マヤノトップガン~試行錯誤の末たどり着いた差しの境地~

 変幻自在。この馬ほどこの言葉が似合う馬も少ないのではないでしょうか。ウマ娘ブームで再び脚光を浴びる名馬、マヤノトップガンです。逃げ先行差しと変幻自在な脚質を駆使してGⅠ4勝を相棒の田原成貴と挙げた輝かしきトップガン。しかし、その陰には決して一筋縄ではない、酸いも甘いもを知る競走馬生活だったと言えます。競馬王7月号の特集『ウマ娘に学ぶ近代競馬史』タイアップ企画としてマヤノトップガンの競走馬生活をふり返ってみることにします。



・プロフィール

馬名:マヤノトップガン

馬主:田所祐

生産: 川上悦夫

厩舎:坂口正大 (栗東)

通算:21戦8勝

主なタイトル

1995年 有馬記念

1997年 天皇賞(春)



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ウマ娘に学ぶ! 近代競馬史●横手礼一

ウマ娘ブームにより再び注目を浴びる名馬たち。名馬たちの「現役時代」の足跡をたどって慰安す。ファン必見の保存版です!

特集は「2歳戦とローカルで年間収支を整える」。終わってみると年間収支に大きな影響を及ぼしがちな「2歳戦」と「ローカル」について、豪華執筆陣が攻略法を伝授します。

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亀谷敬正×馬場虎太郎
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ウマ娘で学ぶ! 近代競馬史●横手礼一
POGファイナルジャッジ●伊吹雅也/栗山求/竹之内元/横手礼一/吉田竜作/編集下Mウマ娘的POG指名馬●シンヤカズヒロ
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<目次>

1.馬体はダート馬だったマヤノトップガン


2.ひと夏越えて覚醒の秋、年末のグランプリ制覇

3.苦悩の96年。気性難が現れGⅠ1勝に終わった

4.圧巻の末脚はまさに「トップガン」差しに替わって現役最強馬へ


1.馬体はダート馬だったマヤノトップガン

 マヤノトップガンは父:ブライアンズタイム 母:アルプミープリーズ 母父:Blushing Groomという血統。血統的に見るとロベルト×レッドゴッド系ということで米国色の強い配合です。ただ、母父ブラッシンググルームは欧州でのスタミナも持っていたので、確実にダートタイプというわけではありません。もちろん「芝への適応力」も光っていたといえます。

 陣営も馬体や体質などを鑑みて、まずは脚元に負担の少ないダート短距離からのデビューを選んだようです。デビューは4歳(旧表記、現3歳)の年明けになりました。鞍上は武豊騎手。このレースでは1番人気に推されるものの5着。その後も惜しいレースが続き、勝ち上がったのは4戦目、2勝目は日本ダービー当日の中京500万下(現1勝クラス)の1700mでした。これは結果として「適性外」だったといえるでしょう。しかしながら2勝も挙げたのは1700mであることに加えて潜在能力は確かなものだと確信した陣営は芝中距離に照準を合わます。そして、マヤノトップガンの潜在能力は秋に爆発することになります。



2.ひと夏越えて覚醒の秋、年末のグランプリ制覇

 夏に900万下(現・2勝クラス)のやまゆりSを勝って勢いに乗ったマヤノトップガンは、秋のクラシックに向けて神戸新聞杯・京都新聞杯に連続して出走し連続の2着。菊花賞への優先出走権を得て菊花賞へ向かいます。菊花賞ではダービー馬タヤスツヨシが不調で人気を下げ、皐月賞馬ジェニュインは天皇賞(秋)へ進んだため押し出されるように3番人気に。なお、1番人気はオークス馬のダンスパートナー、2番人気は京都新聞杯を制したナリタキングオーで、1番人気のオッズが4.7倍の大混戦となっていました。

 レースでは先行策をとり、じっくりと前を見ながら2度目の坂越えで一気にスパート。4角で先頭に立つと最後は1 1/4馬身差の勝利。勝ち時計の3:04.4は当時の菊花賞レコードでした。ゴール後田原成貴騎手が十字を切って投げキッスというデットーリ騎手さながらのパフォーマンスも話題になりました。コンスタントに使われてきたマヤノトップガンはついに才能を爆発させたのでした。しかし、人は言いました。「これはフロックだと。」

 その言葉が届いたのか届かなかったのかはさておき、マヤノトップガンは古馬戦線でも爆発した才能を十二分に発揮します。坂口調教師が「(菊花賞の)レース翌日から、カイバをしっかり食べてくれているので」と熟考して送り出したのは年末、クリスマスイブに行われた有馬記念。12頭立てながら1番人気は女傑ヒシアマゾン、二番人気は復活が待たれるナリタブライアンとメンバーは豪華で、ヒシアマゾンは6番人気13.0と穴評価になります。しかし、逃げてレースの主導権を握ったマヤノトップガンはそのまま一度も先頭を明け渡すことなく逃げてGⅠ2勝目。田原騎手も投げキッスでキザに飾りました。その日の中山競馬場は「レコード馬がフロックなわけないか」そんな低評価を悔しがる人で溢れかえったということです。

