (木)

ケンタッキーダービー大本命馬 Eskendereya が出走回避

これはガッカリです。左前肢に異状が生じたとのこと。ヴィクトワールピサがダービーを回避するようなものですね。

ファウンテンオブユースS(G2・ダ9f)を8・1/2馬身差、ウッドメモリアルS(G1・ダ9f)を9・3/4馬身差で圧勝していたので、もし出走していれば一本かぶりの人気を背負うはずでした。ウッドメモリアルSの勝ち馬といえば、昨年の I Want Revenge も直前の出走取消で本番に出られなかったことを思い出します。

本命視されながら故障によりケンタッキーダービーに出られなかった馬は、どういうわけか種牡馬として成功する確率が高いように思います。たとえば Turn-to。その息子の Hail to Reason と Sir Gaylord などもそうです。このほか Graustark や Hoist the Flag や A.P.Indy なども。このうち A.P.Indy は競走に復帰して米年度代表馬となりました。将来、Eskendereya が成功種牡馬となる確率は高い?
http://www.pedigreequery.com/eskendereya

2010年4月28日 (水)

バブルガムフェロー死亡

史上初めて3歳時に天皇賞・秋(G1)を制したバブルガムフェロー(父サンデーサイレンス)が26日に死亡しました。17歳。肺炎が回復しなかったとのことです。

サンデーサイレンスは、Northern Dancer と同じように、高い競走能力を持った産駒が種牡馬としても成功する、というケースが比較的多いように思うのですが、バブルガムフェローの種牡馬成績はイマイチでした。スピード、瞬発力といった資質を伝えることができませんでした。半兄にあたる Candy Stripes(父 Blushing Groom)は、米年度代表馬 Invasor や米芝牡馬チャンピオン Leroidesanimaux を送り出すなど種牡馬として成功しました。それだけにバブルガムフェローの不振は謎です。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1993109219/

ただ、シャトル種牡馬として渡ったオーストラリアでは3頭の重賞勝ち馬を送り出しています。なかでも Rockabubble はNZブラッドストックブリーダーズS(G1・芝1600m)を制しました。オセアニア血統とフィットする馬だったのかもしれません。
http://www.pedigreequery.com/rockabubble

2010年4月27日 (火)

サクラハゴロモとガルダンサー

昨日のエントリーで採り上げたサクラバクシンオーは、かつてPOGで所有していた馬でした。どうして獲ったかというと、その母サクラハゴロモをPOGで所有していたからです。

サクラハゴロモがデビューしたのは1986年6月7日(土)。第1回札幌初日の新馬戦(ダ1000m)でした。圧倒的な1番人気に推されたものの結果は2着。わざわざ学校をサボッて後楽園場外まで応援に駆けつけた筆者(当時高校3年)は肩を落として帰途につきました。

翌日曜日、もう1頭のPOG所有馬ガルダンサーが新馬戦(ダ1200m)に出走したのですが、残念ながらこちらも断然人気で2着。うまくいかないものだなぁ……と嘆息した記憶があります。

結局、サクラハゴロモは約1年半の競走生活で16戦して2勝を挙げるにとどまりました。が、繁殖牝馬としてはアンバーシャダイの全妹という良血を活かし、サクラバクシンオーを送り出して成功しました。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1984104366/

初戦で惜敗したガルダンサーは、折り返しの新馬戦(ダ1200m)を大差勝ちし、勢いに乗って札幌3歳S(G3・ダ1200m)を制覇しました。当時、札幌競馬場には芝コースがなかったためレースはダート戦でした。このときの2着馬はゴールドシチー(阪神3歳S、皐月賞2着、菊花賞2着)です。

ガルダンサーは、母オディオラがめったに見られないような配合をしており、この点からも気に入っていた馬でした。2代母ヒヤママンナはヤシママンナ≒ゴールドウェッディング1×3、母オディオラはフクニシキ≒ヤシマアポロ3×3。母の父リュウズキは皐月賞と有馬記念の勝ち馬です。古き良き昭和の香りが漂う血統ですね。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1984104303/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/1978101970/

