「GKB47って、何すかね」
「そりゃアレだろ、ゲートキーパーなんちゃらで自殺防止キャンペーン標語」
「そうなんすか。いやぁ、てっきりガンバロウ競馬47の法則かと思ってたっすよ」
相変わらずノー天気で不謹慎なアフター競馬評論家の鬼野谷。インフルだと偽って呑気に温泉に浸かってきたらしく、顔がふやけている。馬券がちっともカスらないせいか、最近、頭と無精ひげにちらほら白いものが目立ち始めたが、行った先がGKBとは縁遠い不老不死温泉。
「こう寒くちゃ、死んじまいそっすよ。オンセン、オンセン」
「収支ノートの達人オバミホも鬼怒川に行っちまったし」
「そっすよ、皇居なんかランニングしてたらアンタ死んじまうっす」
たしかに極寒のこの季節はゆったりまったりの温泉に限るが、10年ほど前になんと競馬でランニング死があった。
平成13年、1月の中山競馬。メインのサンライズSで走る予定だった7歳馬ショーザランニングが、馬場入りした直後にカクンと馬体を崩してしまったのだ。急性心不全。
「走る前にランニング死なんて寝覚めが悪りぃっすね。ところで、馬を三つ書いて、『驫』。読めるっすか? 温泉の近くにあったんすけど
「とどろき、だったと思うけど」
不老不死温泉は、日本海に面した津軽の深浦町にあるが、グーグルで検索するとその北にポツンと『驫木』という地名が見つかる。トドロギ、と読む。競馬ファンならケイバ検定2級レベル、外せないトリビアだ。
「ウマノリ、かと思ってたっすよ」
「そんな相乗りみたいな思考回路してるから墓穴を掘るんじゃないの」
今年はタツ年だからと、年明けからタツがらみの馬券に精出している鬼野谷。ショウリュウムーンが京都金杯④着・京都牝馬S②着、イケドラゴンが中山金杯⑩着、タツストロングがシンザン記念⑨着。みずのえタツの2月1日、浦和ニューイヤーCでドラゴンシップが⑩着。
2月3日の節分に、厄払いだと出かけた浦和競馬で、ウンリュウ⑤着・リュウセイオー⑪着・タツクール⑦着とことごとく討ち死にした鬼野谷。
「野天風呂で空を見上げて、ゴロ合わせ作戦はタツ切ってきたっすよ」
不老不死温泉で脳ミソを洗濯しても洗いきれない鬼野谷が繰り出す共同通信杯、さて、その狙いはコスモオオゾラだという。
「なんつったって、左回りの実績は、買いっすよ」
コスモオオゾラの左回り芝は[1-1-0-0]だ。
過去30年、左回りの芝で、④着以下の着外なし、かつ連対が2回以上あった馬は、ダート変更のH10年や右芝中山のH15年を除き[5-5-6-13]。
このうち、
(a)前走条件戦敗退、OP戦連対外、G3戦0.5秒以上、G1・2戦1秒以上敗退馬は×
(b)1600m以上を2回以上走って0勝or前走1600m未満の短距離戦使用馬は×
(c)通算成績で④着以下の着外が3回以上あった馬は×
(d)キャリア3戦以下の2カ月以上の休養馬は×
(e)キャリア3戦で着外ある馬orキャリア2戦で敗退歴ある馬は×
以上のマイナスポイント5項目をクリアしていた馬は[5-4-4-0]。
コスモオオゾラ、2走前の未勝利戦の勝ちっぷり、二番手抜け出しにビビッと惚れたという。
「幸田露伴の次女に幸田文さんっていう人がいるんすよ。名文家でね、『二番手』って随筆があるんすけど」と鬼野谷がすすめて言うくだりがこれだ。
“私は二番手を走る馬ほど好きなものはありません。先頭でもなし、三番四番と落ちているのでもなく、二番をはしっている切なさ、苦しさはどんなものだろう、と思います。追い抜こうとする気の逸り、追われている苛立ち、こんな哀れ深い、せっぱつまった姿ってあるでしょうか。(中略)二番手をあがいているものが、私のひいきなのです。
二番があがれば二番が一番。一番だったものは二番三番におちる。これが勝負です。でも、いつも常に、二番でせっぱつまって走っている馬がいるんです。一番との間をぐうっとつめてきて、並んで、そしてハナがせります。その時の二番をみて下さい。もうすでに力はつきそうになっているくせに、懸命です。(中略)美しいというか、立派というか。ぶるぶるする興奮があります。”(引用:幸田文全集第16巻、岩波書店)
「ってな一文があるんすよ。二番じゃダメですか!のセンセイはどう思ってるか知らないっすけど、二番手の馬、いいっすよね」
「それでニバンテなんて馬名の馬がいたらサイコーだね」
「それがね、爺さんに聞いたら、いたらしいすよ」
鬼野谷の爺さん、競馬歴60年の卯三郎が言うには、昭和40年ごろに阪神競馬で走っていたらしい。さすがにニバンテとはいかないが、ダイニエビスという福々しい馬が繋駕速歩で走っていた。ダイイチじゃないところが似てなくもない。
さらに、古くは昭和35年のコダマがレコード勝ちしたダービーにもいたという。26頭立ての下から3番人気だった馬アルバニイー。アルバ二位? 結果は二位どころじゃなく⑭着だった。
「コスモオオゾラの父ちゃんも応援したいすよ。ポストSSで導入され、種付け料が500万もしてたんすけど、今じゃ80万。SSの後継ディープ1000万とじゃケタ違いっす。ここらでガツンと親孝行してもらいたいっすよね」
「コスモオオゾラが勝ったら、どうする?」
「歌いますよ。松山千春、おおぞら二位~♪」
「それ、果てしない大空と~♪、だろ」
高橋学の「消去法シークレット・ファイル」の予想は、netkeiba.comをご覧下さい!
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