 この活躍で異例となる「上半期は条件戦で走っていた馬が年度代表馬」という栄冠に輝き、一気にGⅠ戦線の主役に躍り出たのです。



3.苦悩の96年。気性難が現れGⅠ1勝に終わった

 一気にGⅠ戦線の主役となった96年、マヤノトップガンの独壇場に待ったをかけたのは有馬記念4着に敗れたナリタブライアンでした。その年の初戦となった阪神大賞典で4コーナーから壮絶なたたき合いを演じたマヤノトップガンとナリタブライアンは最後の最後までお互いが譲らない展開になりました。結果はナリタブライアンの根性が勝りアタマ差の2着に敗れましたが、この勝負は今も語り草となっています。

 惜しくも敗れたマヤノトップガンではありましたが、その評価は揺るぎのないもので、続く天皇賞春もナリタブライアンの2番人気と高評価でした。誰もがナリタブライアンとマヤノトップガンの2頭で決まると思っていたものの、マヤノトップガンはかかり気味に4角で先頭へ。直線はムチを打っても伸びず、5着と芝ではじめての馬券外に沈みました。勝ったのは2強から離された3番人気だったサクラローレル。マヤノトップガンはまたも敗北してしまったのです。その後は宝塚記念に直行、ここではメンバーも希薄であったことから抜けた1番人気に支持されました。直線の入り口で先頭になったマヤノトップガンは持ったままの「堂々たる」勝利。しかし、ライバル不在のため最強の証明とはいきません。マヤノトップガンと陣営はもどかしさを抱えたまま秋へと向かうのでした。

 秋初戦のオールカマーもかかり癖が出て5着、初の東京コースでのレースとなった天皇賞(秋)でも伸びきれず2着。暮れのグランプリ有馬記念は直線でじりじりと後退して7着に惨敗。サクラローレルに勝利を許す展開になりました。このころを知る人に話を聞くと「マヤノトップガンは終わった」という声も聞こえ始めたと言っていました。期待を大きく裏切ってしまった96年。しかし、マヤノトップガンが真の主役に踊り出るのは97年なのでした。



4.圧巻の末脚はまさに「トップガン」差しに替わって現役最強馬へ

 マヤノトップガンのハイライトは97年でした。「打倒ライバル」を掲げた97年、初戦の阪神大賞典は折り合いがついて3コーナーから捲っていくと直線では楽々と先頭に立ちます。実況の杉本清アナウンサーが「トップガン楽勝!楽勝ムード、トップガン楽勝!!」と連呼するほど持ったまま差が広がる圧倒的な勝利で初戦を制するのでした。

 そして迎えた天皇賞(春)、1番人気に推された骨折明けのサクラローレルとマヤノトップガン、マーベラスサンデーで三強対決と謳われました。マヤノトップガンは2番人気でしたが、筋骨隆々な輝く馬体は誰が見ても「本格化した」とわかる馬体で臨んでいたのです。人馬一体となった「秘策」を内に秘めて昨年の雪辱に期して臨だレースは、直線マーベラスサンデーとサクラローレルが他を寄せ付けない異次元の叩き合いを演じる中、落ち着いて追走開始。叩き合いの結果を多くの人が見守る中「大外から何か一頭突っ込んでくるぞ!トップガンだ!」と杉本清アナウンサーの実況が轟きます。大外を驀進してきたトップガンはついにサクラローレルとマーベラスサンデーを交わし先頭でゴール板を通過しました。3強が余すことなく力を出し切った「世紀の一戦」はマヤノトップガンの勝利。その勝ち時計は3:14.4はライスシャワーが記録した従来のタイムを3秒更新するレコードでした。この時計は「未来永劫破られないのではないか」とも言われる時計だったのです。(この時計は06年にディープインパクトが1秒更新、17年にキタサンブラックがさらに0.9秒更新しました。)

 しかし、この激走の反動なのでしょうか、屈腱炎を発症しその後は一度も走ることなく引退。通算21戦8勝2着4回。GⅠ7戦4勝という安定感がありながらかかり癖などの気性難に苦しめられたマヤノトップガンは「現役最強」のまま翼を畳んだのでした。


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マヤノトップガンが再び注目されてネット競馬さんのランキングも上位にランクインし続けています。ウマ娘効果は絶大ですよね。

個人的に好きなレースは97年の天皇賞春。たたき合いをまとめて差し切る鮮やかさは鳥肌ものでした。96年の阪神大賞典も大好きです。

トップガンの映画もよかったですよね、マーヴェリック。

それでは!

ヒデ