その後、ウインターS(G3・ダ2200m)2着、札幌記念(G3・ダ2000m)3着などの成績を挙げてガルダンサーは地方競馬へ転出し、流浪の競走生活に入りました。

北関東では、当地の有馬記念に相当するとちぎ大賞典(ダ2600m)を制覇。年の瀬の忙しい時期でしたが宇都宮競馬場まで応援に行ったことを覚えています。その8日後に昭和が終わったので、ライブで見た昭和最後の競馬がこのとちぎ大賞典でした。優勝レイを掛けられて拍手を浴びるガルダンサーは、その数日前に有馬記念を制したオグリキャップに劣らぬ堂々たる威風を放っていました。その背中で手を挙げた福田三郎騎手は、2000勝以上を挙げた北関東きっての名ジョッキーでしたが、数年後、調教中の落馬事故によって半身不随となっています。

北関東のあとは上山、さらに九州の中津へと流れ、ここで9歳まで走って競走生活を終えました。通算70戦14勝。その後の消息は不明です。ガルダンサーの競走生活の晩年には、すでにサクラハゴロモの子サクラバクシンオーが気鋭のスプリンターとして頭角を現していました。競馬好きの高校生だった筆者は競馬業界に身を置いていました。

スピードは次代に血を繋げる一方、丈夫さが取り柄の古い在来血統は走るだけ走って地方競馬の片隅で朽ち果てていく。サクラハゴロモ親子とガルダンサーを同時にウオッチしていると、少しだけ切ない気分になったものです。

2010年4月26日 (月)

橘Sはエーシンダックマン

日曜日に京都競馬場で行われた橘S(3歳OP・芝1400m)は、9番人気のエーシンダックマンが逃げ切りました。予想はヌケだったので完敗です。

父がサクラバクシンオーで、2代母がヴィデオピアノということは、エイシンツルギザン(ニュージーランドT、NHKマイルC2着)と4分の3同血の関係にあります。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2007101286/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/2000100002/

           ┌サクラバクシンオー
エーシンダックマン ―┤
           └○┐
             └ヴィデオピアノ

           ┌サクラバクシンオー
エイシンツルギザン ―┤
           └ヴィデオピアノ

ヴィデオピアノには Nijinsky が含まれています。サクラバクシンオーは Nijinsky と相性がよく、これまでにショウナンカンプ、シーイズトウショウ、メジロマイヤー、ブルーショットガン、サンダルフォン、エイシンツルギザン、デンシャミチといった重賞勝ち馬がこのパターンから誕生しています。Nijinsky を持つ場合と持たない場合の同産駒を、連対率から比較してみると以下のようになります。

■Nijinsky を持つバクシンオー産駒
全連対率 19.7%
芝連対率 20.2%
ダ連対率 19.1%

■Nijinsky を持たないバクシンオー産駒
全連対率 17.6%
芝連対率 18.6%
ダ連対率 16.4%

母系に Nijinsky が入ると芝・ダートともに成績が上昇します。サクラバクシンオーは Nijinsky のほかに、Hyperion の強い影響下にあるチャイナロックのような血とも好相性を示しています。バクシンオーが軽いスピード血統なので、重しとなるような図太い血がフィットするのでしょう。エイシンツルギザンに比べ、エーシンダックマンは Nijinsky が1代遠ざかってしまい、影響力が薄くなってしまうのですが、そのぶん、母の父に Nureyev 系のスピニングワールドが入ります。Nureyev は Hyperion 4×4です。

ムキになりがちな性格だけに、1400mへの距離延長が心配でしたが、うまく走ることができました。前が止まらない開幕週の馬場の恩恵もあったかもしれません。次走の注目馬は大きな不利がありながら5着に突っ込んできたケイアイルーラーでしょうか。まともなら勝ち負けに加わっていたと思います。

2010年4月25日 (日)

フローラSはサンテミリオン

最後の直線でアグネスワルツを交わすのに手こずったのは、序盤に外枠から脚を使って好位を取りにいったことが微妙に影響したのかもしれません。このメンバー相手に連を外す可能性は低いだろうと思っていましたが、予想どおりの完勝でした。1月25日のエントリーでサンテミリオンの血統について解説しておりますのでご参照ください。
http://blog.keibaoh.com/kuriyama/2010/01/post-91a2.html

逃げ粘ったアグネスワルツも強い馬です。レコード勝ちした2戦目の未勝利戦、ワイルドラズベリーを寄せ付けなかった3戦目の白菊賞を見るかぎり、世代トップクラスの潜在能力の持ち主であることは疑いようがありません。問題は休み明けと距離だったわけですが、パドックの気配は良好で、配合的に2000mまではこなすだろうという見立てでした。

予想は◎▲△で3連単6830円的中。

1、2着馬の父はいずれもゼンノロブロイです。同馬はアメリカ血統過多といったところがあるので、同じようにアメリカ血統で固めた牝馬と交配すると、ダート向きになったり大物感を欠いていたりで、あまりいい産駒が出てきていないように見えます。逆にヨーロッパ血統の強い牝馬と交配すると、足りないものを補完するためか、芝中距離で大物感を見せる産駒が見られます。ゼンノロブロイ産駒のトップクラスはだいたいこのパターンです。

基本的に“ヨーロッパ血統の強い繁殖牝馬がいい”といっても、現実的に100%ヨーロッパ血統、というのはなかなかいるものではないので、アメリカ血統も当然入ってきます。その場合、Buckpasser や Never Bend や Better Self といった La Troienne 血脈は悪くない印象です。サンテミリオンとアグネスワルツの母の父はそれぞれラストタイクーン、ヘクタープロテクターですが、この2頭は3代以内に Buckpasser と Never Bend を持っています。こういう血がワンポイントでも入ると好印象です。
http://www.pedigreequery.com/last+tycoon
http://www.pedigreequery.com/hector+protector

『競馬王のPOG本 2010~2011』(5月発売予定)の「栗山ノート」では、ゼンノロブロイ産駒の好配合馬を5頭選びました。ヨーロッパ血統の重要性についてはこれまで散々述べてきたとおりですが、今年はこのほか、La Troienne 血脈にも目配りをしながら馬を選んでみました。走ってほしいものです。

2010年4月24日 (土)

福島牝馬Sはレジネッタ

スランプの期間が長かったので桜花賞の勝ち馬であることを忘れかけていました。過去20年間の桜花賞馬を、次の勝利までのインターバルが長かった順に並べると以下のようになります。

1位 キストゥヘヴン(2年5ヵ月)
2位 ダンスインザムード(2年1ヵ月)
3位 レジネッタ(2年0ヵ月)

キストゥヘヴンやダンスインザムードに比べてスランプの度合いが酷かっただけに、よく復活したなぁというのが感想です。

今回は中山牝馬Sに出走した馬が11頭も出ていました。同レースの2~6着はクビ、クビ、ハナ、クビ、ハナという僅差。そのなかで唯一前走よりも斤量が軽くなっていたのがレジネッタでした。このあたりをもう少し重視すべきでしたか……。1着レジネッタ、2着ブラボーデイジーとも、父がフレンチデピュティ系で、母の父はサンデーサイレンス。終わってみれば似たような血統のワンツーフィニッシュでした。

         ┌フレンチデピュティ
レジネッタ ―――┤ ┌サンデーサイレンス
         └○┘

           ┌フレンチデピュティ
         ┌○┘
ブラボーデイジー ┤ ┌サンデーサイレンス
         └○┘

予想は△△で外れ。◎を打ったレジネッタは10着。土曜日の福島芝コースは外枠馬の好走が目立ったような気がします。あるいは1番枠がアダとなったのかもしれません。日曜日は外枠馬に注意すべきかも?

日曜22時30分から『馬券師倶楽部2』再放送

『馬券師倶楽部2』の「栗山求(前編)」です。CS放送の“MONDO21”で観ることができます。よろしかったらどうぞ。

2010年4月23日 (金)

山野浩一「血統理念のルネッサンス」

昨日のエントリーで紹介した「ドイツ・ダービーの父系」は、1993年に『週刊競馬通信』に連載したものです。なぜ書こうと思い立ったかというと、山野浩一氏が80年代半ばに『優駿』に連載した「血統理念のルネッサンス――レットゲン牧場における系統繁殖の研究」に触発されたからです。同作には、深い知識と洞察にささえられた思考が、氏独特の直線的な文体のなかで展開されており、読了後に不思議な感慨を覚えます。

80年代に発表された血統関連の連載のなかで、私が傑作だと思うものは以下の3つです。

●笠雄二郎「血統あれやこれや」(『週刊競馬通信』)
●門井佐登宣「競馬三国志」(『週刊競馬ブック』)
●山野浩一「血統理念のルネッサンス」(『優駿』)

いずれも雑誌に掲載されたまま再録されていません。嘆かわしいかぎりです。雑誌の連載、という形にとらわれなければフェデリコ天塩氏の『馬事研究』(第1号、第2号)も当然含めなければならないでしょう。

山野氏はドイツ型馬産を最上のものとして礼賛しているわけではありません。「私にもアメリカ型馬産よりも、ドイツ型馬産が優れているとは言い切れない。特に競馬というものの発展はコマーシャリズムなくしてあり得ないと思う。私のドイツ式系統繁殖の提唱はあくまでも生産のバランス上のものだ。」と述べています。

もちろん、ドイツ型馬産について述べているわけですから、そこに高い価値を認めていることはいうまでもありません。ドイツとアメリカの馬産を比較する際、山野氏は音楽や映画を例に採ります。かなり長いのですが引用します。

「よくドイツはGNPや輸出競争で日本と争う国だし、それでいて日本のように財産の備蓄も食料の自給力もない国ではなく、いわば日本型とヨーロッパ型の両面で富める国といえるのに、どうしてアメリカのように競馬が繁栄しないのかという人がいるが、同じようにドイツの音楽の才能を動員すればいくらでもミリオンセラーぐらいできるということがいえる。現実にドイツ音楽の底辺から育ったビートルズやアバのような超大物タレントはアメリカからは出ることはなく、いわば技能としては大きな差があることは事実であろう。だが、こういう問題は単に技能や経済の問題ではなく、要するに音楽や競馬に何を求めるかという人間のアイデンティティの問題なのである。いかにグスタフ・マーラーが美しい旋律を作るからといって、マウント・バーニーのようにやれといっても無理な話で、多くのドイツ人は自分の音楽を作って金を儲けようとは思っても、金が儲かるように音楽を作るということは出来ない。アメリカへ渡ったバルトークは食うや食わずの生活をしながら、プロデューサーの差し出す巨額の金を突き返すわけである。まして食うに困らない人なら誰がそんなことをするだろう。アメリカのような商業的繁栄にはアメリカンドリームという虚構が必要なのであり、経済面と精神面の貧しさがなければならない。フリッツ・ラングにスピルバーグのような映画は作れないし、シュトックハウゼンにYMOのような曲が作れるわけではない。だがハリウッドの監督たちはラングの映画技法を学ぶか、ラングから学んだ人から学ぶかしているだろうし、YMOはシュトックハウゼンなくして存在しえない。たとえドイツのものが至上のものであっても、繁栄するかどうかとなるとまた別問題なのである。ただいえることは、もし我々が学ぶということをするとするならば、やはりスピルバーグよりもラングを学んだ方が良いし、YMOよりもシュトックハウゼンを学んだ方が良く、馬産に関してもアメリカよりはドイツに学んだ方が良いだろう。」

この意見が合っているか間違っているかといったことは瑣事にすぎません。この鮮やかな独断こそが山野節であり、最大の読ませどころです。それを記すことが評論家のなすべき仕事なのだろう、と思います。

2010年4月22日 (木)

勢力を拡大するドイツ血統

皐月賞2着のヒルノダムール、3着のエイシンフラッシュにはドイツ血統が含まれています。ヨーロッパにおけるドイツ血統は、ブームを超えてすでに定着した感がありますが、日本ではマンハッタンカフェとビワハイジが両輪となってこれから勢力を増していきそうです。3歳世代にはほかに、リリエンタール(水仙賞)やミッションモード(葉牡丹賞)といったドイツ血統の影響を受けた外国産馬が活躍中。今後、ドイツ血統の導入は確実に増加していくはずです。

日本におけるドイツ血統といえば、昔はホッカイダイヤとスタイヴァザントが代表的存在で、前者はホッカイペガサス(ダイヤモンドS、ステイヤーズS)を、後者はブラウンビートル(新潟記念)を出しましたが、いずれも種牡馬として成功したとはいえません。
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000bee/
http://db.netkeiba.com/horse/ped/000a000cea/

初期のジャパンCには、パゲーノ、トンボス、カイザーシュテルンといった西ドイツ代表馬が参戦したものの、いずれも見せ場なく後方に敗れています。
http://www.pedigreequery.com/pageno
http://www.pedigreequery.com/tombos
http://www.pedigreequery.com/kaiserstern

こうした状況があったため、当時、ドイツ血統に抱いていたイメージは、「スタミナはあるが重く、道悪が上手でスピードに乏しい」というものでした。この見立ては間違ってはいなかったと思います。エイシンフラッシュが皐月賞で3着に突っ込んできたのは、渋り気味の馬場状態の恩恵を受けた部分もあったでしょう。

ただ、ドイツ血統の特徴がそれだけでしかないなら、現在のような世界的な成功はありえません。ドイツ型馬産とは、ひと言でいえば牝系を重視した系統繁殖です。閉鎖的な環境で似たような血を重ねた結果、ほかのどの国とも違った独自のサラブレッドが育まれました。主流血統とは無縁の異質な血が凝縮されているため、どんな血統とも和合性があり、新鮮な活力をもたらすというメリットがあります。

主要競馬国の血統は、昔の時代に比べてクロスオーバー化が進み、国ごとの個性といったものが消失しつつあります。そうした時代にあって、ドイツ型馬産によって育まれた血統が、貴重な異系――つまりは活力源――として引っ張りだこになるのは自然な成り行きです。サドラーズウェルズと結びつけばその味を引き立て、サンデーサイレンスと結びつけばその味を引き立てます。そうした万能調味料のような役割を果たしてるからこそ、ドイツ血統は世界的な成功を収めているのではないかと思います。

現代における最も重要なドイツ血統は、1974年に誕生した Surumu でしょう。「スタミナはあるが重く、道悪が上手でスピードに乏しい」といった旧来のイメージから脱した、現代性を帯びたドイツ血統です。スピードがあり、堅い馬場も苦にしません。Surumu の2代母 Suncourt はテスコボーイの母でもあります。Monsun は、母の父にSurumu があってこそ世界的な成功を収めることができたのだと思います。
http://www.pedigreequery.com/monsun

ドイツ血統については、『栗山求 Official Website』の「Works」に収められた「ドイツ・ダービーの父系」をご参照ください。エイシンフラッシュの母の父 Platini についても触れています。
http://www.miesque.com/

競馬王 2011年11月号
『競馬王11月号』の特集は「この秋、WIN5を複数回当てる」。開始から既にWIN5を3回的中させている松代和也氏の「少点数に絞る極意」、Mr. WIN5の伊吹雅也氏が、気になる疑問を最強データとともに解析する「WIN5 今秋の狙い方」、穴馬選定に困った時のリーサルウェポン、棟広良隆氏&六本木一彦氏の「WIN5は『穴馬名鑑』に乗れ!」、オッズから勝ち馬を導き出す柏手重宝氏の「1億の波動(ワオ!)」、亀谷敬正氏&藤代三郎氏が上位人気の取捨を極める「迷い続ける馬券術」、夏競馬期間中WIN5を6戦3勝している秘訣を探る「赤木一騎の次なる作戦」など、この秋、一度ならず二度、三度とWIN5を的中させるための術が凝縮されています!! また「大穴の騎手心理」では、世界を股にかけるトップジョッキー・蛯名正義騎手をゲストにお迎えしました。その他、今井雅宏氏の「新指数・ハイラップ指数大解剖」や、久保和功氏の「京大式・推定3ハロン」など、盛り沢山の内容となっています!!